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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第二章

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33話 謎の子供

 名無しはエミリアとは反対の翼の部屋へ通された。


「それでは、こちらのお部屋をお使いください。夕食の時にはまた人をやりますので」

「……ああ」


 エミリアとは少々離れた位置に配されてしまった。まあ、ここは教会であってエミリアは尼僧である。男である名無しから部屋を離すのは当然の措置ではあるのだ。

 名無しは時間つぶしに剣の手入れをすることにした。とはいっても魔物熊を倒して以来、その刃を使った試しがないのだが。


「いつ如何なる時も、備えを怠れば命を縮める」


 名無しは一人呟いた。そう言っていたのは誰であったか。やはりあの首領であっただろうか。

 名無しは鍔を磨き、砥石で刃を研いだ。そして小瓶に詰めた油を塗るとフェルトの端切れで拭き上げる。


「……」


 鈍く光る二振りの小剣の切っ先の輝きを名無しは見つめた。この剣は長く手元にあって名無しを何度も救ってくれた。さほど体格の良くない名無しにとって最も扱い易い剣である。今では手足の延長のように体に馴染んでいる。


「あの……、お夕食の時間です」

「ああ」


 そうして時間を過ごしていると、部屋の扉がノックされた。名無しが扉を開けると小柄な寺男がそこに控えていた。


「あの……お食事の際の帯剣は……」

「俺は護衛だ。護衛が丸腰でどうする」

「は、はあ……」


 名無しにじろりと睨まれて、寺男は身をすくめた。


「さっさと案内しろ」

「はいっ」


 こうして案内された教会の食堂。エミリアは名無しの姿を見つけると小さく手を振った。


「なんともないか」

「ええ」


 エミリアはとっくに警戒を解いているようだった。名無しはエミリアの横の席に腰掛けた。先に席についていた司祭はキョロキョロとあたりを見回した。


「すみません、いまもう一人……」


 言い終わらないうちに食堂に現れたのは、少しくすんだ青みを帯びた金髪の11、2歳くらいの少年だった。


「待たせた」


 笑顔もなく、ただそれだけを告げて席についた。そんな少年に向かってエミリアは笑顔で自己紹介した。


「あの、一晩ご一緒しますね。巡礼者のエミリアです。それと……」

「アル。……護衛だ」

「……護衛?」


 その子供は怪訝な表情で名無しを見た。


「護衛ならば下がっていろ」

「……ライアン」


 司祭は不遜な態度のその子供に言葉をかけた。ライアンと呼ばれた子供は不愉快そうな表情を浮かべて席についた。


「それでは、神に与えられし今日の糧に感謝を」

「感謝を」


 祈りの後に食事がはじまった。夕食は干し魚のスープにパン、温野菜にチーズをかけて焼いたもの、そして少々の果物。


「美味しいですね。スープが特に」


 エミリアは二日ぶりにきちんと調理された料理を味わっていた。名無しは、ちょっと味が薄いとは思いつつ相変わらず食べられれば上等と考えていた……が顔には出さなかった。


「はぁ……」


 そんな中、憂鬱そうにため息をつき野菜を突いているのはライアンである。


「ライアン。好き嫌いはいけません。皆、神からいただいた命です」

「……ちっ」


 ライアンは司祭にしかられて心底嫌そうにしながら野菜を口にしたが、その大半に手をつけなかった。


「……ライアン!」

「もういい。じい!」

「はい」


 ライアンが声をかけると、老境に差し掛かりながらも体格のいい男が食堂にあらわれた。歳を経ても衰えぬ逞しい筋肉が服の上からでも分かる。その姿は少し異様な印象を名無しとエミリアに与えた。


「もうよろしいので」

「ああ」


 そしてライアンはチラリとエミリアと名無しを振り返り、挨拶もなく立ち去った。変わりにじいと呼ばれた男がぺこりと頭を下げていった。


「……なんだあれ」

「アル。あんまり言っては駄目です」


 クロエの方がよっぽど聞き分けがいいぞ、と名無しは思いながら呟いた。


「すみません……少々我が儘に育ってましてな」

「いいとこの坊ちゃんみたいだな」

「ええ……まぁ……」


 司祭が困ったように苦笑いをした。どう見ても箱入りの坊ちゃんがこんなひなびた町に一体なんの用があっているのだろう、と名無しは思った。


「それではご馳走様でした」

「いえいえ……巡礼の旅の力になれてこちらも光栄です」


 食事の礼を述べるエミリアに司祭は笑顔で答えた。


「……ここは大丈夫みたいだな」

「そうですね」


 食堂から部屋へ戻る道すがら、名無しはエミリアにそう言った。エミリアも名無しの言葉に頷いた。


「じゃあ、ゆっくり休め」

「はい。アルも」


 昨夜はエミリアの分まで火の番をしつつだったので確かに少し眠い。この町を出たら、徒歩だと国境の街まで小さな村を辿りながら行くしかない。

 名無しは部屋に戻ると早速ごろりと横になった。そしていつものようにうとうとと浅い眠りに落ちる。


「……うるさい、うるさい、うるさい!」


 そんな名無しは突然の大声で目を覚ました。この声は、ライアンである。


「隣の部屋かよ」


 名無しはベッドから体を起こして、隣の部屋の扉を叩いた。


「おーい、うるさいのはそっちだぞ」


 しばらくの後、扉が開いた。扉を開けたのはじいと呼ばれていた男である。


「申し訳ない」

「じい、何やってる! どこぞの護衛ごときに頭を下げてる場合か」


 ライアンはその部屋の奥でわめいていた。


「あんたも大変だな。こんな我が儘小僧のお守りなんてな」

「なっ……」


 その男に名無しが同情を示すと、それを聞いたライアンは二の句を告げなくなった。


「……」


 名無しはじろりとライアンを見た。このまま、このキンキン声を聞かされるのは勘弁だな、と思っていると、ライアンは顔を真っ赤にしてお守りの男に怒鳴りつけた。


「こいつ、私を愚弄したぞ! フレドリック、仕置きをくれてやれ」

「……なんだ?」


 名無しは首を傾げた。それからこの男の名はフレドリック、というらしい。そのフレドリックを見ると、深々とため息をつきながら首を振っていた。


「あの……あまり暴れないで頂けるとありがたい。ああなると聞き分けがなくなってしまうので」

「……は?」


 名無しが聞き返すと同時に、フレドリックはその強靱な腕と拳を名無しに向かって振るった。


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