第3話
「ライドン元・公爵家。ジョシュア。アントン」
最初に名を呼ばれて兵士に『刑場』へ連れ出されたのは、眠る乳児と今年5歳を迎えるはずだった宰相の曾孫アントンだった。
その姿に宰相は目を見開いて身を捩る。
そんな曽祖父に気付いたアントンが「ひいお祖父様!助けて!」と泣いて助けを求める。
しかし2人の小さな身体は『処刑台』にうつ伏せに乗せられて首を固定される。
泣き叫ぶアントンだったが、再び銅鑼が鳴らされると同時に『ギロチンの刃』が落とされた。
それを宰相は涙を流しながら見ているしかなかった。
『ジョシュア』は生まれたばかりで、宰相は一度も抱くことがなかった。
生まれたのは処刑の当日 ――― 『2時間前』だった。
残念ながら『自然分娩』ではない。
『人工分娩』で強制的に『この世に生まれた』のだ。
母の『胎内』で共に『処刑』される方が幸せだと思う者もいるだろう。
しかし僅か『2時間の生命』だとしても、『生まれた我が子を腕に抱く』最期の幸せを母親に、家族に与えることが出来る。
――― 少なくとも『絶命した母親の胎内で何日も掛けて衰弱して死んでいく』よりは良いだろう。
幼い子供からギロチンで処刑されていく姿を、『串』に固定されている者たちは『目を閉じる』ことも許されずに見続けていた。
彼らには『興奮作用』のある薬で神経が研ぎ澄まされているため、瞬き以外に目を閉じることも気絶することも出来ない。
18歳までの子供たちが処刑されると、たくさんの血を吸った処刑台は撤去された。
親戚・姻戚を含めた一族の中で18歳までの『未成人』までは、処刑台で苦しまずに『死を賜る』ことが許された。
しかし19歳からは『大人』として『自らの行動』に責任がついて回る。
彼らは屋敷単位で『絞首刑』を賜ることになった。
彼らと共に『死を賜った』のは、屋敷で働いていた者たちだ。
一番遠い『姻戚』から刑場へと連れ出されてきた。
只管泣き喚く者。
『恨み』を口にする者。
『憎しみの目』を向ける者。
すべてを受け入れて『死地』へと向かう者。
――― 彼らの処刑は日付が変わるまで続けられた。
幼い親族や姻戚まで処刑されたのは『後顧の憂いを断ち切るため』だ。
そのため、『彼らの遺体』は王都の『北』にある神殿の近くに丁重に埋葬された。
『罪人』として処刑された彼らは、神殿の敷地内に埋葬することは出来ない。
そのため、敷地の横にある『王地』に埋葬されて、不届き者に荒らされないよう『管理』がされている。
未成人の処刑にギロチンが使用されたのは『苦しまずに一瞬で逝けるように』という配慮からだ。
そのため、ギロチンの刃が落ちる音を聞かせないために『銅鑼』が鳴らされた。
未成人とはいえ、歳が上がるにつれてその事に気付いたのだろう。
それとも『最期は貴族らしく』という思いがあったのか。
青褪めた表情ではあるものの、2人ずつ胸を張って刑場へと歩み出て行った。
その姿は処刑を見守る人々の心を打った。
だが、1人でも温情を与えて残してしまえば、何れ国民に存在を知られた場合、『嬲り殺し』にされるだけだ。
――― それほどまでに、国民の『憎しみ』は大きいのだ。
『未成人』とはいえ国王を名乗ろうとした『弟殿下』に、『『偽国王』の最初で最後の責務』として死を強く願うほどに。