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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第四章

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89話 内なる強さ

 名無しはフレドリック達の潜伏していく街まで行くと、その定宿を訪ねた。


「よぉ」

「……アル? どうした。また村に何かあったのか?」

「いや、今回は届け物だ」


 名無しはそう言って、ライアンからの手紙をフレドリックに渡した。


「何……? これは……」


 フレドリックとイライアスはその手紙を覗き込んで、絶句していた。


「アーロイスとエミリアが婚姻を……?」

「ああ。その所為でエミリアは聖女から還俗させられるらしい。今は軟禁状態だと」

「厄介だな……」


 イライアスは顎髭を撫でながら、じっと考えを巡らせているようだった。


「アル。お前はこれからどうする」


 その間にフレドリックは名無しにそう問いかけた。


「とにかくエミリアに会いたい。……彼女がどう考えているのか聞いて……返答次第では連れ出すつもりだ」

「アル、一応形ばかりはエミリアは教会の庇護下にいるんだ。それを無理に連れ出して、お尋ね者になる気か?」

「俺は別にかまわんが」

「だが、村のみんなは? あの子はどうなる?」

「……」


 名無しはフレドリックにそう言われて言葉を詰まらせた。

 そう、もう名無しは何も持っていなかった頃とは違う。捨てられない、守るべきものがあるのだ。


「待て待て……二人とも」


 その時、ずっと黙っていたイライアスがようやく口を開いた。


「これは好機かもしれない。フレドリック、ようやく我らが蜂起する時が来た」

「な……?」


 フレドリックはその言葉にポカンとした顔をした。


「まず、教会からローダック王国に身柄を移された時点でエミリアを悲劇の花嫁に仕立て上げる。それと同時にこれまでの疑惑と魔王討伐の告発記事を出し、我らは王にふさわしくない彼を玉座から引き摺り落とすべくクーデターを立ち上げるんだ」

「そうか! ではライアン様を迎えに行かなくては」

「だが……我らは死んでいるはずの身だ。正面から行くのはまずい」


 イライアスはそこまで話すと、視線を名無しに向けた。


「アル。ライアン様を秘密裏に中央教会から連れ出せるか」

「……やってみる」

「タイミングはエミリアが王城に入ってから後だ。それでも?」

「……エミリアは強い。大丈夫だ」


 根気よく名無しの側で寄り添ってくれたエミリアの芯の強さを名無しは信じていた。

 例え絶対絶命の時が来てもきっと強くあってくれると。それは名無しの願いだった。


「分かった。ではライアン様奪還の為に動いてくれ。これを活動資金に」


 イライアスは金貨を取り出すと、名無しに握らせようとした。


「いらない」

「だが……」

「ただ……そうだな。無事にアーロイスを倒したなら、その時は……」


 名無しはフレドリックとイライアスに耳打ちをした。


「……なるほど、いいだろう。私からロドリック殿下に注進しよう」

「ああ。じゃあ行ってくる」


 そのまま名無しはマントを翻し、窓から姿を消した。


「とうとう……この時が来たのか」

「そうだ、フレドリック。我らは我らのするべき事をするぞ」

「……ああ!!」


***


「エミリア様……またこんなに残して……」

「ごめんなさい、食欲がなくて」


 カーラはエミリアの朝食の膳を下げながら、ため息をついた。

 エミリアは日に日に弱っていく。

 手紙を出して二週間以上たったが何も起こっていない。


「これ以上は、立ち入りを禁じられています」

「おだまり!」


 その時だった。扉の向こうから声がする。


「どうしたんです……あ、アビゲイル様……」


 そこにいたのはもう一人の聖女候補だったアビゲイルだ。


「なぜここに……」

「エミリアと話したいの。通しなさい」

「で、でも……!」


 今のエミリアを誰かに会わせる訳にはいかない。

 カーラはそう思って、アビゲイルの前に立ちふさがった。


『動くな』

「えっ……」


 ところがアビゲイルの言葉を聞いた途端、体が固まってしまった。


「こ、これ……闇魔法……?」

「意外だった? ごめんなさいね」


 そうしているうちにアビゲイルはエミリアの部屋に入っていってしまった。


「……どうしたの、カーラ」


 その騒動の声はエミリアにも聞こえていた。

 ベッドから立ち上がったところで目の前に現われたのはアビゲイルだった。


「ごきげんよう、エミリア」

「……アビゲイル」

「きっともうすぐにローダック王国に輿入れするだろうから、その前に顔を見に来たわ」

「……」

「ひどい顔色ね」


 アビゲイルは勝手に椅子に腰掛けると、じっとエミリアを見た。


「……これは私の独り言だから気にしないでね」

「なに……?」

「私には王太子殿下の後妻の話があったのよ。でも王太子殿下は無くなったお妃様を愛してらして決して次の妃を娶ろうとしなかった。それもあって私は教会に来たの」

「……」

「そしてあなたと聖女の座を奪い合った。貴族派の筆頭としてね。……でもあなたは早々に聖女を辞してアーロイス摂政王太子の元に嫁ぐ。皮肉なものよね」


 そこまで言うと、アビゲイルは立ち上がった。


「エミリア、あなたには政治の能力が足りなかったわね。まっすぐなだけでは人は動かせない。私は私の道を行くわ。……あなたも。自分の道を歩きなさい。くじけずに」

「もしかして、慰めてくれているの?」

「……ただの独り言だと言ったでしょう」


 アビゲイルはぴしゃりとそう答えると、さっさと部屋から出て行った。


「……そうね。アルも……きっとそう言うわ。くじけるなって」


 エミリアはアルと交換した思い出のメダルをそっと指先で撫でた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やはりアビゲイルさんは良きライバルでしたかっ!!
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