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LV18「実力勝負」

「どうして私の名前を」


 目の前のアシュレイの声が上ずったことに蔵人は手ごたえを覚えニッと口元を吊り上げた。


「この硬貨に名前が刻んでるあるからさ。えーと、コイツはなんだっけっか。そうだ、聖古代文字つったか。アシュレイって読めるぜ。昨日別れた後によ、道に落ちてたのを拾ったんだ」


 蔵人はポケットから取り出した硬貨を指先で弾く。アシュレイは飛来した硬貨に紐を通したアクセサリを受け取ると唇をわななかせた。


「聖古代文字を読めるのですか? 私はお母さまに名前が刻んであるとしか聞いていません」


 仮面に隠されたアシュレイの瞳は驚愕に打ち震えていた。蔵人が拾った金貨に刻印されてある文字は古代のもので、古典の素養がある者でなくては読むことができないものだった。


「ま、俺にとっちゃただのローマ字だからな」

「なにか、おっしゃいましたか?」


「いや、ともかくだ。こっちもなんの理由もなしにアンタを誘いにきたんじゃねぇのさ。娼館に出入りしてる冒険者たちにちょっとばっかり飲み屋で奢ったら情報は取れたぜ。鉄拳令嬢なんて二つ名で呼ばれてるんだってな。ここいらあたりの田舎じゃちょっとした顔って話で、アンタの話を出せば知らねえやつはいなかったぜ」


 アシュレイは無言のままジッと蔵人に対して視線を注いでいた。最初に出会ったときとは違って確かに興味を覚えた様子でありその場を立ち去ろうとはしなかった。


「ま、ぶっちゃけて言うとだな。俺は大陸からきた。島の人間じゃない」

「ロムレス、ですか?」


「ああ、そうだ。ロムレスの冒険者ギルドに所属しててな。依頼を受けて賞金首を捜してやってきたのよ。だが、それだけに知らねぇ土地じゃツテがない。ブルトンのギルドはロムレスよりもはるかに排他的でな。紹介者もなしによそモンは加入できないんだとよ。これじゃあ移動もままならねぇし、情報も集めにくい。そこでアシュレイみてーな美女で腕の立つ相棒が必要なんだよ。おまえがいれば、俺は島の冒険者ギルドにも入れるし賞金首を捜すのがラクになる。んでもって形のいいケツも眺めたい放題でいいこと尽くめよ」


「貴方と組むことで私のメリットは?」

「俺は強いぜ。並の男を百人雇うよりもな。がはは。この俺さまがアシュレイちゃんの願いを叶えてあげるぞ」


 蔵人がそこまで言うと、アシュレイはサッとうつむいてなにごとかをブツブツ呟いた。


「あっさりと、言ってくれますね」

「ん? なんか言ったか?」


 アシュレイの呟きは小さすぎて蔵人は聞き漏らし、眉と唇を歪める。


「いいでしょう。確かに昨晩のあなたの腕は中々でした。けれど、この程度でいいという並大抵の腕の仲間ならば私には必要ありません」

「んで?」


 蔵人はニヤニヤしながら腕組みをしたまま顎をクイと小さくしゃくる。


「証明してください。貴方の腕前が私にふさわしいかどうか」


 アシュレイは半身になるとわずかに右腕を上げ、左拳は腰につけてやや身を低くした。

 しなやかの猫科の猛獣が筋肉をたわめていつでも獲物に襲いかかれる体勢を思わせる。


 事実、この距離でなんら備えなく受ければただでは済まないと蔵人も本能的にそれを悟った。


「いいねぇ、いいねぇ。さっすが鉄拳令嬢と呼ばれるだけのことはある。俺さまはフェミニストだから本来女の子をイジメるのは気が向かないんだが、じゃじゃ馬は口で言ってもわからんと相場は決まってるからな」


 蔵人は世紀末戦士のように両拳を組み合わせると、指の関節をバキボキ鳴らしてゆらりと両足を肩幅よりわずかに広げた。


 当然ながら無手の相手に長剣を使うはずもない。

 それが気に入らないのかアシュレイはスッと瞳を細めて冷え切ったよく通る声で忠告する。


「抜きなさい。私が手心を加えるとでも?」

「安心しろ。互いにステゴロでゆこう。あとで四の五の言わんさ」

「では……」


 ゆらり、とアシュレイの身体が陽炎のようにゆらめいた。


 数分後。

 蔵人はボコボコにされた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず蔵人のフェミニストぶりは筋金入りですね。
[一言] ボコボコは草
[一言] いつもの蔵人さんで安心するでござる。
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