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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第四章

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90話 奪還

<これまでのあらすじ>

組織を壊滅させられた暗殺者の男「名無し」は、仲間の男の最期の言葉をきっかけにその男の故郷に向かう。

そこでボケ老人と少女クロエと家族になる。

ある日、聖女になる試練を受けているエミリアと出会う。

クロエとエミリアのおかげで失われた感情を取り戻していく名無し。

エミリアは聖女になるために聖都に向かうことになり、名無しは手助けをすることに。

そこで第二王子アーロイスによって病にされ軟禁された王太子の息子ライアンと護衛の老騎士フレドリックと出会い共に聖都の中央教会を目指す。

無事辿り着き、ライアンは教会に保護され、エミリアは聖女となった。

だが、王位を簒奪した第二王子アーロイスはエミリアを花嫁にしようと動き出す。

監禁されたエミリアを救おうと、エミリアの侍女カーラはライアンに頼み、救援の手紙を出して貰う。

そうして、反アーロイス側の陣営はとうとう動き出した……。


「ぶるるるる」

「ごめんな、もう少しでリュッケルンの街だ。堪えてくれ」


 走り通しで馬も大分疲れているが、名無しはようやく聖都の手前の街までたどり着こうとしていた。


「また来るとは思わなかった」


 街に入った名無しは宿に馬を預け、ベッドに倒れこんだ。


「……ライアンか」


 ライアンを連れ去るのは別に構わない。ただ、そこに同時にエミリアもいると思うと、名無しはもどかしい思いがするのだった。


「ちっ」


 名無しは軽く舌打ちをすると、何か食べようと部屋を出た。

 聖都の入り口にあたるこの街はこの日も沢山の人が訪れ賑わっている。


「お土産はいりませんか?」

「あ?」


 急に声をかけられた名無しはぶっきらぼうな声で答えた。


「あ、ご、ごめんなさい……」


 見ると赤毛の女の子が、名無しの切れ長の目に怯え泣きそうになっている。

 その子はどこかクロエに似ていた。


「……すまん。土産か」

「そうです……これ……ユニオールの象徴の花です」


 それは白い待雪草のブローチだった。

 エミリアと一緒に見たあの花だ。


「……貰うよ」

「えっ、いいんですか?」

「ああ」


 名無しはその小さなブローチに金を払うと、少し機嫌を直して歩き出した。


***


 日が暮れて、夜の帳が聖都を包み込む。

 ユニオールの城壁には、見張りの松明が燃えている。

 見張りの兵は退屈そうに、松明台に薪をくべていた。

 もう半刻ほどで交代の時間だ。

 早く仕事をあがって、酒を飲みたい。そんな風に思った瞬間――兵士の意識は刈り取られた。


「ふう……」


 名無しはそっと気を失った男の体を横たえる。

 前回、聖都に潜入した時は自分の痕跡を一切残さなかった名無しだが、この後することを考えると、それも無意味だと考えた。

 兵士の気がつかないうちに、名無しは鉤をひっかけ、壁をするすると降りていった。


 風に揺れる木々の音しかしない静寂の中を、名無しは走る。

 やがて、あの中央教会の門が見えてきた。

 自分とエミリアの道が完全に分かれたあの場所。

 それが、再び交わろうとしている。

 ……少し、遠回りはしそうだが。


***


 あの手紙は無事についただろうか。

 ついたのであれば……何かが起こるはず。

 ライアンはそう思うとうまく寝付けなかった。


 ――カツン。


 何か音がした。カーラだろうか。

 悪い知らせでなければいいが……とライアンは寝台から身を起こした。

 枕元のランプを片手に、窓に近づく。


「カーラ」


 小さな声で呼びかけてみる。

 すると返事の代わりに憎まれ口が飛んできた。


「なんだ、彼女でもできたのか?」

「お前……!」


 窓の外には名無しが立っていた。


「手紙を受け取った」

「では……エミリアを」

「いや、その前にお前をここから連れ出す」

「な……」


 教会の中でも常に見張りの僧で警戒されているここに易々と侵入しておきながら、なにを言っているのだとライアンは思った。


「お前はそれでいいのか」

「ああ。ライアン、大将の出番(・・)だそうだ」

「出番……なるほど」


 ライアンはその言葉で、フレドリックの意思を読み取った。

 とうとう戦が始まる。

 そしてその戦の旗印として自分が立つ時が来たのだ、と。


「……という訳で窓からできるだけ離れろ」

「何する気だ」

「この鉄格子を吹っ飛ばす。ああついでにそのランプの火をくれ」


 ライアンは内心戸惑ったが、名無しに言ってもしょうがないと言うとおりにして耳を塞いだ。


 ――ドオオンという派手な音がした。


 火薬の匂いがする。


「ライアン! 行くぞ!」

「ああ!」


 部屋のドアの外では人が騒いでいる気配がする。

 ライアンはひしゃげた鉄格子の間から外に出た。


「アル、頼んだ」

「ああ」


 追っ手のくる前に、とライアンはアルとともにその場を後にしようとした時だった。


「ライアン様っ!?」


 甲高い声がして、ライアンは振り返った。


「カーラ」

「お退きなさい! ライアン様から離れて!」


 カーラは名無しを賊かなにかと勘違いしているようだった。


「違うんだ……。私はここを出て行くんだ」

「え……」


 その時だった。名無しはカーラに向かって何かを投げた。


「これは……ブローチ?」

「ここの聖女さまに渡してくれ」


 そう言われてカーラはハッとした。

 この男が……ライアンの言っていたエミリアを絶対に守るという男なのだと。


「いい子で待ってろってな」


 名無しはそう言うと、ライアンの手を掴んだ。


「行くぞ」


 もう隠れるつもりもない名無しは、正門から正面突破しようとした。


「待て!」


 警備兵たちが立ち塞がるが、ライアンに当たるのを恐れて攻撃ができないでいる。

 代わりに魔法障壁を張って止めようとしたが、名無したちにとっては好都合だった。


「な……シールドが効かない?」

「魔力無効の防具か……? ばかな」


 その隙に名無しは剣を振るって突破口を作る。

 ライアンはそこを無我夢中で走っていった。


「はぁ……はぁ……」


 ユニオールの街を出る頃には、ライアンはボロボロになっていた。


「アル! もう少しおとなしくできなかったのか? ……まあいい」


 ライアンは空を見上げた。

 朝焼けの気配を浮かべた空は、ライアンの目の色のような澄んだ紫色だった。


お待たせしました

再会します

次回更新は来週土曜日目標です

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