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「今日も元気だオナラが臭い」

最終話「今日も元気だオナラが臭い」


 爆破テロの傷痕生々しい警察署の外壁に一匹のヒグラシが「カナカナカナ・・・・・・」と風情溢れる音をお腹から発して鳴いている。


 地方都市とは名ばかりの田舎町を管轄とする警察署の威信と建物が、たった一人の魔術師のテロ行為で、世間体的にも耐震強度的にもズタボロにされたままだった。


 それは現場検証や事件の全容解明に追われる警察の落ち度ではないにせよ、地域住民の生活不安からの視線を遮るには頼りない風景である。


 時の国家元首が緊急記者会見などで、新たなテロの形に対し無力無策であるとマスコミに叩かれている様子をテレビやSNSなどのメディアが垂れ流す。


 そんな状態が数日から数週間にわたって続くと、市民も飽きてきて、魔術師?なにそれ美味しいの?ってな雰囲気を醸成させてしまう。


 つまり、蒼天のジゴワットとやらが大暴れして、被疑者死亡で、証拠らしい証拠もなく、魔術ギルドなる団体の構成員が法の蚊帳の外で何か企んでも、誰も何もできないし、関わりたくないと言う本音がダダ漏れな社会が露呈してしまった。


 でも、事件の中心でいろいろ漏らしたり漏らさなかったりの死の魔術師にも平穏が戻りつつあった。


「やあ、今日も草むしり頑張ってるね!今時、見上げたもんだよ屋根屋のふんどしってな若者だ。タロウくんは!」


 タロウの住むアパートの大家さんが労いの言葉をかけてくれた。


「いえ、仕事が減ってしまって、どうせ暇だから自分の手の届く範囲だけでも何かお役に立てればなと思いまして」


 こんな死の魔術師兼末端労働者でも社会の一員として認めてくれるご近所さんから温かい眼差しを向けてもらえるのは、今のタロウにとって気休め程度だが、素直に喜べた。


 高等裁判所に何度か出廷した結果、アル・マーゲドン変死事件は、第一発見者で拘束に失敗したタロウに非があるとされてしまったが為、業務上過失致傷の罪で書類送検されてしまった。


 警備会社がタロウの裁判に良い弁護士をつけてくれたので、執行猶予がついて、仮の自由を手に入れたものの、本業の印刷会社勤めは首になり、辛うじて残った仕事と言えばダックス警備のアルバイトくらいだった。


 人生、物事が悪い方へ転がり出すと、不幸は続くもので、デス・スメルを購入させられたマジックショップは、裁判が落ち着くのを待ってタロウがクレームを入れに足を運んで見ると、ご近所の悪評も祟ってお店のあった雑居ビルのシャッターが降りて「貸店舗オーナー募集」の張り紙しか残ってなかった。


 前科持ちになった経緯に同情してくれたアパートの大家さんは、まるで如来の到来かと言うような『家賃二年間半額』と言う粋な計らいをしてくれた。


「まあ、人生いろいろあるさ。タロウくんもあんまり根を詰めずに気長にボチボチ生きなさい」


 大家さんの大雑把なアドバイスを背中で聞き、俺の大腸にものっぴきならないものが詰まってますと漏らすことなく「そういうもんですかね?」とタロウは気のない返事をしつつ、デス・スメル実験サンプル採取の手を休めず続ける。


「タロウくんは若いから、まだやり直しがきくよ」とおっしゃる腰の曲がった後期高齢者な大家さんは、愛用の電動アシスト自転車に跨がり「とにかく無理しなさんな」とちょっと離れた自宅へ引き返して行った。


 結局、一人残されたタロウの腸内フローラに死に神を宿したままの日常が当たり前になって、慣れって怖いなと思うようになった。


 デス・スメル実験日記の大学ノートがそろそろ終わりのページが近づいている。


 タロウの弛まぬ努力の甲斐もあって、一回当たりのオナラ配分が、かなり安定した量でこけるようにはなった。誰に自慢する特技なんだ?と、履歴書どころかお見合いサイトにも紹介できないしょうもないことをマスターしてしまった。


 しゃがんで作業を続けていると、また催してきた。


 自棄酒のラガーとお昼に食べたコンビニのツナマヨおにぎりの残滓がデス・スメルの在庫様になったようだ。


「さて、今夜も警備のバイトがあるし、仮眠前に一回実験しておきますか」


 タロウは、周囲に誰も居ないものだと思って、思わず声に出して内緒の私生活を漏らすも、肛門は何も漏らさず両腕を天高く背伸びいっぱい立ち上がった。


「・・・・・・実験て、何の実験してるのタロウ?」


「ん?ああ、ちょっとデス・スメルの処理実験をねって、その声は!?」


 中性的なウィスパーボイスの問いかけの主は、家庭教師か保険の外交員のような服装に黒マントと言う、この季節柄ちょっと暑苦しい衣装を纏って、タロウを眩しそうに眺め、若干火照った顔で色っぽく佇んでいた。


「あは♪ま~だ、オナラの魔術なんかと契約してたんだ?おかしな人ね?タロウ・ライトニング」


 まるで少女のような屈託のない笑顔の『紅のハナ・マーゲドン』の売り言葉にタロウは、少しむっとしつつ「仕方ないだろ?解約の仕方がわからない『アマチュア死の魔術師』なんだからさ」と内心照れながら答えた。


「で?ハナさんは親の仇討ちにご足労ってワケかい?」


「ああもう!前にも言ったでしょ?それはもう済んだ話だって。それに私は貴方が思っているほどしつこい女じゃないわ。今日もあっついわね~!」


 そりゃ暑いだろうさ。黒は熱吸収率高い色だもん。でも、自宅アパート近くで熱中症患者搬送騒ぎはごめん被りたい。タロウは、自宅の冷蔵庫で冷やしてある麦茶を思い出した。


「立ち話もなんだ。デス・スメルを使ってもないのに死人が出ても困るし、何か冷たい物を用意するから俺の部屋に寄ってけよ」


「・・・・・・私が非力な女魔術師だからって変なことしないでしょうね?」


 夏の日差しに絶賛加熱中のハナさんは、コンビニの肉まんみたいな湯気を出しそうな雰囲気で、腕を組んで、独身女性らしい警戒感を露わにした。


「しないしない!こっちは性欲以上に危険なモンを発散せにゃならないからね!」


「まったく。魔術師の風上にもおけないヤツね!バッカみたい!貴方と会話してると、いつも調子狂うわ!」


 それはお互い様だと言いたいが、とりあえずタロウは、痴話喧嘩の最中でも、日課の草むしりの合間も、バイト中も、とにかく風上のおけないヤツなのは確かだった。


~完~






 



拙いものですが、我慢はよくないので思い切って書きました。タロウさんの奮闘記というか日常を取り戻す為の続編「またしても風上におけないヤツ」もよろしくお願いいたします。

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