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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第四章

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85話 淀み

大変お待たせいたしました。

「わ、わぁーっ」

「どうしたの! エシュ!」

「む、虫……」

「ああ本当ね」


 バッタに腰を抜かしたエシュに駆け寄ったクロエは、それをひょいとつまむと遠くに投げ捨てた。


「平気なの?」

「うん、ぜんぜん」


 そんな二人の様子を、マイムはハリシュの隣でじっと見ている。


「ねぇ、じい様」

「なんだい、マイム」

「ここはいいところね……」

「あ、ああ」


 よそ者の自分達にも、この村の者はよくしてくれる。しかし、それは表向きに他ならないことをハリシュは知っている。


「よ! 村長!」

「や、やあリック……」

「森に狩りにいったら木イチゴが山ほど成ってたんだ」

「わぁっ、綺麗」

「女の子は好きだろう?」


 そう、それは表向きに過ぎない……。ハリシュは唇を噛んだ。

 そんなこんなで村はいやになるくらい平和だった。




「王家の横暴! 小さな村に迫った悲劇……いいタイトルだ。この記者くんは文才があるな」


 刷り上がった新聞の紙面に口づけをするイサイアスにフレドリックは冷たい視線を投げた。


「中身のほうも二倍三倍に誇張してある」

「たいしたもんだ」

「そうでなきゃ人々の印象に残らないだろう」

「こうやってちまちまと足をひっぱるしかないとは……」

「まあ耐えろ。あと少し向こうがボロを出したら魔王討伐の告発記事を出す。……そしたら戦争だ」


 できればすぐにでも攻め込みたいフレドリックだったが、そう言われてなんとか堪える。利も義もない戦争はどうせ負ける。


「ライアン様はどうしているのか……」


 フレドリックは窓の外を眺めて、遠くにいる小さな主人のことを思った。




 その頃、王城ではアーロイスが不機嫌そうな顔でフェレールを睨み付けていた。


「つまらない三文記事でごさいます」

「そんなものはどうでもいいのだ」

「は……?」


 その記事を誰が書かせたのかはわからない。アーロイスはめぼしい犯人の名を口にする。

 

「ヴィンダールの一派だろう」

「ああ、あの派閥は金山の財源をちらつかせて大きな顔をしていますな。しかし、これは」

「まったくどいつもこいつもつまらないことで足をひっぱろうとする……」

「お妃様のことでございますか」


 アーロイスは前々から大貴族ヴィンダール公爵の令嬢との婚姻を迫られていた。


「あのヴィンダールと縁戚になれば安泰やもしれませんぞ」

「馬鹿をいうな。あの男は欲深い。下手に身内に入れれば食い荒らされかねない」

「……はぁ、しかし摂政王太子として伴侶がいるべきというのももっともであります」


 そんなフェレールをアーロイスは怒鳴りつけ、足元の肉人形を蹴り上げた。


「一体誰の味方なのだ!!」

「はっ、申し訳ありません」

「う、ううう~」


 壊れたように呻きながら肉人形が部屋を這い回る。アーロイスは自分と同じ顔をしたその体を何度も蹴り上げる。


「……ならば探してこい」

「は?」

「この私に……我々に都合のいい花嫁を探してこいと言った。フェレール」

「花嫁でございますか」

「ああ。国のどの勢力にも属さず、高貴で美しい……そんな花嫁がいればな」


 アーロイスはもう一度強く肉人形に蹴りを入れると、部屋を出て行った。


「……我が主君にも困ったものだ」


 肉人形以外誰もいない部屋で、フェレールは呟く。


「そんな都合のいい花嫁がいる訳……いや……待てよ」


 フェレールは自分の思いつきに手を打つと、慌ててアーロイスを追って部屋を出た。


***


 数日後、遠く聖都の中央教会では、エミリアが隣国の大使と謁見していた。


「我が国にも病人が流れてきております」

「まあ……」

「どうか聖女様の慰問をお願いしたい。そうすれば民の心も救われましょう」

「え、ええ」


 奇病の広がりはさらに勢いを増しているようだ。治療師や教会の者の治療があれば命までは奪われない病だが、いかんせん絶対数が少ない。


「……貴重なお話をありがとうございました」

「いえ。こちらこそ」


 大使の去った後、エミリアは部屋を出て教主の元へと駆け込んだ。


「教主様!」

「……おやエミリア様、どうされました」

「病が広がっています。今度こそ私を慰問に行かせてください」


 何度も却下されてきた。けれどもここまで状況が悪化して聖女が何も動かないというのもおかしい。エミリアが強い語調でそう教主に詰め寄ると、教主は意外にも笑顔で答えた。


「宜しい。さっそく準備しましょう」

「え……よろしいのですか」

「ええ、前々から希望されていたでしょう?」

「それは……はい」


 エミリアは拍子抜けして自室へと戻った。


「おかえりなさいまし……どうされましたか?」


 部屋に帰ると、カーラが出迎えてくれたがエミリアの戸惑った表情を見て顔を曇らせた。


「あ……その……疫病が流行っているでしょう? それの慰問が決まったの」

「ああ! 良かったじゃありませんか」


 カーラの顔がパッと明るく輝く。


「ずっと希望されていましたものね、良かったですね」

「え……ええ」


 あれだけ希望しても通らなかったのに、あっさりと今回は許可が下りたことにエミリアは少し引っ掛かっていたが、カーラの顔を見て思い直した。


「皆さん喜んでくれますよ!」

「そうね」


 そう、教会内の事情など病の人達には関係のないことだ。自分は自分のできることをしよう。エミリアはそう思って顔をあげた。


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