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十七話 青年、恩人との再会

「盲目か……」


 ルスカが意図せず呟いてしまうと、メイラは眉をピクリと反応させる。


「ルスカ」

「あ、いや、すまぬのじゃ。他意はないのじゃ」


 すぐに謝罪したルスカを手招きをして呼び寄せると、先ほどアカツキがされたように、顔を触られろということ言っているようだ。


「ルスカじゃ──って、わははは!」


 顔を触られるだけかと思っていたルスカは、全身をまさぐるようにくすぐられ、思わず大笑いしてしまう。


「メイラさん。その辺りで」

「ふふ……アカツキが嫁でも連れて来たと思ったが、まさか子供をとはね」


 床で身悶えているルスカに代って否定したアカツキは、本題に入ろうとメイラの前の一人掛けのソファーに腰をおろした。


「ヴァレッタのことかい?」

「ヴァレッタぁ?」


 アカツキが本題に入る前に言い当てられて頷く。

聞いたことのない女性の名前が挙がり、ルスカは腰砕けのままテーブルを支えに起き上がると、問い詰めるかのように聞き直した。


「ああ、気になるのかい? ヴァレッタってのは、この子が転移直後、世話になった貴族の一人娘で私の親友さ」


 メイラはルスカに対して優しく微笑みながら説明した後、アカツキの方に向きを変えると、その顔つきは厳しい表情を見せていた。


「あの子はまだ、怒っているよ」

「そうでしょうね」

「私も親友として怒っている」

「……そうですか」


 悲痛な表情を見せるアカツキに何があったのか聞きたい。

だがルスカは「アカツキ……」と漏らすのがやっとだった。


「居場所を知りたいんだね? ちょっと待ってなさい」

「教えて頂けるのですか?」


 伏せがちだった顔をあげると、意外そうな表情をしていた。


「教えないとでも思ったのかい? ヴァレッタがあんたと会って前に進めるなら(やぶさ)かではないさ。

あの子もあんたに平手の一発でも食らわせたらスッキリするたろうしね」


 メイラは、テーブルのベルを鳴らすと、すぐに扉が開いて、薄手のドレスを身に纏った女性が入ってくる。


「なんでしょうか?」

「今から言う住所をメモに書いて渡してあげなさい」


 慣れているのだろう、メイラの言葉をスラスラとメモっていく女性は書き終えると、すぐにアカツキに渡して退室していく。


「その、旦那様は……今も」

「最近、体調を崩されたみたいだね。それでも諫言(かんげん)しに城に行っているみたいだけどね」

「そうですか……メイラさん、ありがとうございます」


 アカツキはルスカを抱えると頭を下げ礼を述べる。


「言ったろ。あの子のためだって」


 メイラはそう言うと杖を手に取り、周囲に気を配りながら入口の扉を開いて、帰るように促す。


「本当にありがとうございました。勝手ですが、また、お会い出来て良かったです」


 ルスカを抱えたままアカツキは、帰り際そう言い残して部屋を去っていく。

扉を閉めてもたれると「本当に勝手だよ……」とメイラは、床に目を落とし呟いた。



◇◇◇



 酒場で情報を集めていたナックと弥生と合流したアカツキは、メイラからの住所を頼りに家を探していた。


「じゃあ、そのメイラさんって人と親しいって感じだったのね!?」

「そうじゃ。あれは何かあるのじゃ」

「メイラさんって、どんな人だったの?」

「美人じゃし、何よりほっそりとしておった。それに手つきがイヤらしいのじゃ」


 弥生はルスカから娼館で会ったメイラの事を根掘り葉掘り聞いていた。

弥生から鋭い視線がチクチクと突き刺さって仕方がない。


「ナックさん達の方は何か分かりましたか?」

「一応な。何でも、ひと悶着あったらしい」

「ひと悶着? 喧嘩ですか? 普通だと思いますが」


 ギルドに所属している者の中には、荒くれ者もかなりいる。

帝都での喧嘩などは日常茶飯事で、それに軍などが首を突っ込んでくることはない。

しかし、戦争の理由を探っていて、理由が喧嘩とは拍子抜けである。


「いや、却っておかしいかも知れませんね」

「ああ、で、誰と誰が喧嘩したのか、なんだが……一つはSSランクで“虎の穴”ってギルドパーティーらしい。

ただ相手はわかんねぇんだ。何せあっという間に負けたって話だ。それもSSランクの方が」

「「えっ!?」」


 弥生と話をしていたルスカまで驚く。SSランクともなると、その実力は折り紙付きだ。

そのパーティーがあっという間に負けるとは信じられなかった。


「ただ、負けたならともかく全員死んでいるんだ」

「それって、喧嘩じゃなくて殺人じゃないですか!? それに“虎の穴”は実力派の有名なギルドパーティーです。それにしても相手はいったい……」


 ナックも掴めなかったと首をふる。だが、考えをまとめる前に目的の家に辿り着いてしまった。


 そこはとても貴族が住むような家ではない。

アカツキ達の家と大きさも変わらない。

しかし、家の経過年数はもっと古く、あちこちに修繕の箇所が見られる。


 玄関扉の前にアカツキは立つと、ノックの構えに入る。

しかし、どうも躊躇ってしまう。

かといって、他にあてもない。


 一つ生唾を飲み込んだアカツキは、思いきってノックした。


「はーい、今開けまーす」


 家の中から若い女性の高音のか細い声が聞こえると、アカツキには一気に緊張が走った。


 扉を開き出てきたのは、アカツキ達より若く赤い髪の女性。

着ている服は変哲のない無地のワンピースだが、どことなく気品を感じる。

ルスカはこの女性がヴァレッタだと、すぐに推測出来た。


 ヴァレッタと思わしき女性は、アカツキの顔を見るなり怒りなのだろうか体を震わして、腕を大きく振りかぶる。


 平手のような乾いた感じの音はせず、鈍い音が響くと共にアカツキは、向かいの家まで吹き飛ぶ。

女性の手は、平手ではなく拳が握られていたのだ。


「何をするんじゃ!」


 平手ならルスカも我慢しただろう。しかし、拳になると女性とはいえ、威力がグッと増す。

すかさず、白樺の杖の先を女性へと向けた。


「ルスカ!!」


 だが、それもアカツキに止められる。


 口の中を切り血を流すアカツキは、手で血を拭いながら立ち上がり、女性の前へとふらふらとなりながら近づく。


「お久しぶりです……ヴァレッタお嬢様」


 アカツキは右手を左胸にあて、深々とお辞儀をする。


 ヴァレッタが再び拳を作るのを見た、ルスカは鋭い目付きでヴァレッタを睨み付ける。

たとえ、アカツキに怒られたとしても、ルスカの我慢は限界寸前まで来ていた。


 だが、それも杞憂に終わる。

徐々に拳が開かれヴァレッタの青く澄んだ瞳は潤み、頬を一筋の涙が流れた。


「どうして……お父様を裏切っておいて、どうして現れるのよ」


 驚くルスカ達。アカツキが人を裏切るなど、とても信じられず、何かの誤解だと口を出そうとしたが、アカツキが手で遮り止めた。


「……すいません。時間がないのです。旦那様にお会いさせて貰えないでしょうか」

「貴方は……!!」

「ヴァレッタ!!」


 再び拳を振ろうとしたヴァレッタを止めたのは、家の奥から出てきた年配の男性だった。


「やめなさい、ヴァレッタ」


 初めこそ、きつい口調でヴァレッタを諌めたものの、今の優しい口調こそが本来の男性の口調なのだろう。


「旦那様……!!」


 アカツキは、玄関から下がり地面に膝をつくと頭を地面につけた。

その姿に、ルスカ達は本当にアカツキがこの男性を裏切ったのかと驚愕する。


「立ちなさい、アカツキ」

「旦那……さ、ま……私は、うぅ……」


 涙を流し詫びるアカツキに対して男性は、手を掴み立たせる。

男性のその手は皺が目立ち、今までの苦労が伺え知れる。

その手を見たアカツキは、男性の手を握り締めて涙をぼろぼろと溢し泣きながら謝罪を繰り返していた。


「一体、アカツキに何があったんじゃ……」


 ルスカ達は、皆目検討がつかなかった。

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