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LV49「恥辱と拷問」

「ふふ、アシュレイ。どちらで虐められたいか特別に選ばせてあげますわ。ああ、心配しないで。特別製の高級ポーションも用意してありますのよ。部屋の隣には医者も待機しているから、なにかあってもすぐに止血できますの。ジェイクの拷問であなたがどんな顔をしてくれるのか、楽しみです」


「外道。地獄に堕ちなさい」

「ありきたりねぇ。つまらないわ」

「ナタリヤさま、どちらをお試しになりますか」


「ナイフよ。ジェイク、その娘がどの程度まで耐えられるか楽しみです」

「では――」


 ナイフを手にしたジェイクは躊躇せずにアシュレイに歩み寄ると薄ら笑いを浮かべた。情欲の炎がたぎった瞳が一層強さを増していた。


 ジェイクは手慣れた動きでアシュレイの右太腿と左太腿にナイフを走らせた。みるみるうちに血がほとばしった。拷問の熟練者であるジェイクにとっては、本当に薄皮一枚で皮膚を破ることなど朝飯前である。この程度ならば極上のポーションを使えば痕も残らずに治癒するだろう。


 だが、混沌の魔女たちの期待に反してアシュレイは呻き声ひとつ立てなかった。唇を噛み締めながら耐えている。痛みを感じているのは事実だ。それが証拠に、全身の肌に粒のような汗が生じていた。


 ――それでもアシュレイは微動だにしなかった。


 イラついた混沌の魔女が手にした杖でアシュレイを押した。縄に吊るされたアシュレイは豊かな胸を揺らしながらぶらぶらと左右に動く。


 混沌の魔女がこれみよがしに舌打ちをした。地金が出た、とアシュレイは思う。意地を張っているのはそれがウォーカー家に生まれた貴族としての最後の拠り所だからだ。好んで貴族令嬢に生まれたわけではない。そのように生まれついたのだ。宿星がそう定めたのだ。ノワルキの婚約者になったのも家同士の話である。アシュレイはそのようにしか生きようがなかったのだ。だから懸命に、皇子に対して誠実であろうと努めた。心から奉仕すればノワルキもいつかは変わってくれると、皇帝に連なる血に流れる尊さに賭けたのだ。


 だが、すべては無駄であった。ノワルキは、心底から腐っている。所詮生まれなど判断の物差しにはならない。男として比べることもおこがましいが、アシュレイがただひとり世界で信じていいと思った、蔵人のほうがよほど人の上に立つのにふさわしいと思えた。


「いい顔できるじゃない」


 薄ら笑いを浮かべる目の前の女はまさしく外道と呼ぶべき存在だ。


 混沌の魔女が両親に会わせるといったのは嘘だろう。

 そこまでアシュレイは世間知らずではなかった。


 ただ、自分を娘のように育てて見守ってくれた執事のロムニーの姿を見れば、見殺しにしてひとりにその場を逃げるわけにはいかなかった。


 いま、この状況でもアシュレイは自分の生を諦めてはいなかった。


 混沌の魔女はおそらく自分を徹底的に嬲るだろうが、いずれは飽きる。


 そのときに天が自分を見放さなければチャンスは来るだろう。


 ふと、視線を下げると沈黙を守っていたダークエルフの少年が混沌の魔女に耳打ちをしていた。


「そう、そうですね。サンディーの言うとおりかもしれません。ジェイク、アシュレイを開放して中央広場にまで移送しなさい」


 ナイフを手にしていたジェイクの表情に驚愕が走った。


「な、ななな、なぜです。まだ、拷問は始まってもいやしないですぜ」

「いいから」

「は、はい」


 混沌の魔女に睨まれたジェイクは震え上がると手にしたナイフを取り落とした。それくらいに混沌の魔女の目には底冷えするような鬼気が宿っていた。


「どういうつもりなのですか」

「アシュレイ、あなたは痛みでは屈しない。なので、ほかの方法を取ることにしました」


「どのような手を使おうとも私はあなたに屈服するつもりはありません」


「そうですね。だから、ここであなたを責め殺すのは意味がないと悟ったのですよ」

「どういうことで――?」


「ジェイク、アシュレイお嬢さまにとびっきり美しい僧衣を着せなさい。ふふ、なにやら不服そうですね。アシュレイはこのまま広場まで運んで、その場で処刑人に汚させます」

「――!」


「だから、そのままの下着姿では困るのですよ。そう、私たちに逆らおうとしている諸侯たちは彼女を悲劇のヒロインとして祀り上げようとしているのです。だから、これから衆人環視の中で彼女を穢させ、その神聖さを落とすのです。汚れた御旗になれば振るう価値もグッと落ちるでしょう。そのために、アシュレイは美しく気高く、荘厳でなければならいのです。染みひとつない初雪が泥靴で踏み躙られたときこそ、人はその汚さに顔を背けるのものです。さあ、準備を始めなさい。痛みよりも精神を壊すことがどれほど恐ろしいか、この娘に教えてあげましょう」




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