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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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74話 真相

 名無しの視線にサイラスは身を縮ませた。あの洞窟の手前でふいにフェレール大臣に肩を掴まれた時を思い出したのだ――。


 狭く、やっと一人が通れる程の狭い洞窟を前にサイラスは自分の耳を疑った。


「今……なんと」

「お前はここに残れ、と言ったのだ。我々が全滅した場合、後方の軍に知らせるものが居なくては」

「何故です、それならば大臣が残られたほうが……!」

「私はもう覚悟している。それに……見届けねばならない。とにかくお前が残れ」

「ですが……!!」


 サイラスが、フェレールの後ろに立っている男に気付いたのはその時だった。


「……」


 いつの間に……とサイラスは不可解に思った。この砂利道で足音も立てずにそこにいる男。それは名無しだった。


「戦力ならば、この男を追加する。安心せい」

「はあ……」

「とにかく命令だ」


 サイラスは国に仕える騎士である。強く言われれば従うほかない。


「わかりました……」


 すると、それまで無言だったアーロイス王子が口を開いた。


「……サイラスよ。この私が魔王を成敗する」

「は……」


 今度こそサイラスは洞窟の前に跪いて待機の姿勢に入った。その横を仲間達が通り過ぎていく。


「残念だったなサイラス。手柄を立てられなくて」

「お前の分も活躍してやるよ」


 そんな彼らの姿を見たのは……最後だった。しばらくして洞窟から出てきたのは血にまみれた名無しだった。


「ひっ!?」

「……」


 名無しはチラリとサイラスを見ると、そのまま無視して走り去った。サイラスはがらんどうのようなその目にぞっとしたのだった。


「サイラス! やったぞ! 魔王を倒した!」


 しかし、その後すぐに聞こえてきたアーロイスの歓声にその不気味さはかき消されてしまったのだった。




「――それで?」


 フレドリックはサイラスの顔を覗きこんだ。


「……無事に王子と大臣は出てきました。が……他の者は討ち死にした、と」

「本当か」


 フレドリックは今度は振り返って名無しに聞いた。すると名無しは頷いた。


「一応、な」

「一応とは?」

「俺達が洞窟の奥にあった空間には『魔王』ってやつが生えていた」

「生えていた?」

「ああ……なんというか……」


 洞窟の奥、その時魔王は復活の直前であった。透明な繭の中から半身を出し、モグラのように入り込んだ人間をせせら笑っていた。


「そこにアーロイスの側近が次々に攻撃を指示した。……今思えばあれは実験だな」

「……どういう事だ? アル」

「まず、通常の剣が通らないことを確かめて、魔法で攻撃させた。それも無駄なら最後はアーロイスの持っていた聖剣の出番……って訳だ」

「そ、その攻撃でもしや……」


 サイラスは一段と表情を暗くした。


「他のやつらはその時に反撃にあって死んだ。で、問題なのはそれを見てアーロイスがびびりあがってしまった事だ。聖剣を鞘から抜けもしない。それで俺の出番、という事だ。俺はアーロイスが動けなくなったら剣を奪って魔王と殺せと言われていた」

「つまり……」

「俺なら死んでも痛くないから。俺は代わりに殺す係で、お前はアーロイスが魔王を倒したと証明する係という事だろうな」

「……」


 サイラスは名無しの証言を聞いて黙り込んでしまった。


「ふーん。やっぱりアーロイスは王の器ではないなぁ」


 二人の話を聞いたイライアスは呆れたように声をだした。


「二人とも、この後記者くんがやってくるが同じ話をしてくれるかな。実に表現力に優れて正義感にあふれた頼もしい奴だ」

「ええ……でも……私はもう城には戻りません。あのアーロイスの元で働く事はできない……」

「そうか。では私の領地に妻子を連れてくるといい」


 イライアスは労るようにサイラスの肩を叩いた。




 それから記者が来て聞き取りをして名無しは宿を出た。フレドリックが追いかけてきて名無しに頭を下げた。


「ありがとう、アル」

「……いや」

「この話が世に出回ったら……アーロイスはお前をもっとやっきになって消しにくるだろうな」

「そんな事をさせないで王座を取り戻すんだろ、フレドリック」

「……ああ!」


 名無しは力みながら頷いたフレドリックを見て薄く笑った。


「クロエと爺さんくらいなら担いでどこにでもいくさ……じゃあな」


 名無しはそうフレドリックに告げるとその街を後にした。




 その頃……ローダック王国の北の端の村道に、男が倒れていた。そこを通りかかった村人は露骨に嫌そうな顔をした。


「また行き倒れだ」

「埋めた方がいいかな」

「うーむ、ところでこいつら北の国境を越えてきたのか」

「最近多いな……向こうでは病気が流行ってるらしいぞ」

「怖いなぁ……司祭様を呼ぼう」


 近隣の国で起こった疫病が、徐々に広がりを見せていたのだ。北方の国々から病を恐れて逃げ出した難民の中にも病が広がり、このように行き倒れる姿が頻繁に見られるようになった。


「早く、マール地方への慰問を実現させてください!」


 この状況にエミリアは会議で思わず声を荒げた。


「許可しかねる。『聖女』に危険が及ぶ可能性がある」

「回復魔法で十分に治る病です。今行かなくてどうするのですか」

「……お言葉ですが、当地は今無法地帯となっております。危険なのは病ではなく人間です」


 エミリアは唇を噛んだ。もっと自分が早い段階から強く主張し、慰問に訪れていればここまで人心が荒れる事もなかったのではないか……。エミリアはただただ自分の力の無さを悔いていた。


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