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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第一章

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22話 雪かき

 雪の降る日が少なくなってきた。少しでも雪が止むと、そのままにしておくとガチガチに凍るので村の人々総出で雪かきを行わなければならない。年寄りや女所帯の家の雪下ろしを手伝って、村の道の雪をどける。


「王都の方はそんなに降らないらしいな。転ぶなよ?」

「平気だ」


 リックに軽口を叩かれながら、もちろん名無しも雪かきに参加していた。名無しは雪国に生まれた訳ではないが絶妙なバランス感覚で雪の上に立っていた。


「毎年毎年文句言っても仕方ないけど、キリがないよな」

「そうは言っても誰かがやらにゃあ」


 村人達はみんなでわいわい言いながらスコップで雪をかいている。


「みなさーん、ご苦労様ですー! お茶を淹れたので休憩してくださいー!」


 そう言いながらやってきたのはエミリアだった。


「おお、あったかいなー」


 みんなは湯気の立つお茶をカップに入れてもらってふうふうしながら啜った。雪かきの作業で皆、うっすらと汗をかいていたがじっとしていると寒さが身に染みる。


「こちらにお茶請けもありますよ」


 今日も笑顔のエミリアをリックはじーっと見つめて呟いた。


「なぁ、アル……エミリアさんは綺麗だなぁ」

「リック、エミリアは尼僧だ。どうにもならない」

「分かってるよ! ただ綺麗な人の淹れたお茶は美味いなって!」


 名無しは手元のカップを見つめた。名無しにはこのお茶の味が特別美味いとは思えなかった。


「普通のお茶だ」

「もう……アルは潤いってもんがないなぁ。どうだ、ちょっと距離があるけど二つ先の町の娼館に……」

「なんのお話ですか?」


 気が付くとすぐ背後にエミリアが立っていた。リックはぎくりとして慌てて振り返った。


「エッ、エミリアさん!?」

「リックに娼館に誘われていた」

「こらっ、アル!」

「へぇ……」


 エミリアの目がスッと細められた。それでも笑顔のエミリアを見てリックは逃げ出した。


「それじゃ、俺はそろそろ作業に戻るよ!」

「まぁ……それで? アルは行くんですか、その……」

「いや、遠いみたいだし」

「じゃあ近かったら行くんですか!!」

「え……?」


 突然大声を出したエミリアに名無しはビックリして目を見開いた。


「あ……すみません……」


 エミリアもそんな自分に驚いたのか、すぐに言葉を詰まらせて頬を真っ赤に染めた。


「尼さんの前でする話ではなかったな」

「あ、いえ……」

「そう言えばあんた、なんで尼僧になったんだ?」

「え、それは……子供の頃に光魔法の適性を認められたのと母を亡くした時によりどころになったのが教会だったから、ですね。父親は最後まで反対してましたが」


 エミリアは少し遠い目をして名無しの質問に答えた。


「そんな反対までされて教会に入ったのか」

「ええ。教会に救いを求めて来られる方に私が出来る事をしたかったのです」


 エミリアはそう答えて、くつろぐ村人達を見つめた。


「こんな風に皆さんに尽くしている時が私の幸せです。……でも、それもあと少しです」

「あと少しって?」

「この旅が終わったら、私は聖地聖都ユニオールの教会の中枢に、聖女として迎え入れられます。そうしたら世俗との関わりを断ち、神に祈る生活になります」

「聖女……?」


 名無しは首を傾げた。


「はい、尼僧として最高位の地位に就き皆の規範となり、国民の安寧を祈るのです」

「楽しいのか? それ」

「……え?」


 少し興奮気味に熱く語るエミリアに名無しはそう聞いた。するとエミリアはぽかんとして名無しを見た。


「……楽しいのか楽しくないとかっていう問題ではありません。私達尼僧はいつか聖女になるのを夢見ているのです」

「そうか」


 名無しにはエミリアの気持ちは良く分からなかった。人に尽くすのが幸せというのなら、今でも十分だろうとは思ったが、頑なな表情のエミリアにわざわざそれを言う気にはなれなかった。


「……お茶、うまかった」

「ありがとうございます」


 二人はどことなくギクシャクとしながら別れた。エミリアが去り、名無しは再び雪かきの作業を始めた。そんな名無しにリックが近づいてくる。


「なぁ……なに話してたんだ?」

「なんで尼さんになったのか聞いてた」

「はぁ……?」


 リックはわっかんねぇなぁと呟いて名無しから離れていった。


「俺もわからん」


 名無しはリックの後ろ姿にそう答えて、あとは黙々と作業を始めた。




「なぁ爺さん。尼僧はみんな聖女になりたいのか?」

「なんだぁ、藪から棒に」


 夕食を取りながら、突然名無しにそう聞かれたヨハンはきょとんとして名無しを見た。


「そらぁなれるものならなりたいんじゃないかね。多くの人には叶わない事だがな」

「ふーん」

「クロエはいいやー。なんか大変そうだもん」


 パンをむしりながらクロエが口を出した。


「クロエはなんになるのかのぉ」

「そりゃお姫様かお嫁さんかお菓子屋さんだよ!」

「多すぎないか?」


 胸をはるクロエに名無しは思わずそう答えた。


「じゃあ、お姫様でお嫁さんになる……? それともお菓子屋さんにお嫁さんにいく……? うーん」

「ははは、ゆっくり決めたらええ」


 腕を組んで考え込みだしたクロエにヨハンは微笑んだ。


「あいつも……もっとゆっくり決められればいいのにな」


 名無しはそんなクロエを見ながら、エミリアの事を思い出していた。

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