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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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75話 収穫

「いよいよか……」

「そうだよパパ」


 名無しは感慨深げに畑を眺めていた。そよそよと風に連れる黄金の麦。ヨハンの家の貴重な現金収入である麦の収穫が今日始まろうとしていた。

 村中の人々が畑に出て鎌を振るっている。


「さー、いくよー!」

「ああ」


 畑の端から三人は麦を収穫していった。


「デューク、こう引くように鎌をつかってごらん」

「こうか?」

「そうじゃ」


 最初は覚束なかった名無しも、コツをつかんで次々と麦を刈取った。


「おーい、調子はどうだ?」

「リック、あと三分の一くらいだ」

「手伝うよ。うちは一段落したから」


 リックの家は人を雇って刈取りをしていた。早くに終わった彼はわざわざ手伝いに来てくれた。


「リックありがとう!」


 クロエも彼に感謝を示す。そして四人がかりでようやく麦を刈取った。そこから売る分と自分の家で食べる部分を分ける。売る分の麦はリックが回収していった。


「これを干したら粉にするんだよ」

「そうか……」

「その前に落ち穂ひろいしよう。ほら、刈取ったときに落ちた分も勿体ないから」


 クロエは畑に落ちた穂を拾いはじめた。名無しもそれに習って穂をひろう。


「……これ、ひとつ貰ってもいいかな」

「別に一個でも二個でもいいんじゃない?」

「ん」


 名無しは落ち穂をいくつか手にすると、ヨハンとクロエに断って作業から外れた。そして向かったのは自室のベッドである。ベッドにひっかけたメダルの紐に落ち穂をひとつくくりつける。そして家の裏に。


「……バード。これはお裾分けだ。あの世で食ってみろ。多分うまい」


 ただの掘り返した地面にしか見えないそこに眠るバードに名無しは落ち穂を捧げた。そしてそのまま彼は教会へと向かった。


「クロエと来るのはちょっと恥ずかしくて……ごめんな」


 名無しはそう言いながらデュークの墓にも落ち穂を供えた。そして小さな声で囁いた。


「奪う事しかしなかった俺が育てることを覚えた。あんたのおかげだ」


 デュークの最後のうわごとが名無しをこの村へと導いた。名無しはそれに感謝の言葉を述べた。


「じゃあ、麦の乾燥をしなければならないみたいだからもう行くな」


 名無しは小走りにヨハンの家へと帰った。


 それから麦が乾燥すると、村の水車小屋は大行列になった。名無しとクロエは鉢一杯の麦を手にその列に並ぶ。


「楽しみだなぁ……パパもがんばったもんね」


 この麦を粉にしてこれから雑穀や胚芽も混じらないまっさらな一番粉を作り、それでパンを焼くのだ。まともな竈のないヨハンの家は他から借りなくてはいけないが。


「ふわっふわで美味しいんだよ!」

「ああ、だろうな」


 さっきから興奮気味に何度もそう繰り返すクロエに苦笑にながら名無しはその頭を撫でた。


「クロエ、順番がくるぞ」


 そうして水車で製粉され、村のおかみさんの力を借りてパンが出来上がった。


「ほっかほか! はやく食べたいね」


 クロエは足に羽根の生えたようにうきうきと家路を急ぐ。


「お爺ちゃん! パンだよー!」

「おお、今年もこれが食べられるのか」


 三人は家の中に入ると、スープとパンだけの食事を取り始めた。ただ、今日はふかふかの焼きたての白パンがある。

 クロエはにこにこしながらパンを二つに割った。ふわっとそこから湯気が立つ。


「いただきます!」


 三人はパンに齧りついた。雑味のないパンは別の食べ物みたいだ、と名無しは思った。


「おいしーい」

「ああ美味いな」

「今年はデュークがいるから収穫も多かった。良かった良かった」


 名無しは日々の農作業の集大成であるパンを食べながら、一家の団らんを楽しんでいた。




 その頃……王城の奥のアーロイスの部屋でアーロイスは四つん這いにさせた肉人形の上に座って酒を飲んでいた。


「護衛の一人が休暇から戻らない。どう思う」

「うう……う……」

「お前に聞いてもしかたないか。……で、フェレールどうだった?」

「どうもイライアスの領土に逃げ込んだようです」

「ふん……面倒だな」


 大臣を辞したとはいえイライアスは有力貴族である。大っぴらに探し回る訳にはいかない。


「あの護衛は討伐隊の参加者だ。直接討伐の様子を見たわけではないが……こちらに

不信感をもってイライアスについた。という所か」

「ですな……我々の不審動きがイライアスに伝わったとみて良いでしょう。彼自身も剣の腕も立ちますし、イライアスが反乱軍を立ち上げるとなれば厄介です」

「あの男を呼べ」

「はっ……」


 そうしてフェレールが連れてきたのは流浪の民の男ハリシュであった。


「お前に殺して欲しい男がいる」


 アーロイスがハリシュにそう命じると彼は首を振った。


「……殺しは契約にはございませぬ。それに土地も貰っておりませぬ」

「ハリシュ!」


 それ激昂したのはフェレールである。


「貴様、異民族の分際で……!」

「よい。では土地があればよいのだな?」

「それでも殺しは一族の盟約に触れます……ただそれに近いことならばできます」

「ほう?」

「彼には毎日悪夢を見せる呪いをかけます。常人ならばいずれ衰弱して死ぬかと」


 ハリシュは俯きながらアーロイスに提案した。アーロイスはそれを聞いてにやっと笑った。


「それではさっくりと殺した方が親切というものだ」

「一族の掟ゆえ……」

「ははは、面白い。やってみろ。ついでにイライアスも同じ目にあわせてやれ」

「は……」

「それができたら……そうだな……王家の直轄地をくれてやろう。辺境の端でよければな」


 ハリシュはそれを聞いて慌ててアーロイスに跪いた。


「は……必ず……やりとげまする……」


 そうしてハリシュは影のように姿を消した。

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