第2話
飲食も与えられず汚物まみれの彼らが牢獄から『そのままの姿』で引き摺り出されたのは、王都で一番広い『闘技場』だった。
王宮から闘技場までの約1キロの道を『罪人』として歩かされる彼らを、沿道の国民たちは『憎しみの目』や『蔑みの目』で見ているだけだった。
家から飛び出した子供の一人が『生卵』を投げつけようとした。
その子供を『止めた男』は言った。「卵が勿体ないだろ」と。
『『卵ひとつ』でも無駄にする『価値すらない』』と遠回しに言われたのだ。
驚きで固まってしまった『罪人』たちに、兵士たちは「さっさと歩け!罪人ども!」と『先頭』をどやしつける。
先頭に立たされているのは、生まれてこの方一度も誰からも怒鳴られたことがない『弟殿下』だ。
兵士の声だけで涙を浮かべるが、沿道に立つ国民から「泣いて許されると思っているのか!」と口々にあがり、『その場から逃げたい』一心で『膝から下』を動かした。
その足は素足で傷だらけだ。
『苦労を知らない足裏』は小石で血が滲んでいる。
しかし『誰かに抱き上げてもらう』ことも許されない。
溢れだす涙を拭いたくても、腕は後ろに回されて『荒縄の下』にあるためそれも叶わず。
彼らは1時間かけて、約1キロの道程を歩き切った。
闘技場に辿り着いた彼らの『地獄』はこれからだった。
等間隔に用意された『丸太の串』に一人ずつ縛られた彼らは頭も串に固定されたため、観覧席に溢れ返る国民たちの視線に顔を曝されることになった。
「醜いな」
その声に目を泳がせるが、彼らからは姿が見えない。
彼らの『背後』。その壁の上に『声の主』がいるからだ。
ジャーン!と銅鑼がひとつ鳴らされて、闘技場内がシンと鎮まる。
「従是『新王』ノルヴィス・フォン・アムゼリアの名において、『咎人』と其れに縁座及び連座する者の処刑を開始する」
ノルヴィスの『宣言』に、闘技場内外から声が上がる。
闘技場の観覧席には『王都の民全員』が座ってもまだ余裕がある。
それは、この闘技場は『国王の御言葉』を直接賜る事ができる場として、そして兵団の『演武披露』の場として使われているからだ。
――― そして『大罪人』の公開処刑の場として。
その場合、『未成人』の入場は規制される。
ただし、今回は『学院在籍者』の観覧が時間指定だが特別に許されている。
彼らが許されたのは翌日のため、今は成年しかいない。
それでも『入る事ができなかった』者たちのために銅鑼が鳴らされた。
『串』に繋がれた宰相たちはノルヴィスの発した言葉に青くなった。
自分たちの『処刑』だけではない。
『縁座の処刑』と言ったのだ。
『縁座』とは『家族や親戚』のことだ。
今になって、初めて『罪の重さ』に気が付いた。
――― しかし、後悔するには遅すぎた。
せめて『国王崩御』の後に一度でも邸宅に帰っていれば、『国王の騎士』隊長のように自らの罪を自らの生命で償い、家族たちには『減刑』か『恩赦』が与えられていただろう。
隊長は『咎なき者』に『ありもしない罪』を着せては斬り伏せてきた。
彼は今、闘技場前にある十字の『磔台』に括り付けられている。
手足の骨を砕かれた彼は、このまま『衰弱死』するまで放置されるのだ。
騎士隊長として体力もあり、頑丈に出来ている彼は簡単に死ねない。
雨天になれば、嫌でも身体が『水分補給』をしてしまう。
彼が完全に『生を終えた』のは三月過ぎてからだった。