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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第一章

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13話 死の形

「み、俺の耳が……」

「安心しろ、すぐに気にならなくなる」


 名無しが小剣を握り直したときである。エミリアが鋭く叫んだ。


「――殺してはいけません!」


 ぴくり、と名無しの動きが止まる。


「なぜ?」

「神の教えに背きます」


 名無しはチラリとエミリアを見て舌打ちした。その隙を見て剣を振って盗賊の頭領が名無しに襲いかかった。

 名無しはひらりとそれを躱し、頭領の首に手を回した。


「ぐっ……あ……お……」


 だらり、と頭領の体から力が抜けガラガラ……とその手から剣が落ちた。一瞬遅れてどう、と音を立てて男の体が地に倒れた。


「アル……!」

「殺してないぞ」


 エミリアの呼びかけに、名無しは素っ気なく答えただけだった。


「ああ、面倒だ……」


 名無しは未だ、立っている残りの盗賊を見て呟いた。盗賊達は突然現れ、自分達の頭領を倒した男を警戒した。


「……くっ、死ね!」


 無謀な盗賊が名無しに立ち向かった。その男は一蹴りで脳を揺らして倒れた。


「残りは? 来ないのか?」


 盗賊達はじりじりと名無しから距離をとる。


「ならこっちから行く」


 名無しは跳躍した。それは魔法でもなんでもなく、しなやかな野生動物のような筋肉から生まれる動きであった。一人の男の首を絞めて落としているうちに、他の男に蹴りを入れ、踏みつけにしながら小剣の柄で別の男のこめかみに打撃を加えた。


「……やりにくい」


 こうして盗賊達は全員地に倒れた。それを見て、エミリアが駆け寄ってくる。


「アル!」

「……ああ。まだだ。こいつらを拘束しないと」

「それなら私が。『天縛』」


 エミリアの手から光の筋が伸びて、盗賊達を拘束した。彼らはそれで呻くことすら出来なくなった。


「怪我は……無いようですね。ありがとうございます」

「……あんたが余計な事を言わなければもっと早く片付いていた」

「……聞いてくれてありがとう」

「虫は分からんでも無い。でもこいつらがあんたに何しようとしたのか分からない訳じゃないよな」

「はい……」


 名無しは少し自分の言葉が非難がましくなっているのが分かった。なぜ自分はエミリアといるとこんな風にイラついてしまうのだろうか。


「神様とやらがそんなに大事か」

「それは、大事ですが……私は……」


 エミリアの目に大粒の涙が浮かんだ。


「私はあなたに人殺しになって欲しくなかったんです」

「……俺に?」


 名無しはぎょっとしてエミリアを見た。


「はははは……!」


 名無しは笑いが止まらなかった。この女は何を言っているのだろう。名無しはすでに人殺しだ。何人殺したかなんて覚えてもいないくらいに。


「笑う事ではないでしょう! アル!」


 エミリアは怒っていた。名無しはなんて面倒な女だろうと思った。


「分からないのか? 俺はもう何人も殺してるぞ」

「……あの動きを見れば分かりました」


 普通の人間は殺意を向けられれば何かしらうろたえる。しかし名無しはどこか楽しむようでもあった。それを目の前で見せられて分からないエミリアではなかった。


「それでも、駄目なんです」

「……なぜ、そこまで言う」

「アルは、今はクロエちゃんのパパなんでしょう? ヨハンさんの息子なんでしょう? 守るべき家族がいるでしょう?」

「それがどうしたんだ」


 エミリアは名無しを見つめた。


「何かを奪えば、奪われてもしかたないという事です」

「……そんなやつは、先に殺すさ」

「アル……」


 名無しはエミリアから目を逸らした。このままこの事を考え続けたら、名無しは足下がぐらついてしまいそうだったからである。クロエやヨハンを誰かが傷つけたら? その答えは……。


「復讐……するな……」

「……え?」


 小さな名無しの呟きにエミリアは首を傾げた。名無しの口から漏れたのは組織の首領の遺言だった。


「アル……?」

「なんでもない」


 その時、外ががやがやとして教会の扉が開いた。


「おーい、なんの騒ぎだい?」

「リック。教会に泥棒が入ったので捕まえた」

「えっ!? 大丈夫なのかい」

「こっちはなんとも」


 リック達村人は教会に入って息をのんだ。そこには泥棒なんていう規模ではない盗賊達が拘束されていたからだ。


「大変だ! お役人を呼んでこないと!」

「アル、これをあんた全部やったのか?」


 名無しは村人にそう聞かれて首を振った。


「ほとんどはそこのエミリアが光魔法でやった」

「ほーっ、ついてないなこいつら」


 そして朝が来て、役人達が盗賊を連行していった。


「ちくしょう! ぶち殺してやる!」


 意識を取り戻し、罵声を繰り替えず盗賊達。名無しは奴らを馬車に押し込んでいる役人に聞いた。


「こいつらはどうなるんだ?」

「ああ、この盗賊はきっと『赤蛇の団』だ。あちこちから被害が出ている。街の牢屋にぶち込んだ後は……全員縛り首だろうな」

「……ふん」


 それを聞いた名無しはエミリアに向き直った。


「なあ、あいつら結局死ぬぞ。いいのか」

「それはいいのです」

「何が違う?」

「法を犯したものは法に裁かれる。それが人の世です。彼らは自身の行いを死で贖うのです」


 名無しは振り返って盗賊達を見た。無様なその姿は死にかけの魔物と大差ないように見えたが。


「……どんな人間でも、人として死ぬ権利があるのです」

「それは俺もか?」


 エミリアの言葉に、名無しをふとそう聞いた。エミリアは一瞬動きを止めて名無しを見つめた後、こくりと頷いた。


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