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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第一章

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11話 眠れる刃

 ローダック王国。先の魔王降臨の危機にいち早く討伐隊を送り、各国をその力を見せつけ牽制した大国である。その王城の最奥。アーロイスの自室にて……その会話は繰り広げられていた。


「殿下、第一王子の廃嫡も決まり無事あなたが王太子となった祝いの杯です。どうぞ」

「……ふん」


 仮の祝いといえどめでたいと側近が称える中でアーロイスは不機嫌だった。


「どうだ、満足か。フェレール大臣」

「……私はあなたの為に動いたまで」


 アーロイスはその言葉に素直に頷くことは出来なかった。アーロイスは臆病である。だが阿呆ではない。この男が自分への忠義心からいままで動いていたのではなく、宰相の座を狙っての行動であることぐらいは理解していた。

 しかし自分が王座を欲したのも事実。せいぜい御輿を変えられないように振る舞い、互いに利用しあうのが賢い手だと考えていた。


「無能な兄上様に代わり、勇猛果敢で聡明な王太子を迎え国民は安堵するでしょう」

「その『勇猛果敢』な部分は作られたものだがな」

「アーロイス殿下。やつらはもう始末しました。それを知る者はおりませぬ」


 アーロイスはそう答えたフェレールの顔にグラスを投げつけた。


「知っているぞ! 組織は壊滅したがあの男は生きている!」

「殿下……」

「私は見た! 魔物以上におぞましいあの姿を……。あの男をなぜ逃がした」

「……あの男とて組織の人間です。組織なしに動く事はありますまい。深追いもまた怪我の元」

「誤魔化すな! ……いいか。あの男をなにがなんでも探せ。そして殺すのだ」


 アーロイスはふらりと立ち上がった。ひどく顔色の悪いその顔が暖炉の炎に映される。


「でなければ……」


「少し、酒をお過ごしのようですな。今宵は失礼いたします」


 ワインに顔を濡らしながら、特に文句を言うでもなくフェレールは退出した。


「でなければ私に眠りはこない……」


 アーロイスは臆病である。その生来の資質は王子という立場でなければ善良な市民として生活できていただろう。臆病であるからこそ、アーロイスは名無しが心底怖かった。仲間を殺され立場を失ったあの男が己に復讐の刃を向ける時が。

 アーロイスは毎晩のように血まみれの剣で串刺しにされる夢を見てはうなされていた。


「魔王すらあのように容易く倒した男を放ってなぞいられるか……」


 アーロイスは寝台に縋り付きながら、恐怖を振り払うようにより強い酒を呷った。




 一方、王子を毎晩夢の中で苛んでいる名無しであったが……今日もせっせと草むしりをしていた。


「パパー! リックからカボチャもらったよ」

「おお、良かったな」


 自分の頭より大きなカボチャを抱えたクロエが名無しにそれを見せてきた。


「今夜はこれでシチューにするね」

「ああ」


 麦はまたすくすくと伸び、背が高くなってきた。名無しがその麦に触れていると、ヨハン爺さんがその横に立った。


「そろそろ麦踏みの時期だの」

「踏む……? まっすぐ育っているのに」

「踏む事で強くなる。根がしっかりして霜にも強くなる」

「へえ」

「人間と似ておるよ、麦は。ははは」


 ヨハン爺さんはそう言って笑った。


「人間も踏まれて強くなる……か」


 で、あれば理不尽のように思えた首領の名無しへの扱いも今なら分かる気がする。


「復讐をするな……か」


 デュークから聞いた首領の最後の言葉。それを守った訳ではないが、名無しにその気は無かった。しかしそれを言った首領の真意は測りかねていた。


「……ほれ見い、デューク。夕日が真っ赤じゃ」


 ヨハン爺さんは空を指差した。秋晴れの夕日は静かに赤く、周囲を夜に包み混んでいこうとしていた。


「綺麗だの」

「……ああ」


 村をオレンジ色に染める太陽。ヨハン爺さんと名無しはじっとそれを見つめていた。


「二人ともー! もうすぐご飯だよ!」

「ああ」


 クロエの呼び声に、二人は振り返った。夕飯は先程の宣言通りカボチャのシチューである。


「どう? パパ」

「うまいよ」

「パパはなんでも美味しいって言うもんね……」


 クロエはちょっと困ったように言った。実際名無しの基準は火が通っていて食べられればいいくらいのものだった。


「いんや。うまいぞ、クロエ」

「ありがとうヨハンお爺ちゃん。もうちょっとチーズ入れたかったんだけどねー。残りが少なかったから」


 クロエは残念そうにそう答えた。


「また町まで買い物に行くか。クロエ」

「えっ、付いて行っていいの?」

「ああ」

「わーい!」


 食料の他にそろそろ防寒着も要る。名無しの長い黒いマントでは畑仕事を出来る気がしなかった。

 翌日、リックに荷馬車を借りた名無しとクロエは町へと向かった。


「チーズをくれ、それから砂糖と……」


 名無しは前回の食料品店に向かうと食料を買い込んだ。そして冬用の上着も買って荷馬車に向かって二人で歩いていると、クロエが手を差し出した。


「パパ、一個もつよ」

「そうか。じゃあこれを」


 名無しが砂糖の袋をひとつクロエに渡した時、二人の子供がクロエの脇を通った。


「お兄ちゃん、私の人形返してよー」

「わー!」


 その様をクロエはじっと見つめている。それを見て名無しは行く方向を変えた。


「パパ? 荷馬車はそっちじゃないよ!?」


 慌てて後を追ってくるクロエ。名無しは通りをきょろきょろと見回すとツカツカととある店に入った。


「これをくれ」

「パ、パパ……早いよ……」


 ようやく名無しに追いついたクロエは店の中を見てハッとなった。


「ここ、おもちゃ屋さん……」

「ほら、これが欲しかったんだろ」


 名無しは購入した人形をクロエに渡した。クロエはそれをじっと見つめた。


「パパ……これ……?」

「これじゃ嫌か。では別の」

「ううん、これがいい!!」


 クロエは名無しの手からその人形をもぎ取った。それは可愛らしい茶色の毛糸の髪の女の子の人形だった。


「ありがとう、パパ」

「ああ」


 名無しはクロエのそんな姿を見て、満足げに頷いた。


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