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「可燃性のそれら」

第6話「可燃性のそれら」


 ハナ・マーゲドンが放ったバスケットボール大の火球の速度は、一般人でもギリギリ避けられるかと言うくらいの勢いで、大人の野球選手が投げるストレートの平均速度時速150㎞前後で、的である親の仇目掛けて襲いかかった。


 そんなわけで、元一般人で、現在駆け出し秘密の魔術師なタロウでもなんと一発目は体をひねるように躱すことができた。タロウの立っていた場所を空しく通過して、その先の砂場遊びのエリアを爆散させたファイアーボール。


「おわー!あっぶねえ!?なにそれ?何もないところから火の玉発射できるとか、すっげえじゃん!」


 タロウのコメントとリアクションは、ほとんど魔術の素人さんのそれなので、ハナは身の危険を復讐の相手に感じてもらえて、優越感が胸の奥に鎌首をもたげた。


「あはは!この程度の魔術に狼狽えるなんて大したことない術者のようね!魔術通販サイトで割引キャンペーン中の使い古された攻撃魔術だったけど、貴様程度の雑魚には過ぎた術だったみたい♪それ!もう一回見せてあげる!そして今度こそ死ね!タロウとやら!バレーボール・ビーチ・ボール・ファイヤーボール!!!」


 親の仇討ちに燃えるハナは高揚感に包まれながら、なにやら連想ゲームみたいな呪文を唱え、またしても時速150㎞くらいでタロウ目掛けて放つ。


「うひゃー!うっわ!結構速い上に命中するとそこそこ爆発するとか!?ガスボンベみたいな魔術が実在するとか!マジあぶねえ!」


 辛くもまた体をひねりファイヤーボールを避けることに成功したタロウの背後で、今度は公園のよくわからないデザインの突起が目立つ噴水が爆散した。


「あはははは!!!消費魔力を小出しにして放つファイヤーボールに恐れ入ったかタロウ?私が父より授かった魔力は、まだまだこんな程度ではないぞ!今はまだ、星占いと恋占いとファイヤーボールしかできないけど、いつか偉大な魔術師なる父を超える魔力を得た暁には、世界もうらやむ世界一の魔術師になって見せる!さあ、これで最後だ!ミートボール・ドッジボール・ファイヤーボール!!!」


 火の気と女心って燃え上がると一気に周囲を巻き込むことがあるよね。


 ハナの高笑い混じりの連想ゲーム型詠唱攻撃魔術の勢いは、回を重ねるごとに僅かながら威力と速度が増してきている感じが、避ける側のタロウの回避能力を上回り兼ねない状況になりつつある。


 今の一撃も危うくジャージの太もものあたりをかすって火傷しそうになった。


 「あっちっちぃぃぃい!!!危ねえよマジで!!!やべえ女に絡まれた!!!ハアハア・・・・・・げふっ!なあ、俺が悪かったからもうやめようよ!」


 降参するタロウの口から泣き言とラガーの炭酸がおくびになって出たが、疲労の色が見えるのはむしろ魔力なる一般人には不思議な超自然的エネルギーを体内から絞り出しているハナさんの方だった。


「ふうふう・・・・・・その身のこなしは、ただの雑魚とはひと味違うようね。私のファイヤーボールにここまで耐えたのは貴様が初めてよ!」


「そりゃまあ、褒められたのかよくわからんけども、そのくらいの球を外灯の明るさで動く相手にぶつけるのは簡単なことじゃないと思うけどね。なあ、肩で息するくらい疲れたんなら、一回冷静になってお互い話し合おうよ。俺も燃やされたくないし、下手すると風向き次第じゃハナさんの方が危ないんだからさ?」


 心優しい穏健派の末端労働者にして正義と死の魔術師タロウ・ライトニングの言葉は、この哀れな復讐鬼となってしまったうら若き乙女の未来とその身を案じてのことだった。


 それを挑発と受け止めるくらいそこそこ魔術に長けたハナは、先ほどまでの優越感もどこへやら。


 復讐したい相手に同情されることほど屈辱的なことはない。


 とりあえず、攻撃魔術の連続詠唱で精神的に疲労が溜まったのは確かなので、ハナも復讐対象に少し冥土の土産話をしてやって、気力が戻る時間稼ぎを企んだ。


「ふん!我が父を葬ったからと大した自信ね。貴様ごときいつでも焼き殺せるんだから少しだけ昔話をしてあげる。あれは、もうずいぶん前。私が物心つくかつかないかのあどけない少女だった頃。私は、実の両親に捨てられて、行く当てもなく、自分に何が起きているのかすらわからないくらい何も知らなかった時。アルお父様が私を見つけてくれた・・・・・・」


 いきなり身の上話を始めたハナさんの一人称が『我』から幾分大人しい『私』に変わっていた。どうやら、こちらの話し方がハナ・マーゲドン様の本来の姿らしい。


 黒マントがくそ怪しい雰囲気で台無しにしている美貌も相まって、語り手のハナさんは薄幸の美少女と言った風になった。


「ほうほう。それで、それからハナさんはどうしたの?アルお父様は義理のお父さんだったんだね?世の中いろいろ苦労が絶えないからお互い大変だよね。まあ、立ち話もなんだから、そこのベンチでゆっくりお話を聞かせてくださいな」


 タロウは、ふと視界に入った少しペンキの剥げた古びた背もたれのないベンチへと、ハナさんを誘った。


「うん。それでね?よく聞いてね?アルお父様は、親とはぐれた私を交番まで連れて行ってくれてね・・・・・・」


 ハナさんは、復讐に燃えていた憎悪の感情と、己の不幸な身の上話のギャップで意気消沈し、すっかり大人しくなって、素直にタロウが腰を下ろしたベンチの左隣にそっと腰掛けて、若干、幼児退行気味に話しを続けた。





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