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「優秀な防犯カメラのあり得ない記録映像」

第8話「優秀な防犯カメラのあり得ない記録映像」


「にわかに信じがたいな」


 地元警察署に公園管理事務所から提出された記録映像を視たセイジ・タバタの率直な感想だった。


「もう一度見直しますか?」


 電子情報管理課のコバ巡査長が、部署違いではあるものの親しいセイジが腕組みして凝視するノートパソコンの動画再生フォルダをいくつか同時に表示させて、様々な角度の防犯カメラ記録をストップさせて訊いてきた。

 コバは、少し筋肉の鍛え方が不足気味な華奢な体ながら、端正な顔立ちにちょっとレンズ面積の少なめな細いフレームのメガネをかけた奥で鋭い眼光が光っている。


 今は内勤の若干軽装な制服に身を包んでいるが、警官の制服を着てなければ、男性ファッション雑誌の表紙を飾れそうなイケメンと呼んで差し支えのないルックスの持ち主である。多分、署内の抱かれたい男ランキング上位は間違いない。


「そうだなあ・・・・・・これは偽造加工処理された画像じゃないんだよな?」


「その心配はないと思います。一番解像度を上げてこの画ですから、CG技術が進歩したとは言え、現場の焼け焦げ具合の写真と物損品の痕跡は、火薬の類いではなく最近増え始めた魔術型犯罪の一種かと」


 コバの指摘は信頼できるものだ。コバ巡査長は、首都管轄下のもっと大きな都市で勤務していた経験もあり、セイジがお手上げな電子情報解析分野で高い技術を磨いてきた生え抜きの電子社会エリートだからだ。


 女性のハートを射貫くより電子機器の相手の方が少し得意なだけですとの談は、嫉妬に狂った拳銃所持許可して良いのか危ない男性署員のやっかみへの防御本能からかもしれない。


 セイジの抱えるいくつかの事案内容は、一昔前では考えられないような珍妙な暴力事件や破壊事案が、地方都市のこの街にもボチボチ増えている雰囲気がある。


「いや、疑って悪かった。公園放火騒ぎで逮捕して拘留しているハナ・マーゲドン・・・・・・二十歳にもなって夜の公園で火の玉遊びとは怖い時代だなぁ」


 セイジがぼやくのも無理はない。大人の火遊びと言う見出しの三面記事は、従来ならばもっとこう異性か同性の性的不貞行為な犯罪を指すものだった。


 昨今、警察が情報開示するより先に、一般人のネット動画投稿サイトなどから漏れた機密画像などから報道関係者が、生々しい事件発生時の動画をテレビで垂れ流すものだから、警察署内で保管している犯行現場情報とほぼ同等のものを市民の多くが濡れ手に粟な早さで掬うことができる。


 下手すると、猿からバナナを取り上げるより庶民からニュースを取り上げる方が楽なレベルだ。


 市民が切望する魔術規制法の立法も、現政権の進歩のない金か女の汚職事件などが重なって後回し気味なので、魔術と言う原始科学から派生した畑違いの技術による犯行を罰することが現時点ではできない。


 ハナ・マーゲドンなる女占い師が魔術を使って公園で一般男性に暴行したと言うので、一応、暴行未遂と器物損壊の罪状で起訴処分できないか上に相談せにゃならない。


 セイジが上申する相手のトップは、出世欲と自己顕示欲が脂肪と言う名のオブラートを「ぽっちゃりしてて可愛い」とかキャバ嬢に形容されてる豚爺。その気になって警察署と言う一本の古ぼけた大木に上った豚な輩である署長様。


 これから別件の、アル・マーゲドン変死事件の捜査も続行しなくてはいけない。


「昨夜のハナ・マーゲドンと一昨日の晩のアル・マーゲドンは養子縁組な関係だったな。病死したアル氏の唯一の遺族らしいが、遺体発見通報者のタロウさんに対し逆恨みによる暴行を働いたと供述しているのが解せないですなあ。警備会社や現場ビルのオーナーには守秘義務でタロウさんのことは公表しない約束だったから、僅か一日足らずで、ハナさんが、どうやってタロウさんを遺体発見者だと知り得たのか気になりますなあ」


「そこはそれ。セイジさんの捜査の腕と足の見せ所じゃないですか?捜査資料の解析と管理は私に任せてください。セイジさんや鑑識のみんなが集めてくださる様々な証拠物件を、より鮮明に洗っていつでも現場の再現画像などに仕上げてご覧に入れますから。まあ、私もこの女の火の玉遊びの画像を最初に見た時は、粗悪な面白加工動画かと思いましたがね」


 コバ巡査長が肩をすくめて愛想笑いしながらセイジの仕事振りをヨイショするものだから、年下のコバを生意気な小僧と見下すことなく、ついつい愚痴につきあってもらったり甘えてしまう時がある。甘えると言っても男女間の浜辺でキャッキャウフフじゃないからね?


「フォワードは俺で・・・・・・?」


「・・・・・・バックアップが私ですな?」


 二人は生まれ育った環境も教育の種類も若干違いはあるものの、困難な職務を担う戦友なのだ。セイジさんは愛する妻子に誓うことだろう。「俺にそのはない」と。


「急ぎで情報洗ってもらって助かった。参考になったよ。今度一杯おごらせてくれ」


「いえいえ、これくらい朝飯前ですよ。まあ、このマーゲドン親子の件が片付いたら、私が見つけたちょっと良いお店でロハで呑ませてもらいます」


「ふむ。気分を変えていつもと違う店とは良いかもですな。お互い安月給で忙しいからいつになるかわからんけども、約束するよ」


 そこで会話を終えてそれぞれの職務に戻ると、生活安全課のデスクに付いたセイジは、アル・マーゲドン変死事件の重要参考人であるタロウの携帯番号を控えたファイルを取りだし、最近機種変したばかりの真新しいスマホから事情聴取の日取りを連絡することにした。


 それと、帰宅の際には愛する怖い妻と反抗期に突入して小生意気を言うようになった息子に頼まれた買い物を済ませよう。


 妻に頼まれた分はセイジでもわかる食材や調味料の類い。


 対する息子の言うなんとかって言うロボのプラモは、先月の誕生日に似たようなの買ってあげた気がするが、息子は頑なに「あれは専用機!僕がほしいのは血と硝煙の匂い噎ぶ量産型!」と主張してた。


 セイジは一人の刑事であると同時に、優しい一家の大黒柱に子供の身長の分だけ傷ついている良いパパなのだ。これで良いのだ。


 ◇◆◇


 昨晩、ハナさんのおかげで判明したデス・スメル被害防止策。


 うっかりこいてしまったら直ぐ燃やす。


 言われてみれば、オナラが可燃性のメタンガスや空気の混合気体であることは、浅学なタロウでも知っていたことだった。


 殺虫剤を凌駕する速効力高過ぎなデス・スメルの威力に驚き過ぎて、ついつい失念していた。


 性器の大発見と呼んだらセクハラで裁判起こしそうな恩人のハナさんは、公園を荒らした咎で、地元警察署に拘留中らしい。


 花の命は短いと言うのに、貴重な美貌を維持する環境的に恵まれてないであろう拘留生活はタロウも同情したくなる。


「ハナさんも機転が利くのか馬鹿なのかわからないお嬢さんだったな。魔術の解約方法とかいろいろ相談したいけど、俺は俺で警察に変な目で見られてるかもしれないし、もしデス・スメルのことがばれたら、社会的に詰む感じするしなぁ・・・・・・あの爺さんが金成かねなりビルに不法侵入した理由もわからないから、警備会社から減給三ヶ月の処分で済んでるけども」


 問題は、この不景気で本業の印刷工場勤務の方が、稼働時間縮小で、タロウの財政逼迫を招く結果になってしまったことだ。


 老人変死事件の第一発見者として、印刷工場の同僚から腫れ物扱いされるわ、上司からしばらく警察の捜査に協力するようにと有給扱いとは言え出社禁止命令を出されるわで、面倒な手続きが増えた。


 この機会に、印刷工場を退職して警備会社のバイトのシフトを増やしてもらう方が、手取りの給金が増えるかもしれないが、社員登用制を利用するには、もうしばらく警備のお仕事はバイトのまま。


 それにつけても金の欲しさよ。


 タロウは酒池肉林な豪遊を楽しみたいわけじゃない。


 その、女性を物のように扱うことにも抵抗があるし、性的にムラムラしたら、週刊誌のグラビア袋とじで概ね解消できるので、痴漢を働くほど愚かじゃない。


 風俗店に通うのも先立つものが乏しいのと、好きでもない女性にサービスされる為に身銭を切る行為に魅力を余り感じなかった。


 印刷工場の仲間からは、安い男と馬鹿にされているが、それでもタロウがこよなく愛するのはドイツ産ラガービアなのだ。


 愛するラガーを呑めば、当然、オナラの元がタロウの腸内に溜まる。


 オナラが溜まると言うことは、デス・スメル発動の危険が増す。


 デス・スメルの無効化には火の気が要る。


 魔術の解約方法がわからない以上、何か火の元を常備せにゃならない。


 タロウは飲酒の習慣がある一方、成人して10年、喫煙の習慣がないからライターかマッチか、いずれにせよ手元に火打ち石すらなかった。


 銭形の親分が出かける時みたいに「おまいさん♪チャッチャ♪」てやってくれるお上さんもいないのが独身タロウは寂しい限り。


 とりあえず、お上さんに火花散らしてもらえないタロウは、オナラの気配がない内に、近所のコンビニで一番安いライターを複数個購入しようと考えた。


「うーん・・・・・・子供の頃見た記憶だと、喫煙がやめられない父ちゃんがタバコ吸うときは百円ライターっての使ってたけど、今でも百円ライターってあるのかな?一個百円だとして、何回分なんだろう?」


 問題はライターの購入代金だけじゃない。


 デス・スメル試射実験の犠牲になってもらう生き物を用意して、最低限の火力でどの程度燃やせば良いのか余所様の命に関わる重要かつ未経験な実験を重ねる必要がある。


 そりゃ義務教育課程でオナラの処理法なんて授業やってねえもん。


「小さな虫の命にも五分の魂って言うし、捕まえに行くのも面倒臭いな」


 神も悪魔も信じてないくせに、御仏の心の片鱗は見え隠れするタロウの偏った宗教観はこの際問うまい。


 いくらでも居て、邪魔かもしれない、無料で手に入る生命。


 タロウは、ふと植木鉢で息を引き取ったモンステラのことを思い出した。


「植物にも効果てきめんだから・・・・・・そうだ!あれだ!雑草!そうだよ!!!雑草なら枯らしても問題ないじゃんか!実験する相手にゃもってこいだ♪」


 無い知恵も絞って、肛門は尚絞って、三人寄らずとも何かひらめくもんだ。


 デス・スメル習得問題発生から四日目の午後の天啓。


 雑草を丁寧に根っこから採取するタロウの姿が、彼の住むアパート周辺で見受けられるようになった。










 





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