表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/43

第1話


ここは比較的温暖な気候で裕福な国『ゼリア』。

この国の宰相『アマルス・ユル・ノイゼンヴァッハ』は『若いが冷酷』と国内外で有名だ。

現国王『ノルヴィス・フォン・アムゼリア』の『ご学友(悪友)』で、学院時代から「生まれ落ちる家を間違えた『殿下の双子』」と周囲に噂されたくらい『息がピッタリ』なのだ。

それこそ『視線だけで会話が出来る』ほどに。


そんな宰相が『冷酷』と呼ばれるのには訳がある。

それは『ノルヴィスの父(前国王)崩御』と同時に起きた『継承権争い』の騒動が原因だ。

『何事もなければ』、次期国王は王太子『ノルヴィス』で決定だった。

それを、ノルヴィスの『同母弟殿下』を旗印に掲げた『当時の宰相』たちがノルヴィスを幽閉・廃嫡し、『弟殿下』を次期国王に祭り上げようとした。

彼らは『悪王』とも『()王』とも渾名(あだな)された前国王と共に『私腹』と『贅肉(ぜいにく)』を肥やしてきた。

そのため『品行方正』と国民からの評価が高いノルヴィスに『国王になられては困る』のだ。


後にノルヴィス陛下とアマルス宰相は『弟殿下』をこう評価した。


「母を早く亡くし、周囲から『母の愛を知らない可哀想な子』として過剰に甘やかされ、『周囲の思惑に盲目』となった『(あわ)れな子』」


その言葉通り、当時12歳の『弟殿下』は「自分が国王になれる」と喜んでいただけだ。

――― その『責務』や『周囲(まわり)の思惑』も知らず。

何より『父が亡くなった事実(なぜ国王になれるのか)』すら理解も出来ず・・・

ただ、一方的に与えられる『快楽』を享受して思考回路を停止させたのだ。

彼らはノルヴィスを当時住んでいた離宮に『幽閉』し、何人(なんびと)も近付けないように兵を配置した。

そのため『アマルスの姿を見ない』のも『離宮に近付けないから』と軽く見ていた。

彼らは甘く見過ぎていたのだ。

『2人の存在』を。


彼らは『弟殿下』を正統な『国王』にする手続きのため、反旗を(ひるがえ)してから一度も王宮から家族の住む邸宅へ帰らなかった。

『自分の欲』を優先にして『家族を(ないがし)ろ』にするのは、彼らにも彼らの家族にも『当たり前』だったようだ。

――― 誰か1人でも『邸宅』へ帰っていたら、『その後に待ち受ける『悲劇(運命)』』を変えることが出来ていただろうに・・・・・・


『国王崩御』の翌日。

『ノルヴィス殿下廃嫡』の報が王都に広まった。

そして、さらに2日後に『弟殿下』を正統な『国王』として(よう)した。

しかしそれは『早すぎ』た。

まだ『国葬』が執り行われていないのだ。

国葬を終えてから『擁立(ようりつ)』すべきだった。

国民の『(いか)り』は、残念ながら『王宮』まで届かなかった。

彼ら国民は『国王の死』を悲しんで『国葬が行われない』ことを嘆いているのではない。

『ノルヴィス殿下廃嫡』に(おこ)っていたのだ。

『愚王の治世(ちせい)』に国民が我慢してきたのは、『ノルヴィス殿下が世を正してくれる』と信じていたからだ。

そのノルヴィス殿下(希望)が廃嫡されたのだ。

『前王の悪政』に便乗して『甘い汁』を吸ってきた宰相たちに。

――― その『(いか)りの矛先』は『邸宅に住まう家族』と『邸宅で働く者たち』にも向けられた。

『悪事を黙認してきた』として『同罪』と見做(みな)されたのだ。

事実、執事やメイド頭たちは『悪事を知っていた』し、護衛を含めて悪事に大なり小なり『加担』していた。

下働きやメイド見習いも『薄々は気付いていた』らしい。

国民による『暴動』は夜が()けてからも続けられた。

その『灯火(ともしび)』は王宮からでも見ることが出来た。

宰相たちは『弟殿下』に「あれは国民が『陛下が国王になられた』ことを喜んで祝宴をあげているのです」と話し、自分たちも『前祝い』として祝杯を挙げた。


翌朝。目覚めた彼らは地下の牢獄で『罪人』として(ばく)()いていた。

祝杯の酒や料理に『睡眠薬』が盛られていたのだ。

肘から先は袋のようなもので覆われて、身体全体(肩から膝まで)を『虫の幼虫』のように荒縄でグルグルにきつく縛られて床に転がされていた。

そして口には自殺防止用に『枷』が嵌められているため、うめき声しか出せない。

何もない狭い牢の中で、少しでも辛くない体勢をとろうと『芋虫』が6体、唸りながら(うごめ)いている。

しかしそれは『体力の消耗』と『関係悪化』を(もたら)すだけだった。

『自分たちのこと』で精一杯の宰相たちは知らなかった。

隣の牢に『同じ姿』で一人転がされて、隣から繰り返し聞こえる『唸り声』に恐怖して泣いている『自分たちだけの国王』がいることを。


彼らはその状態で5日間放置されたのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ