表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/43

第2話



飲食も与えられず汚物まみれの彼らが牢獄から『そのままの姿』で引き()り出されたのは、王都で一番広い『闘技場』だった。

王宮から闘技場までの約1キロの道を『罪人』として歩かされる彼らを、沿道の国民たちは『憎しみの目』や『(さげす)みの目』で見ているだけだった。

家から飛び出した子供の一人が『生卵』を投げつけようとした。

その子供を『止めた男』は言った。「卵が勿体ないだろ」と。

『『卵ひとつ』でも無駄にする『価値すらない』』と遠回しに言われたのだ。

驚きで固まってしまった『罪人』たちに、兵士たちは「さっさと歩け!罪人ども!」と『先頭』をどやしつける。

先頭に立たされているのは、生まれてこの(かた)一度も誰からも怒鳴られたことがない『弟殿下』だ。

兵士の声だけで涙を浮かべるが、沿道に立つ国民から「泣いて許されると思っているのか!」と口々にあがり、『その場から逃げたい』一心で『膝から下』を動かした。

その足は素足で傷だらけだ。

『苦労を知らない足裏』は小石で血が滲んでいる。

しかし『誰かに抱き上げてもらう』ことも許されない。

溢れだす涙を(ぬぐ)いたくても、腕は後ろに回されて『荒縄の下』にあるためそれも叶わず。

彼らは1時間かけて、約1キロの道程(みちのり)を歩き切った。



闘技場に辿り着いた彼らの『地獄』はこれからだった。


等間隔に用意された『丸太の串』に一人ずつ縛られた彼らは頭も串に固定されたため、観覧席に溢れ返る国民たちの視線に顔を(さら)されることになった。


「醜いな」


その声に目を泳がせるが、彼らからは姿が見えない。

彼らの『背後』。その壁の上に『声の主』がいるからだ。


ジャーン!と銅鑼(ドラ)がひとつ鳴らされて、闘技場内がシンと(しず)まる。


従是(これより)『新王』ノルヴィス・フォン・アムゼリアの名において、『咎人(とがにん)』と()れに縁座(えんざ)及び連座(れんざ)する者の処刑を開始する」


ノルヴィスの『宣言』に、闘技場内外から声が上がる。

闘技場の観覧席には『王都の民全員』が座ってもまだ余裕がある。

それは、この闘技場は『国王の御言葉(みことば)』を直接(たまわ)る事ができる場として、そして兵団の『演武披露』の場として使われているからだ。

――― そして『大罪人』の公開処刑の場として。

その場合、『未成人(みせいじん)』の入場は規制される。

ただし、今回は『学院在籍者』の観覧が時間指定だが特別に許されている。

彼らが許されたのは翌日のため、今は成年(せいねん)しかいない。

それでも『入る事ができなかった』者たちのために銅鑼が鳴らされた。


『串』に繋がれた宰相たちはノルヴィスの発した言葉に青くなった。

自分たちの『処刑』だけではない。

『縁座の処刑』と言ったのだ。

『縁座』とは『家族や親戚』のことだ。

今になって、初めて『罪の重さ』に気が付いた。

――― しかし、後悔するには遅すぎた。

せめて『国王崩御』の後に一度でも邸宅に帰っていれば、『国王の騎士(グラン・ナイト)』隊長のように自らの罪を自らの生命で償い、家族たちには『減刑』か『恩赦』が与えられていただろう。

隊長は『(とが)なき者』に『ありもしない罪』を着せては斬り伏せてきた。

彼は今、闘技場前にある十字の『磔台(はりつけだい)』に(くく)り付けられている。

手足の骨を砕かれた彼は、このまま『衰弱死』するまで放置されるのだ。

騎士隊長として体力もあり、頑丈に出来ている彼は簡単に死ねない。

雨天になれば、嫌でも身体が『水分補給』をしてしまう。

彼が完全に『生を終えた(罪を贖った)』のは三月(みつき)過ぎてからだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ