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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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66話 若き獅子の牙

 一方、ライアンは部屋の中から外から僧達に見張られて部屋に押し込められていた。息苦しさを感じてライアンは立ち上がる。するとその行く手を阻むように一人の僧が前に立ちふさがった。


「どちらへ行かれます」

はばかり(・・・・)だ」

「では同行いたします」

「……好きにしろ」


 ライアンは扉を開けた。ドアの外の見張りの僧と目が合う。


「ご苦労なことだ」


 ライアンは出口近くのキャビネットの上の本を思いっきり部屋の外に投げた。


「何を……あっ」


 その途端にライアンの後ろに付いてきていた僧がよろけて転んだ。


「どうした!?」


 そして外の僧の意識がそっちに向いたとたんにライアンは一気に駆けだした。


「何かにひっかかった!」

「紐……?」


 ライアンの部屋のドアの前にはいつの間にか滑車が付けられており、重たい本をおもりにドアの入り口の丁度足元に紐が張るように細工されていた。


「待てっ」


 ライアンはその声を後ろから聞きながら、廊下の壺を倒す。中には油が入っており、追いかけてきた僧は見事に滑って身動きが取れなくなった。


「私は優しいからただの紐にしておいてやったぞ」


 容赦無く鉄線を張っていた名無しの事を思い出しながら、ライアンは角を曲がった。


「おい! ライアン様が逃げた! 追え!」


 その声に他の僧達が動く気配がする。


「居た! さあライアン様、部屋に戻りましょう。……ライアン様!?」


 廊下の先に蹲っていたライアンに追手の僧は刺激しないよう優しく言葉をかける。しかしライアンは動かなかった。不審に思って肩に手をやると……。


「なっ、なんだこれ」


 それはぼろを丸めたものにライアンの僧服がかぶせられたものだった。


「はぁ……はぁ……」


 ライアンはそのずっと先を走っていた。目指すは奥の聖堂。アーロイスとエミリアのいるはずの場所である。茂みに身を隠し、人気のない廊下を選んでついにライアンは聖堂へとつながる白の回廊へとたどり着いた。


「……誰か来る」


 ライアンは人の気配を感じて、廊下の聖像の影に隠れた。ここ数日要人が来る度に人の動きを観察してきた。ならば必ずここを通るはず。ライアンは確信していた。


「……は、たいし……た……」


 途切れ途切れに聞こえる声。聞き覚えのある声だ。間違いない。叔父であり、宿敵であるアーロイス、その人の声だ。


「アーロイス!」


 ライアンは影から飛び出してその人物の前に立った。


「おや……会えるとは思わなかったよ。ライアン。元気そうだね」

「叔父……さ……」


 ライアンの姿を認めて、アーロイスはごく普通に挨拶した。口元には親しげな笑みさえ浮かべて。ライアンは思わず昔のように答えそうになる。しかしその目を見た途端、顔を引き攣らせた。


「お前……誰だ?」

「誰だとは失礼な。お前の叔父のアーロイスじゃないか」


 違う、何かが違うとライアンの中で何かが叫んでいる。ライアンは手にしていたナイフを構えた。それを見たアーロイスは高らかに笑った。


「はははは!! そんな小さな細い体で! そんなちっぽけなナイフで何ができる?」

「だまれ! 国家を欺く大罪人め」

「大局を見たまえ。私はすでにローダックの統治者。……そしてお前はもはやただのガキに過ぎん」

「……父上とお祖父様をどうしたのだ!?」

「さあ……」


 アーロイスは首を傾げて見せた。確かにその目の形も鼻の形もアーロイスそのものではある。でも、違う。これはアーロイスではない。ライアンはそのままナイフを振りかぶってアーロイスに向かって放った。


「……こら。やんちゃが過ぎるぞ、ライアン」


 ライアンのナイフは深々とアーロイスの掌を貫いていた。途端にアーロイスの両脇にいた屈強な男達にライアンは取り押さえられる。


「ライアン……大人しくこの白い牢獄にいる事だ……ならば命までは取るまいよ」


 アーロイスはそう言いながら掌のナイフを引き抜いた。吹きだした血が、地面に這いつくばったライアンの顔を赤く濡らす。


「……ぐっ」


 肺を強く圧迫され、何も答えられないライアンを残し、アーロイスは笑いながらその場を立ち去った。


「ライアン様!? え、怪我を……?」


 ライアンは追いかけてきた僧達が助け起こしてくれるまで燃えるような憎悪の視線をアーロイスの消えた方に向け続けていた。


***


「ふーん……中々愉快な旅だったようだな」

「ああああっ!」


 アーロイスは自室のカーテンの隙間の光にそれ(・・)をかざしながら呟いた。その足元には手足を縛られた男が転がっている。その両の瞳には眼球がない。


「ああ、うるさい。今戻してあげるから」


 アーロイスはあやすように言って、その男の目に手にしていた眼球を押し込んだ。その顔はアーロイスにそっくりである。


「便利だな、この『肉人形』とやらは。なぁ、フェレール」

「この不安定な時期に城を開けるのは得策ではありませんからな」

「これもお得意の呪術か……?」

「は……今は失われし古のもの……こちらのハリシュの秘術にございます」


 ぬっとそこには背の曲がった黒いローブの男が立っていた。しわしわの顔の瞳は濁り、杖をついている。その杖を持つ手と額には楔のような独特の入れ墨が施してあった。


「存分に褒美を与えよ」

「いえ……結構でございます。今は……」

「何か望むものでも?」

「土地が……」

「土地?」


 アーロイスはしわがれた声で発せられた言葉に首を傾げた。


「我ら流浪の民に安住の地をくだされ。片隅で構わぬゆえ……」

「ふむ……考えて置こう。とりあえずこれを。少し身ぎれいにした方がいいぞ」


 そう言ってアーロイスは指輪を与えた。


「はは……」

「二人とも、下がれ」


 アーロイスは『肉人形』と二人を下がらせると、ソファにどっかりと座り込んだ。


「安住の地……か。片隅……に……」


 そう呟きながらアーロイスは目を閉じた。


2/5~ 週一更新(水)に変更します。よろしくお願いいたします。

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