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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第一章

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25話 珍道中

「あとは雪解けを待つだけの季節で良かったなぁ」


 巨大な狂乱熊の毛皮は塩漬けにされて、しばらく保存された。そして雪が少なくなってきたのを見計らって、村の中でも若手のリックと名無しが指名されて町へと売りに向かっていた。

 リックの家の馬にソリを付け替えて、その上に皮を乗せただけでいっぱいになってしまったので、名無しとリックは徒歩で町に向かっている。


「とはいえまだ雪が多いな……もうっ」


 空は青々と晴れているが、まだ雪はだいぶ残っている。

 いつもなら馬車で一日で往復できる距離だが、徒歩ではそうもいかない。今回は町で一泊する予定で来た。


「リック、見えてきたぞ」

「やっとかー」


 リックと名無しは町に入ると、いつもの革問屋へとむかった。


「今度は魔物の熊!? なんだって最近はこんな獲物がとれるんだい?」

「ははは……いい狩人が住み着いたもんでさ」


 革問屋の主人はその獲物の大きさと、皮を売りに来る頻度に驚きながらそれを買い取ってくれた。事実、名無しがくるまでは害獣には怯え、やり過ごすしかなかったのだ。


「よーし、この金の一部は俺達が使っていい事になってる」

「……いいのか?」

「農閑期だし息抜きして来いってさ。さ、さっさと宿屋に行こうぜ」


 リックはほくほく顔で町の通りにある宿の中で一番いい宿を選んだ。


「とりあえず、取り分を山分けしような」


 名無しはリックに銀貨を数枚渡された。リックは自分の分の金を握りしめながら、それをどう使うか考えているようだった。


「リック、遅くなったが昼飯を食おう」

「おおそうだな」


 朝から歩き通して、腹がへった名無しはいつまでも考え込んでいるリックにそう声をかけた。


「宿でも出してくれるけど、俺のお薦めの店に行こう」

「ああ」


 二人は宿を出て、リックの薦める料理屋に入った。こんがり焦げ目の入ったソーセージにたっぷりの芋や人参の付け合わせにたっぷりチーズのパイ。盛りも良く、味もいいそこは随分繁盛していた。


「うまいだろ。ここはソーセージの中身も誤魔化してないんだ。俺には分かる」

「うん、うまい」


 二人はもりもりと皿を平らげた。ソーセージにかかったソースもパンで綺麗に拭ってリックは満足そうに腹をさすった。


「ふー、満腹。さてどうしようか」


 外はまだ日が高い。しかし、この時間に街道に出たら間違いなく村に着く前に夜になるだろう。名無し一人なら問題ないが、リックをつれてとなると朝までこの町で時間を潰すしか無い。


「クロエに土産を買わないと。今朝も随分ぶすくれていたしな」

「はは、それは忘れちゃいけないな」


 名無しとリックは、クロエの好きな甘いものでも買おうと菓子屋に向かった。そしてジャム入りのクッキーを買った。


「うーん」

「どうした?」


 名無しが会計している間、店の外に出ていたリックは隣の古着屋の店先を見ながら考え込んでいた。


「せっかく臨時収入もあったし、シャツの一枚も新調してもいいかなと思ったんだが……」


 そう言って、リックが手にしたのはやたら派手な赤いシャツだった。


「……リック、こっちにしとけ」

「えー、地味じゃないかな」

「こっちの方が似合う」


 名無しはへんてこな赤いシャツをリックに買わせまいと別のシャツをすすめた。その余りの勢いにリックもやっと頷いた。


「わかったよ。まぁ、王都から来たアルの言う事だしな」

「うむ。王都でそんな赤いシャツは流行っていない」

「そっか」


 そんな風に店先を冷やかしていたり、細々とした買い物をしていると日が暮れてきた。


「おお、そろそろ宿に帰ろう」


 名無しとリックは宿に戻り、夕食を取る事にした。


「それじゃ、エールを二つ」

「リック」

「なんだよ、俺と二人じゃ飲めないってか」


 リックは強引にエールを頼むと、名無しにジョッキを差し出した。


「それじゃ、乾杯」

「ああ」


 名無しも根負けしてそのジョッキを受け取った。次々に出される野鳥のローストや野菜のポタージュを平らげながら、ぐいぐいとリックはジョッキを空ける。


「飲み過ぎじゃないか」

「そうかなー? いやね、俺は嬉しいんだよね。村の若手はみんな出稼ぎに出てるし、歳が近いアルが居てくれてこうして酒を飲めるし」

「そっか……」


 酔いの所為か饒舌になっているリックの言葉を聞いて、名無しはポリポリと頬を掻いた。


「しかも……あんな……でっかい熊に立ち向かっていくしよ」


 その時、リックは狂乱熊を倒した直後の名無しの顔をふと思い出した。


「どうした」

「へ、へへ……なんでもない」


 リックは名無しが何をして生きてきたか知らない。けれど、あの表情の向こう側になにかリックの想像もつかないような事が隠れているような気がしていた。


「アルは村に来てどうだ?」

「え、ああ……色々と発見がある」

「楽しいか?」

「……ああ。ずっと住んでもいいかもな」


 リックは名無しのその答えを聞くと、にんまりと笑った。


「そうか、大歓迎だぜ俺は!!」

「あ~ら、何が歓迎なの?」


 その時だった。給仕の女性がリックにしなだれかかった。


「今日は良く飲んでるわね」

「ジャンヌ……!」

「私も喉が渇いたみたい」

「そっか、じゃあここに来て飲みなよ」


 名無しはきょとんとしてリックとジャンヌと呼ばれた給仕の女性のやり取りを見つめていた。


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