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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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70話 すれ違い

「もう一度、お願いします」

「ですから、ミール地方への訪問は認められません」

「なぜです? 困って居る人が今も沢山いると聞いていますが?」


 上位の僧侶の集う会議にて決定された結論にエミリアは下唇を噛んだ。


「光拝教を国教とする各国との繋がりを今は盤石にする時期です」

「しかし……それでは、肝心の人々が救われません!」

「中央教会からは回復魔法の得意なもの達の慰問団を向かわせます。それで問題はありません」


 自分の言い分はまたも通らないのか、とエミリアは嘆息した。エミリアを聖女に担ぎ上げた一派もその場にいたが彼女を擁護する事はなかった。


「ローダック王国にヘタな借りができたばかりです。エミリア様」


 アーロイス襲撃は向こうから不問、という返事は来ていたがだからといって中央教会で起こった事件という事に変わりはない。


「……わかりました」


 会議を終え、エミリアはとぼとぼと自室へと戻った。


「カーラ」

「あっ、エミリア様……どうでした? 慰問は決まりました?」

「駄目だったわ」

「そう……ですか……」


 エミリアは弱々しくカーラに返事をすると、ソファに座った。明らかに落ち込んでいるエミリアを見てカーラも肩を落とした。


「残念ですね……」

「しかたないわ。次の機会を待ちましょう」


 エミリアはそうカーラに答えはしたものの、歯がゆい思いで一杯だった。


「あ、そうだ……これライアン様からお返事です」

「あら……ありがとう」

「頼まれた手紙も私の実家経由で出しておきました」

「ごめんね、手間をかけさせて」

「いいんです。お世話になった方なんですよね」


 カーラはことさらに明るく振る舞った。そしてエミリアにライアンからの手紙を手渡した。


「手紙……読みたいから少し一人にしてくれるかしら」

「はい」


 カーラが部屋を出て行き、パタリとドアが閉まるとエミリアはライアンからの手紙を開いた。


『私は多少の不自由はあるが、問題はない。ただ、なんの情報もなく退屈だ。(・・)には迷惑をかけたと思う。浅慮であった。そちらは大丈夫だろうかと心配している』


署名のない文面にはエミリアを気遣う文章が綴られていた。文面からとても十一歳とは思えない気丈さを感じなからエミリアにはカーラを通じて言葉を伝える方法があるばかりだ、と心の中で嘆いた。


「慰問にも行けない、男の子一人救えない……私は……」


 エミリアは窓の外に広がる木立とその向こうのユニオールの歳の街並を見つめた。


 その視線のはるか遠く、ハーフェンの村に一通の手紙が届いた。


「パパ! 見てっ! 大変大変!」

「なんだ? バッタか?」

「それもそうだけどー! 手紙がきたの!」

「……エミリアか?」


 名無しが手紙と聞いて、連想するとすればエミリアしかいなかった。手紙を持って駆けてきたクロエからそれを受け取ると、名無しは早速中身を開いた。


「パパ、早く読もう! 読んで!」

「……えーっと『クロエちゃんお手紙ありがとう。私は元気です。聖女として人々に尽くせるように日々過ごしています』……」


 それは当たり障りのない内容だった。だが、クロエはそのエミリア直筆の手紙を大事そうに見ている。


「いい匂いするー」

「……そうか?」


 名無しは便せんに鼻を近づけた。確かにかすかにふわりとグリーンフローラルの香りがした。その匂いには覚えがあった。リュッケルンの街でエミリアが買った軟膏の匂いだ。


「あ、これはパパ宛かな?」


 クロエは封筒の中のカードを取り出した。そこには『懐かしく思い出します』とだけ書いたカードが入っていた。そこに描かれているのは待雪草の絵が描かれている。


「それにしても返信がよく届いたな」

「ここから来たみたい」


 クロエはくるりと封筒を裏返した。それは王都の城下町の住所……カーラの実家の商会の住所だった。


「クロエ、この手紙は大事にしておけな。エミリアは随分手を尽くして届けてくれたみたいだ」

「うん、もちろんだよ」


 クロエは大切に手紙を畳むと家に帰って宝箱にしているキャンディーの空き箱にしまった。


「また会えたらいいのにな」


 ちょっと寂しそうに、そう呟きながら。

 一方、そんなささやかで嬉しい手紙とは違った手紙とにらめっこしているのはユニオールの街の片隅にいるフレドリックだった。


「……うむ」

「どうしたフレドリック」

「うわっ」


 突然イライアスに後ろから話しかけられたフレドリックは思わず手紙の上に多い被さった。


「こ、これは……私信で……」

「言い訳はいい。見せてみろ」


 イライアスはフレドリックから手紙を奪うとそれに目を通した。


「……これは」

「何かアーロイスの立場を崩すのに突破口はないかと……だが、これは……」

「無駄足かもしれないが……会ってみよう、フレドリック」

「ああ……」


 フレドリックに届いた手紙はかつての剣の教え子だった。王国の騎士団に所属する騎士である彼にフレドリックはそれとなく王城の様子を窺う手紙を出していたのだ。その返信は内々に話したい事がある、というものだった。


「今すぐにでも王都に行って聞き出したいところだが」

「夏の休暇で実家に帰る、か。王都に戻らずに会うならこのタイミングだな。フレドリック、お前は王都では目立ちすぎる」

「だな」


 イライアスはともかく、大柄なフレドリックは人混みの中でも目立つ。ライアンを連れて逃亡した事は当然、相手方も分かっているだろう。今は事を荒立てたりする時期ではない。それはフレドリックも分かっていた。


「サイラス……」


 彼は剣の腕が立ち、生真面目な性格で、師匠にあたるフレドリックにちょっと似た男だった。そんな彼は……魔王討伐の討伐隊にいたのだ。


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