LV45「カタコンベ」
「クランド卿! 危険であるが貴殿ならばきっとできると信じているぞ!」
感極まったウィルが蔵人の両手を握ると満身の力を込めて上下に振った。
「ぐああっ。なんちゅー馬鹿力だ。ほ、骨が」
「軍務長、戦闘前から負傷させないでください」
ともあれ、作戦は決まった。
地下墓地から贖いの塔に通じる秘密の通路を抜けて奇襲が成功するかどうかに作戦の要諦は占められ否応なしに力が入る。
「クランド卿! この四人は騎士団の若手の中でも、もっとも腕が立ち機転が利く! 貴公に従うよう言い含めてある。是非とも役立ててくれ!」
そう言ってウィルはクレイグ、ジャレッド、スペンサー、ルーファスという若き騎士を蔵人に引き合わせてくれた。
「クランド卿。わたしはみなのまとめ役でクレイグです。本作戦を成功させて帝国に正しい秩序と教えをまっとうさせるのが本願です。よろしくお引き回しのほどを」
「おう。ま、肩の力を抜いていこうや」
初代城主の墓地のすぐそばには苔むしたいまにも崩れ落ちそうな建物があった。
蔵人と二十名の騎士たちは、建物の中にあった地下に続く秘密の扉を開くと、勇躍、薄暗い地下通路へと降り立った。
「久々にダンジョンって感じだな」
蔵人は手慣れた仕草で松明に火をつけると、先陣を切ってかび臭い通路を進んでゆく。
もっとも、まともな道とはいえなかった。人間ひとりがようやく進める程度の彫り抜かれた穴である。数十年、数百年も経っていそうな階段はほぼ原形を留めておらず、気を抜けば足を滑らせて、どこまでも落ちていきそうな恐怖感があった。
「ほっ、と。ようやく階段が終わったか」
蔵人がそう思ったのも束の間、今度は闇の向こうにくねくねと曲がりくねった道が延々と続いていた。
足元は天然自然の赤土だ。
その上、異様な起伏に従って上り下りがうにょろうにょろといつまでも続く。
このようなダンジョンは慣れない人間が行動すると、まず、時間間隔が失われ、わずかな手持ちの灯火器具の乏しい光にストレスを与えられ、実際以上の体力と気力を消耗させられる。
それは、昼日中では雄々しかった騎士団の青年たちから遅効性の毒のようにじわりじわりと元気を失わせていく。
二十を超える松明があるので蔵人からいわせれば十二分に灯りが確保されており、不安になる要素は少ないのであるが、ダンジョン独特の湿度と籠った空気が彼らの気分を陰鬱に塗り潰してゆく。
小一時間も進むと、通路の幅が広がり、四人ほどが並んで歩ける程度になった。
「う、うわっ」
「なんだ、どーした。おっ?」
騎士のひとりが異様な呻き声を上げたので蔵人は松明で通路の側面を照らす。そこには、すべてが頭蓋骨で埋め尽くされた異様な光景だった。
――まあ、ありがちっちゃあありがちだわな。
冒険者でありダンジョン馴れした蔵人からすればどうってことのないオブジェであるが、ほぼ地下にもぐったことがない騎士たちからすれば、度肝を抜かれるには充分な虚仮脅しであったらしい。騎士の幾人かは額から脂汗を流しながら仕切りに神に対する祈りの言葉を唱えている。
「ずいぶんと、酷い場所ですね」
童顔の騎士スペンサーが緊張のあまり唾を呑み込みながら言った。
「集団地下墓地だろう。しゃれこうべの団体さんだ。趣味がいいとは言わねーが、ダンジョンじゃ特に驚くほどでもないぜ。と、そうこう言ってる間に集団でご歓迎だ」
蔵人たちの前方には側面から真っ白い骨を晒した骸骨剣士たちが白刃を光らせながら隊伍を組んで接近してきた。
「ザッと見て二、三十ってとこか。どうやらあちらさんにご退場願わないとこっから先は進めなさそうだな」
「ここはお任せを」
ズイと前面に進み出たのは巨漢の騎士であるジャレッドだった。縮れがかった赤髪を持つ騎士は、巨大なウォーハンマーを構え、迫りくる骸骨剣士に恐れも見せず果敢に討ちかかった。
ジャレッドの持つウォーハンマーは槌状の柄頭を持つ打撃に特化した武器であり、長さも槍ほどではなく、通路のような狭い限定された場所であってもその有効さを発揮した。
骸骨剣士の持つ武器はショートソードや薄い歯を持つ刀であり、ジャレッドが怒声を発しながらウォーハンマーを振り回すと、あっさり吹き飛んだ。
ジャレッドの脚運びは鍛錬を中々に積んでおり危なげがない。三体ほどの骸骨剣士を一度に吹き飛ばしながら、前へ前へと進んでゆく。
「よし、そこだ。頑張れ」
蔵人は一番後方に下がるとテンプレ騎士団の若き戦士たちにエールを送っていた。




