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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第二章

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32話 新しい太陽

「え、適当って……そんな……」

「ラロの名前もあんたがつけたろ。あんな風でいいよ」

「ラロは犬ですよ……」


 エミリアは名無しの言い分に脱力した。もちろんラロの名前もちゃんと考えたのだが、それとこれとは重さが違う。


「……ちょっと考えさせてください」

「ああ」


 そのままエミリアは名無しに背を向けた。名無しはそれからしばらくたき火の炎を見つめていた。


 やがて夜が白々と明け、朝がやってきた。いつの間にか眠っていたエミリアはがばっと身を起こした。


「お、起きたか」

「……おはようございます」


 名無しは川でザブザブと顔を洗っていた。エミリアも包まっていた毛布から抜けだし、川辺に向かい、その流れに手を差し入れた。雪解け水の刺すような冷たさ。エミリアはぼんやりとした頭を覚まそうと、顔に水をかけた。


「ふう……」


 その冷たさに靄のかかっった頭が晴れていくようだ。エミリアはまだ生まれたての薄明るい太陽を眺めた。


「朝は適当でいいか?」

「あ、はい」


 名無しはそれだけ言うと、たき火でパンとチーズをあぶり出す。その姿を見ていると、昨夜の事は自分の思い違いじゃないかと思ってきた。


「ほら、焼けた」

「ありがとうございます……あつつっ」


 エミリアと名無しは焼いたパンにこんがりとしてとろけたチーズを載せて無言でもぐもぐと食べた。そして鍋で温めただけの白湯をすすっていると、名無しが唐突に聞いて来た。


「それで決まったか。俺の名前」

「……はい」


 エミリアはこれ以上はぐらかしても仕方ないと観念して答えた。


「それで? なんて言うんだ」

「……アルフレッド」

「え?」

「アルフレッドで……アルと呼びます」


 エミリアは微妙に名無しの視線から目を逸らしながら、名無しの新しい名前を告げた。


「……大して変わらなくないか?」


 名無しはあっけにとられたような顔をして、エミリアの顔を覗き混んだ。適当に付けてくれと自分が言ったのも忘れて。その視線を受けて、エミリアは深くため息をついて呟いた。


「だって、私にとってアルはアルです……。あの村での事を全部忘れてまったく別の名前でなんて呼べません」

「……それでアルフレッド、か」

「はい」


 エミリアが一晩考えた結論がそれだった。名無しは真面目くさった顔をしているエミリアを見て、薄く微笑んだ。


「アルフレッド……確かにアーロイスではないな」


 あの第二王子の名前でもなく、かつハーフェンの村人アルでもある。名無しはそのエミリアの気持ちを受け止める事にした。


「じゃあ、俺はこれから『アル』だ」

「ええ。よろしくお願いします『アル』」


 エミリアは名無しに手を差し出した。名無し……いやアルはその手をしっかり握り返した。


「そろそろ出発しよう」

「はい、アル」


 エミリアは立ち上がり、荷物をまとめた。そして歩き出すその後ろからゆっくりと馬を引いた名無し(アル)がついていく。そうして……やがて次の町が見えてきた。


「アル、次の町です」

「ああ」

「……教会に寄れたらいいのですが」


 道の向こうに見えてきたのは、村といってもいいくらいのひなびた小さな町だった。ただ、ここだけが、国境の境の中間に位置する唯一の町である。


「行ってみてだな」


 名無しはそれこそエミリアには言わないが本音ではあの襲ってきた教会の男達は狼にでも食われていると思っていた。ただ、エミリアの様に獣除けの魔道具(ペンタクル)を持っていたとしたら話は別である。こちらは徒歩での移動である事から、先回りされている危険性も十分あった。


「とにかく行ってみましょう」


 もう日も傾いてきている。どちらにしろ、この町に滞在するしかないのだ。町の中で目立つような不埒な事をしかけてくるなら名無しが退治するまでである。


「心配ない」

「……ええ」


 名無しとエミリアは町の中に入って、とりあえずは教会を目指す。


「はい……」


 扉を開けたのは随分と年老いた司祭だった。


「あの、旅の巡礼の者でエミリアと申します」

「ほお……?」


 司祭の目がエミリアを見て驚きの表情で見開かれた。


「できれば一泊させて貰えませんでしょうか」

「……かまいませんが、後ろの方は?」

「護衛だ」


 名無しは司祭を値踏みするように見ながら答えた。この男は敵か、味方か。


「ほう。ではそちらにも部屋を用意しましょう……あ」


 老司祭はふと思い出したかのように足を止めた。


「先に客人がいるのですが、よろしいですか」

「客人?」


 名無しは警戒心をあらわにした。それがあのエミリアを襲った男だとしたら……とてもここに泊まる事はできない。


「ええ、遠縁の家のぼっちゃんでしてね」

「……子供?」

「はい。後ほど夕食の時にでも引き合わせましょう」


 その言葉に名無しとエミリアは目配せをしあった。ここにいるのは子供、という事で名無しはそっと手を添えていた小剣からようやっと手を放した。


「それではエミリア、とおっしゃいましたな。女人はこちらの部屋へ……」


 それでも、司祭に案内をされて部屋に進むエミリアの背中を名無しはしっかりと見張っていた。


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