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LV70「危険な書庫」

 今回に限らずいつもそうなのだ。

 蔵人は進んで行けば「なんとかなる」という奇妙な信念に基づき行動しているので、どのような状況でも意志は揺るがない。


 本人は気づいていないかもしれないが、このような異様な状況でも泰然自若、むしろ鼻歌まじりな肝の太さを見せる部分は同行する者にとって酷く心強いものであった。


 当然、アシュレイも自信満々な蔵人に対しては常にプラスな評価を与えざるを得ない。


「おおっと、アシュレイちゃん! 物陰に不審な動きが!」

「それは私の影です。それとどさくさに紛れておしりを触らないでください」


 プラス評価を打ち消しているのは本人自身であった。


「ちょっと待った。なんか、ここ空気が変だ」


 蔵人が立ち止まったのは、歩き始めていくらも経たないうちであった。気づけば周りは道具の陳列してあった場所ではなく、重たげな表装の本が立ち並ぶ書庫のエリアに達していた。


「てか天井が見えねえ。コストコみてーな書庫だ」


 見上げれば首が攣りそうなほど異常に高い天井までの棚にギッシリと本が並べられている。

 不自然なほどの広さと空間が存在していた。


「ここを作ったやつは変態だな」

「しかし、これは。書棚が倒れてきたら助かりませんね」


「また、アシュレイちゃんはそーいう縁起でもないことを言う」


 蔵人が苦笑いを浮かべた瞬間、かすかであるが無尽蔵に書を蓄えた棚がかすかに身じろぎした。


「な、なあ、聞こえたか」

「はい」


 ふたりは顔を見合わせると手を繋いだままダッシュした。幸いにも運動能力に関して両者は拮抗しているので、バランスを崩さぬままスピードを速めることができた。


 つむじ風のようにふたりが駆けたあとを、塔のように聳えていた書棚が次々と崩落して地響きを立てた。


 溜め込まれたエネルギーが一気に放出されて叩きつけられたように、落下した書物は耳を聾する轟音を四方に響かせて腹の底まで大きく揺さぶった。


「だあっ」


 アクションスター顔負けの動きで書庫ゾーンを駆け抜けた蔵人は、ほとんど転がるようにしてアシュレイを抱き抱えたまま安全地帯にすべり込んだ。


「うわぷっ。アーブなかったあ」


 後方には濛々と崩落した書物が見えぬような濃い埃の霧が立ち込めていた。


「クランド!」

「うぴっ?」


 気を抜いていた蔵人は背後にいたアシュレイに襟首を掴まれて引き倒された。同時に、異様な風切り音を立てて、重たいなにかが蔵人の首筋のあった場所を通過した。


「はっ」


 間髪入れずアシュレイが修道服の裾が捲れ上がるほどのハイキックを放っていた。

 重たげな音が鳴ってなにかが床に転がり落ちた。


 ――こりゃ寝っ転がってる場合じゃねーな。


 地面に落ちたのは左右にページが開かれた本であった。

 だが、それは普通の本ではなかった。


「なんじゃこりゃあ」


 本はとれたての魚のようにビチビチと床で跳ねて生臭い猛烈な臭いを放っている。


「気をつけてください。なんらかの呪物です」


 アシュレイが言うが早いか空飛ぶ本は群れを成して四方八方から飛びかかってきた。こうなると剣士である蔵人よりも体術に優れたアシュレイのほうが対応力は優っていた。


 唇を尖らせながら独特の呼気を鋭く吐き出すとアシュレイは虚空に身を躍らせた。


 アシュレイは弾けた独楽のような動きで前後左右から襲いかかってくる本を、のろのろとしたはばたきの蛾を打ち落とすような容易さで次々に仕留めてゆく。


 オーラの込められた拳や蹴りで叩かれた本は、床に落ちると断末魔の代わりのような白煙をしゅうしゅうと上げながらのたうち回り、ついには動かなくなった。


「すげえな」


 蔵人が剣を引き抜き終わったときには、戦いは終わっていた。あたりにはランプの灯りで照らし出された本たちがあちこちに散らばりながら青白い炎を出して燃えていた。


 アシュレイが構えを解くと滅せられた本の頁がバラバラと宙に舞って燃え尽きてゆく。


「先を進みましょう」

「おう、助かったぜアシュレイちゃん」




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