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「待ち人来たりて」

第11話「待ち人来たりて」


 窓や入り口ドアの鉄格子を気にしなければ、ちょっとしたカプセルホテルと言った雰囲気の、割と居心地は悪くない留置場の一室で、ハナは身柄を拘束されていた。


 愛用の魔法のステッキを取り上げられては、紅のハナ・マーゲドンといえど魔術で逃亡を図ることも出来ず、ただただ暇を持て余し、備え付けのベッドに腰掛け、備品の聖書を読み返してみたりしてた。


 ダビデとゴリアテの対決の話が面白いわねえと、キリスト教徒たちの信仰を集める工夫に少し関心を持った頃、一人の警官がハナを呼び出した。


「ハナ・マーゲドン。面会だ。出なさい」


 身寄りを失ったハナに面会人など現れるはずがないので、「誰かしら?」と頭にハテナマークが浮かぶ。


 改めて手錠をかけられ留置場を後にしたハナが連れて来られた面会室で、彼女を待っていたのは、親の仇なタロウ・ライトニングその人だった。


「面会時間は15分です」


 ハナを連れてきた警官が短く告げてドアを閉め施錠された。


「はあ、どうも。よ!ハナさん。元気してた?」


 タロウは、どこか憎めない加害者を相手に気さくに挨拶した。


「何よ?仇討ちに失敗した私を笑いに来たってワケ?タロウ・ライトニング」


 と、不満を露わに面会者同士を隔てるアクリル板の向こうでツーンとそっぽ向いて強がるハナだったが、内心では自分のことを気にかけてくれる人間が現れたことにささやかな喜びを感じた。


「減らず口を叩ける元気くらいはあるみたいだね。親の仇討ちは、まだ諦めてないって風なのは残念だけど、アルさんの事故死に関しては、俺が悪かった。こんな場所で今更だけど、心から申し訳ないって謝るよ。直ぐには赦してもらえないだろうけど、本当にこの度は申し訳なかった。この通り!」


 手を合わせ頭を下げるタロウのお詫びの言葉に「はい、そうですか」と素直に受け止められない、鼻っ柱の強いハナさんの性格が災いしてしまう。


「今更、こんな状況で謝られて、私の怒りが収まるとでも思った?貴方がいくら謝っても、もうアルお父様は戻ってこないの!貴方のふざけた術で私も殺せば良いのよ!」


思いだし怒りで声を荒らげるハナさんにも困ったものだと、女性のヒステリーに顔を引きつらせるタロウさん。


「ちょ!ちょま!その俺が変な術を使えるってことは内緒にしてくれってお願いしただろ?それに、さっきオナラはトイレで済ませてきたから、ハナさんを口封じしようなんて気は、毛頭ないって!」


 ハナさんが今にもデス・スメルに関して口を滑らせやしないかとヒヤヒヤしながら、小声で抗議するタロウ。

 

 まあ、タロウも言われて気がついたが、さっきトイレで無駄撃ちしたデス・スメルを温存して、面会の機会を利用して、両者を隔てるアクリル板の会話口の穴越しに、密室殺人を完全犯罪的に行おうと思えばできたなとタロウは悪魔の囁きを聞いた気がした。


 ただし、タロウはデス・スメル解約相談相手を失うことの方が、今後の人生の明暗を分けると思っていたので、ハナさんには口止めだけして、早く釈放されてもらいたいと考えている。


「ふん!こんな私にわざわざ会いに来たってことは、貴方の馬鹿げたあれを警察に喋ってないか調べに来たってワケね?まあ、敵に塩を送るつもりはないけど、あれに関しては私から何もばらしてないから安心してくれて良いわ。は~あぁ・・・・・・私もお人好しよね。親の仇を前に目的を果たせないばかりか、庇って前科持ちになっちゃうんだもん」


 タロウが昔見たロボットアニメの赤い敵キャラが「己の不幸を嘆くが良い」とかほざいていたが、不幸なのはタロウもハナさんもお互い様で、とてもじゃないが勝ち誇る気にはなれなかった。


 それどころか、このハナさんは自分の社会的地位と言う株が大暴落するリスクを選んでまで、タロウとの約束を守ってくれていた。


 タロウは、目の前の見目麗しい小股の切れ上がる良い女魔術師を一時でも疑ってしまった不徳を恥じた。べ、別にムラムラしてるワケじゃないんだからね!っと股間のせがれもツンデレ気味に起立を自重してる。


「・・・・・・実は、その、俺もハナさんがあれに関して何か警察にばらしたかもって約束破ったか疑心に駆られて面会をお願いしてしまったんだ。本当に申し訳ない!もう、ハナさんに対して何をどこまでお詫びすれば良いかわからないくらい反省してる!ごめん!」


 椅子に腰掛け両膝に両手をついて改めて深々と頭を下げるタロウの態度に、ようやくハナも「もう良いわよ。済んだことよ」と謝罪を額面通り受け取ることにした。


「で?私に用事ってそれだけ?」


「まあ、ぶっちゃけるとそれだけだけど、ハナさんがもし釈放されたら相談したいことがあって・・・・・・」


 と、タロウが話しを進めようとしたその時。


 ドーン!!!と警察署の建物に轟音が響き渡った!


 何かの爆発音か!?地震か!?雷か!?火事か!?親父か!?


 いや、待て轟音巻き起こす怪獣な親父を持った覚えはない。


 慌てふためく警察官とタロウを余所に、面会室の中でハナ・マーゲドンは不敵な笑みを浮かべ「やっと来てくれたみたいね」とつぶやいた。


 周囲の署員などの怒号や悲鳴が聞こえる内容から、今の轟音は警察署の外壁を爆破しようとした何者かの犯行らしかった。


 緊急警報が鳴り響く署内。ドタバタと現状把握に奔走する署員たち。


 タロウも面会室の中で、慌てて立ち上がり「何だ!?何だ!?何事!?」とすっかり狼狽してしまった。


 一人冷静なハナさんが、目を白黒させているタロウの様子を鼻で笑って「迎えが来たから、貴方とはこれっきりよ」とアクリル板の向こうでニヤリと声をかけてきた。


「これっきりってどういうことだよ!?」


 まるで彼女に捨てられた彼氏みたいな台詞を吐いてしまうタロウに対し、ハナさんが切れ長の目を細めて言う。


「今の爆発は魔力によるものよ。魔力速報で呼んでおいたの。貴方は知らないでしょうけど、魔術ギルド内で一番危険な男にして、今は亡き偉大な父=アル・マーゲドンの随一の弟子。『蒼天のジゴワット』が私を迎えに来てくれたのよ!」


(そうてんのじごわっと?)


 耳慣れぬ人物名を宣言されて面食らったタロウは、ハナさんが何を呼んだのか、この時、全く把握できてなかった。タロウの脳内も腸内も大混乱である。






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