十話 幼女と青年、いざ帝都へ
「アカツキ~……」
ルスカは一度ハッキリと目覚めたものの、すぐに眠気に襲われアカツキの背中におぶわれグズっていた。
まだ、日の出間近のために街の灯りは薄暗い通りを点々と灯している。砂漠まで夜には辿り着きたいアカツキ達は、早めに出発しなくてはならない。
砂漠まで半日。しばらく仮眠を取って夜に砂漠を通るためだ。
無理矢理起こされた弥生やカホも、馬の手入れに勤しんでいた。
「ルスカ、ちょっといいですか?」
「……なんじゃ~?」
アカツキの問いにうっすらと目を開ける。まだ眠いのだろう、声は出すもののアカツキの背中に顔をくっ付けて目を再び瞑る。
「シャウザードの森は、ルスカが居れば抜けれるのですよね?」
「ふわぁ……そうじゃ……ワシしか通り抜けることは出来ないのじゃ」
大きな欠伸と伸びをすると、両手で目を擦る。
「今まで、ですか?」
「何がいいたいのじゃ……?」
「いえ、ルスカが住んでいる場所までは行けるのですよね? 勇者パーティーやクリストファーさんが行けたように。
ルスカはグランツ王国やレイン帝国から脅されたりしなかったのですか?」
「違うのじゃ。勇者パーティーは来とらん、偶々外で会っただけじゃ。ワシも王国や帝国に知り合いはおる。使者という形で来るが恐らくその者らを脅して聞いたんじゃろ。帝国や王国の脅しなんぞ頻繁なのじゃ……全て追い返したがの」
ひっそりとした森の奥、一人で住んでいたルスカが王国や帝国の大人に問い詰められる姿を想像し、アカツキはしんみりとしてしまう。
「アカツキ! ……大丈夫じゃ。ワシにとってとるに足らないのじゃ」
べっとりと背中に張り付くルスカの温かみをじっと目を瞑り感じるのだった。
◇◇◇
「さぁ、行きましょう」
アカツキの馬にはルスカが、カホの馬には弥生が乗り込む。初めは駄々を捏ねていた弥生だったが、アカツキに説得され渋々カホの後ろに乗る。
説得には、砂漠に三人ベッタリとされると暑いとか、馬の足並みを揃えるとか言ったものの、理由は別にあった。
背中に弥生にくっつかれると、馬の操作に集中出来ないのである。
過去リュミエールを乗せたりしたが、今は違う。
意識しているとしていないとでは、さすがにアカツキも集中を欠くのだ。
三頭の馬は、人通りの少ない通りを過ぎて、リンドウの街を出る。次に戻ってくるのは何時になるかわからない旅路に各々感傷に浸る。
だが、時間がないとアカツキ達は、リンドウの街をあとにするのであった。
◇◇◇
リンドウを東に抜けると、そのまま北東へ森の中を進む。日の出により空は明るさを取り戻すが、森の木々に覆われてランプは欠かせない。
「この辺りでしたか、以前ルスカと野宿したのは?」
「んー、もうちょっと北だったと思うのじゃ」
アカツキとルスカは出会った当初に進んだ道を戻りながら、懐かしむ。
「そう言えば、まずはグランツ王国か。俺は行ったことないからわからんが、どんな所だ?」
弥生もカホも行ったことはない。もちろん帝国にいたアカツキも。ナックの質問に答えたのはルスカだった。
「王都は、かなり広いのじゃ。グルメールの倍はあるのじゃ」
「グルメールの倍!? それは広いな」
「まぁ、百年以上前の話じゃが」
百年前で倍と聞き、ナックは今ならどれほど大きいのか気持ちが昂る。
「ナックさん、王都には寄りませんよ」
「わ、わかってるよ! ちょっと気になっただけだ」
「砂漠見えたよー!」
先行していたカホの声に、二人は馬を走らせた。
「それでは、ここの日陰で夜を待ちましょう。馬に水と餌をやり仮眠を取って出発です」
「アカツキ、お腹空いたのじゃ」
お腹を擦りながら、空腹を訴えてくるルスカに、アカツキはおにぎりを全員に配る。
おにぎりには具を入れていないので、以前に作って残っていた鮭のフレークや鰹節、梅干しを並べる。
「あれ? 誰も梅干し食べないのですか?」
「だって、それ朝のやつでしょ。塩辛過ぎるよ。私は無理」
カホは差し出された梅干しを拒否すると弥生やルスカも断る。
「美味しいのに……」
アカツキは一人梅干しを口に入れて、顔を歪めるのだった。
◇◇◇
日が沈むまで、アカツキとナックが交代で見張りをしながら、仮眠を取る。カホと弥生は木にもたれて、お互いの頭を枕代わりに寄せあって寝ており、ルスカはアカツキの膝を枕にして寝ていた。
暑い風が森の中を吹き抜けていたが、日が傾くにつれその風が涼しくなってくる。
丁度いい頃だと、アカツキは全員に声をかけて起こすと出発の準備にとりかかり始めた。
空の赤みが闇に飲まれ始めた頃に、砂漠へと入っていったアカツキ一行は馬の体力を保つために慎重に北へと進める。
「日が落ちていると、砂漠とは思えないね。想像していたより涼しいわ」
「本当だね、やよちゃん。真っ暗だからランプで照らされいないと砂漠ってわからないよね。空も真っ黒」
「何!?」
アカツキの前で馬にもたれ掛かりながら、うつらうつらとしていたルスカはカホの言葉で空を見上げる。
「いかん、アカツキ! 急いで安全に雨宿り出来るところを探すのじゃ! 一雨来るぞ」
アカツキは、ランプを片手に雨をしのげる場所を見渡して探すが見つからない。
弥生達は、何故アカツキやルスカが慌てているのか、分からずキョトンとしている。
「どうしたの? ルスカちゃん」
「砂漠で雨は、決まって大雨なのじゃ! しかも砂が固まっているから、水を吸収せずに流れてくるのじゃ!」
「つまり、鉄砲水です! 特に低地は不味いですよ」
ルスカの説明でもピンと来ておらず、アカツキも捕捉を加え、ようやく事の重大性に気づく。
「ど、ど、どうしよう。ここって低地だよね!?」
「先に進みましょう! 急いで岩場を探すのです!」
馬の腹を蹴り走り出すと、駆け抜けた背後に砂埃が舞い上がる。
急がねばと、辺りを見回して進むのだが安全そうな場所は見当たらず、頬に滴がかかり全員が焦り始めた。
「きゃーっ!」
とうとう本格的に振り出し更に不味いことになる。豪雨は視界を遮るほどで、安全な場所を探すだけではなく、お互いを見失う可能性も出てきた。
「カホさん、弥生さん、ナックさん! 聞こえますか!?」
しかし、豪雨は声すら掻き消してしまう。びしょ濡れになりながら真っ直ぐに進むが本当に真っ直ぐなのかも分からない。
「ルスカ、ナックさんとカホさんの馬は?」
「くっ! 無理じゃ見えないのじゃ!」
アカツキ達を乗せた馬は、坂を駆け上がろうとするが、雨で時折バランスを崩してしまう。
「速度を落とさないと駄目なのじゃ、アカツキ!」
「し、仕方ありません!」
雨は激しさを増してゆっくりと進むが、完全にカホとナックの乗せた馬を見失っている。
進む方向は同じだが、カホやナック達と速度が違えば離れることになる。
今はまだ良い。
晴れた後が、大変なのだ。
食料と水のほとんどは、アカツキのアイテムボックスの中にある。
出発してまだ数時間。
とても、砂漠を乗り切れるまで耐えられないだろう。
「アカツキ、岩場じゃ! あそこに岩場があるのじゃ!」
ルスカが指を差す方に目を向けるが、雨で良く見えない。しかし、ここで躊躇っている暇はない。
弥生達も見つけてくれるのを願い、ルスカの言う方向へと馬を進めた。
◇◇◇
「不味いですね……」
雨は二時間ほどで完全に止む。岩場の陰に避難したアカツキ達は最悪の状況だった。
弥生達が居ないのだ。
雨に視界と声を遮られ、離ればなれになってしまっていた。
日が昇るまで二時間あるか、ないか。ランプの灯りも消えて真っ暗な砂漠を眺めていた。




