表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/103

LV44「隠密作戦」

「あれが悪党どもの巣窟の贖いの塔ってやつか」

「うむ! 外道どもの住み家にふさわしい下卑た城だ!」


 蔵人が眼下に広がる古ぼけた城を評すると、テンプレ騎士団のウィルがそれこそ城にまで届くような威勢のいい声で応じた。


「軍務長、声を絞ってください。ここは敵地です」


 副官のシオドーラが渋い声で窘める。


「これはしたり! 僕ということが、なんと愚かな! いまは作戦行動中だったな! クランド卿も気をつけるがいいぞ!」


「アンタのボリューム調節機能故障してんのか?」


 蔵人が呆れ顔をすると、シオドーラが慌ててウィルの口を両手でふさいだ。


「むがもももっ」

「黙れや」


 ドスの聞いた声でシオドーラが囁くとウィルは抵抗を止めた。


「むがも……」


 ウィルとシオドーラのやりとりはパッと見イチャついているようにしか見えなかった。


 蔵人はテンプレ騎士団と共に行動しながら、アシュレイが囚われている贖いの塔が見える場所にまでたどり着いていた。


 現在、蔵人たちが陣を構えている場所は贖いの塔よりもはるかに離れた高所である。目の前には覗き込んだだけでも目が眩みそうな切り立った崖があった。


 塔からは相当な距離がある。騎士団も斥候を盛んに出しているので、まず敵方に気づかれることはないが、用心の上に用心が必要である。だが、蔵人もウィルも気にしてはいなかった。


 山中は土地の猟師も滅多に足を踏み入れない場所であり、白昼でも異様に薄暗く隠密行動にはもってこいである。


 頭上には抜けるような青空が広がっており、現在の状況とは対照的に明るくこれからいくさが始まるとは思えないほどのどかな雰囲気が土地に漂っていた。


「んでよ、こっからはどーすんだよ」

「うむ、説明を頼むぞ!」

「小さく」


 シオドーラがぎろりと睨んだ。


「せつめいをたのむぞ……」


「はい。現在、アシュレイさまを拉致した混沌の魔女は贖いの塔に三千ほどの兵で籠っていると内部に潜ませた密偵から連絡がありました。我らは、贖いの塔にある大時計が零時の鐘を打ち鳴らしすと同時に、南門から正面攻撃をかけます」


「うむ、正々堂々と戦って見事散ってみせるのがテンプレ騎士団だ!」


「散ってもらっては困りますんで。ここから見えますように、贖いの塔は、周りをぐるりと壁で囲まれた城です。よって正面攻撃で落とすのは中々に難しいと思われます」


「そこをなんとかするのが我らテンプレ騎士団だ!」


「アホぉ! 頼むからちょっと黙ってて。軍務長が言うように、ただ真正面から攻めるのでは芸がありません、というか全滅です。それにこれからの戦いを思えば、ここで無駄に戦傷者を増やすのも、アシュレイさまを救出できないのもこちらとして困ります。そこで搦め手として、奇襲部隊を募って贖いの塔を内側から攻撃する方法を取ります」

「ほーん、どうやってだ」


「実は、贖いの塔の裏手の崖には、かつてあの城を築城した城主が造った秘密の抜け穴が存在するのです。我らテンプレ騎士団は力を尽くしてそのルートを探り出しました。それが、この近くにある初代城主の墓地です」


「こんな山の中に墓があるってのかよ」


「贖いの塔の初代城主は墓の盗掘を恐れて誰にも知られないように、山中に秘密の埋葬場所を作りました。そのカタコンベから城へ通じる抜け道が存在するのです。城がいくさに敗れて落城する際の逃げ道ですね。ここから騎士団の一手を裂いて、奇襲をかけ、贖いの塔を地下から攻撃するのです」


「うむ、ならばひとつここは僕が――」

「軍務長は騎士団を統率する役目がありますからダメです」

「なんと!」

「なんとじゃないでしょう」

「おまえらいいコンビだな」


「こ、こほん。それでですね。私たち騎士団から選りすぐりの二十名を繰り出してカタコンベを通って奇襲をかけたいのですが、クランド卿にもそちらの部隊にご助力をお願いしたいのです」

「俺が?」


「失礼ながら、あなたのことは調べさせていただきました。クランド卿は大陸からやってきた冒険者であるとお聞きしました。このような地下のダンジョンを通ってゆくのは、我ら騎士たちは不慣れ。ハッキリ言って素人です。そこで経験豊かであるクランド卿の力があれば、きっとこの作戦は成功するはずです」


「ま、綺麗なねーちゃんにそこまで見込まれちゃ仕方ねーな。俺もアシュレイをさっさと助けてやりてぇし。おっけ。おいどんに任せんしゃい」


「ふふ、クランド卿はお世辞が上手なのですね。引き受けていただき感謝します」

「まーかせて」


「それでは、カタコンベを首尾よく抜けましたら、零時の鐘を合図に我らが攻め寄せます。手薄になったところを――」


 シオドーラは片眼をつむると手刀で塔を切るような真似をみせた。


 いつもの真面目な態度と百八十度変わって実にキュートな仕草だ。


(うむ、ナイチチで俺の守備範囲外だがチャーミングだ。特別にハナマルを上げよう)


 蔵人は上から目線の無礼な格付けを心の中で行っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 星5しか付けようがない面白さは流石。 ただDHMとの時系列がわからないかな。 ネリーがカスンドの嫁になる前なのかしら。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ