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眠れない夜に読む短編小説集

深夜の喫茶店

作者: 四葉桜

人混み外れた路地裏の一角に佇む喫茶店がある。学生時代に1人で、あるいは、友人や恋人とよく訪れていた喫茶店。


コーヒーの香りがする店内にはいつもオシャレなジャズが流れていて、机や椅子は塗装が所々剥げているが味が出ていてそこも気に入っていた。


マスターとも顔見知りで、最近はメニュー表を渡されずに「いつものでいい?」と確認されるのみになっている。


閑古鳥が鳴いている日もあれば、満席で回れ右して帰ることもしばしば。


毎回コーヒーカップが違うので「今日はどんなデザインのカップで出てくるんだろう?」といつも楽しみにしている。


今どき珍しく全席喫煙可の喫茶店で愛煙家の憩いの場だが、初見さんは苦々しい顔をして帰ることもよくある。某大手情報サイトのレビューでは、喫煙可のせいで苦い点数をつける人が少なくはないが、常連達が満点をつけて何とか中の上くらいの点数を維持している状態だ。


場所・香り・音・味


これらが揃えば揃うほど記憶には強く残るものだ。通う頻度が多ければなおさら。


ここのマスターも変わった人で、色々な趣味を持っているらしい。


店の横にある車庫にはいつもピカピカに磨かれたスポーツカーが停めてあり、年式は古いのに経過した年数を感じさせないほどだ。


前に一度マスターに尋ねたことがある。


「マスターにとって車って何ですか?」と。


答えは確か...「人生の伴侶であり、最愛の恋人であり、可愛い子供のようなものだ」って言ってたっけ。


いつも同じ真っ黒な無地のシャツに同じ色のベストを着ていて、雰囲気のせいで誤解されやすいが、実はとっても優しいお人だと常連はみな理解している。


気分屋でクールだが、笑う時は声をあげて笑う、怒る時は静かにキレる...そんなお人だった。


そんな皆から愛されるマスターは、今はもうこの世にはいない。


昨年の11月に病気を患い、最愛の家族を残しこの世を去ってしまった。


生前から交友があった者たちは「タバコのせいだ」と笑いながらも皆一様に涙を流していたっけ。


それでも店が無くなることは無かった。


マスターの娘が店を引き継ぎ、女だてらに店を切り盛りしている。


長い黒髪を後ろで一つに束ね、父親と同じ真っ黒な無地のシャツに同じ色のベスト。父親と同じ銘柄のタバコを口元に咥えながら働く姿は、在りし日のマスターと重なるものがある。


母親に「女がタバコなんて吸ってたらお嫁に行けないよ」と小言を言われる度に「私は結婚しない」と言い返すのが恒例行事となっている。


休日には父親の車に乗りドライブに行っているらしい。


持ち主が変わっても、車の輝きが変わらないのはやはり血筋の為せるものかとも思う。


店の主人が変わってから以前よりも若い女の子を多く見かけるようになったのは気の所為だろうか?


皆一様に熱っぽい視線を向けている気がするが...きっと私の考えすぎだろう。


「いらっしゃいませぇ〜、ご注文は...いつものでいい?」


接客の時まで父親そっくりだと思う今日この頃であった。

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