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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第四章

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86話 待望の視察

 その日、エミリアが目を覚ましたのはまだ日も昇りきらない早朝だった。


「あら……私ったら」


 窓の外がまだ暗いのを見て、エミリアは自分が思ったよりも昂ぶっているのを感じた。

 今日はとうとう例の伝染病の発生地域への視察の日なのだ。

 そしてそれは、エミリアが聖女になってから初めて民衆の前に姿を現す日でもある。


「しっかりしなきゃ、エミリア」


 エミリアはさっそく身支度をすると、部屋の小さな祭壇の前で祈りを捧げた。

 この祈りで少しでも人々が救われるようにと願いながら。


「あら、エミリア様。もう起きてらっしゃったのですか」

「気が張っているみたい」

「そんなんじゃ向こうに付く前にくたびれてしまいますよ」

「うふふ、本当ね」


 カーラはちょっと呆れたようにして、鞄を持った。


「では参りましょうか」

「ええ」


 こうしてエミリアとカーラは伝染病の発生地域の診療所に向けて旅だった。

 馬車に揺られること二日。

 国境を越えたそこに二人は降り立つ。


「ここが……」

「ようこそいらっしゃいました。私がここの責任者の司祭です」

「よろしくお願いします」

「ささ、奥へ……」


 エミリアは診療所の奥に案内された。


「病人はどこですの?」

「それが、もうここでは面倒を見切れなくなって街の広場で診察をしています」

「なんですって」


 広場など、ベッドもなければ屋根もない。


「死なない程度に治療をして、家に帰すのが精一杯なのです。看護する者の数が圧倒的に足りなくて」


 司祭もこの現状を嘆かわしく思っているのが伝わってきて、エミリアは次の言葉が継げなくなった。


「……中央からはここまでの現状という報告はありませんでした。ショックです」

「いえ、こうして聖女様を寄越してくださったのです。ありがたいことです」

「ではさっそく治療をいたしましょう」


 エミリアは臨時の治療所になっているという広場に向かった。


「うう……う……」

「げほっげほっ」


 そこは死臭のようなよどんだ匂いに満ちていた。病人たちの咳き込む声や、呻き声がひっきりなしに聞こえて来る。

 エミリアは思わず足がすくんでしまいそうになるのをどうにか堪えて壇上に立った。


「皆様、神の赦しと癒やしを信じ、この辛い病を乗り越えましょう。神霊よ、この者達の病を癒やし給え」


 そしてそこから大規模回復魔法を発する。


「ああ……楽になっていく」


 エミリアの光に触れた者が次々と癒やされていく。


「ああなんて素晴らしいのでしょう」


 日々、病の者の苦しみを目の当たりにしていた司祭は、その姿に涙を浮かべた。


「さぁ、まだまだ病人の方を連れてきてください」


 エミリアはそうして魔力の続く限り、病人を癒やしていった。この世界で随一と言って良い回復魔法の威力は凄まじい。

 その日のうちに広場にいた病人をエミリアはすっかり癒やしてしまった。


「ご苦労様でした」

「いえ……まだまだ病の勢いは衰えていないはず。明日もがんばりますね」


 エミリアは翌日もひたすら治療にあたった。その次の日も次の日も。


「はぁ……はぁ……」

「エミリア様、少し休んでください」


 連日、大規模な回復魔法を連発しているエミリアはさすがに疲労の色が見えてきた。

 カーラはそんなエミリアが心配になり、温かいハーブ茶を差し入れた。


「はちみつでうんと甘くしましたから、元気がでますよ」

「ありがとう……」


 エミリアはそんなカーラの心遣いに感謝をしつつハーブ茶に口をつける。柔らかな甘みが体に染み渡るようだ。


「それにしても、エミリア様がいくら癒やしても人がへりませんね」

「聖女様の噂を聞いて国中の病の者が押し寄せているようで……」


 司祭も心配そうにしている。


「そう、ならもっとがんばらなきゃ」


 エミリアは疲労で重たい体を椅子から持ちあげた。


「私の癒やしを求めて人々は集まっているのですから」


 そうしてエミリアはまた限界まで回復魔法を使った。

 だが、救いを求める人の列は途切れることのなく、日々広場を埋め尽くす結果になっていた。


「どけ! 俺が先だ」

「この子を助けて!」

「金ならいくらでも払う!」


 やがて広場は嘆きの声と怒号に埋め尽くされていく。

 どす黒い感情が人々を支配し、それはどんどん高まっていった。


「あの聖女、もったいぶってやがる」

「もっと先に来てくれればこんなにならなかったのに」


 そんな声まで聞かれるようになった。


「あの人達……エミリア様は頑張っているのに!」

「カーラ」


 カーラが苛立ったように反論すると、エミリアは彼女を制した。


「病の人がいなくなるまで癒やし続けるしかないわ」


 そうエミリアは言い、再び壇上に立った。


「精霊よ……」


 エミリアの癒やしの光がその手から溢れる……その時だった。


「中央教会の犬め! 病人を見捨てやがって!」


 ひどく酒臭い匂いを振りまいた男が剣を振り回しながら壇上に躍り出た。


「きゃあああ!」

「取り押さえろ!」


 悲鳴と怒号が入り交じる。暴漢はあっという間に取り押さえられたが、エミリアは腰を抜かして座り込んでいた。


「あ……あ……」

「エミリア様! とりあえずこっちへ!」


 カーラに引き摺るようにされながらエミリアは診療所に逃げ込んだ。


「……なんてこと!」


 エミリアが男の憎しみに燃えた目を思い出し、ぶるりと身を震わせた。


「エミリア様……今日はもう休みましょう」


 カーラはそんなエミリアの背中をなぐさめるようにずっとさすっていた。


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