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追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに  作者: 怪ジーン
第一部 第一章 リンドウの街編
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七話 幼女、青年の為にギルドで激昂す

 宿屋の部屋の中に、一枚の白い布地が吊り下げられている。

その布地には熊の絵柄が描かれていた。


「さて、洗濯も終わりましたし、ギルドに登録しに行こうと思うのですが、ルスカはどうしますか?」


 荷物を整理し終えたアカツキは一つ伸びをして、ルスカに聞いてみる。

ルスカはベッドの上に腰をかけ、足をプラプラと動かして退屈そうにしていた。


「もちろん、行くのじゃ。アカツキばかりに働かしては年上の面目丸潰れじゃ」

「えっ? ルスカも登録するのですか?」

「え? とは何じゃ! 勇者パーティーについていく以前は、ギルド登録しとらんが、採取や魔物の討伐しておったんじゃ。ギルドの依頼など楽勝じゃ!」


 ルスカは、腰に手をあて胸を張る。

 しかし、ルスカの隣に腰をかけアカツキは、気になった事を聞いてみた。


「そういえば、ルスカは勇者パーティーに入るまで、一人だったんですよね? どうしていたのですか?」


 出会った頃は、見た目より年上だと思っていたアカツキだが、実際見た目相応の中身だったルスカが、どうやって生活をしてたのか気になった。

 とても、料理や洗濯などしていた節はない。


「身の回りの世話は、全部パペットがしてたのじゃ」

「パペット?」

「うむ。パペットは、魔法人形じゃ。特別な魔法石を埋めこんであるから通常のより精巧なのじゃ」


 ルスカは、ベッドから降りてアカツキの前に立ち、再び腰に手をあて胸を張る。褒めて欲しいのだろう、その意図を汲み取ったアカツキは、頭を撫でてあげた。


「へへへ~」


 おかしな笑いと共に目元を緩ませ実に嬉しそうな表情をしている。目の前の幼女が本当に“大賢者”なのかも怪しく感じてしまう。本当はただの幼女ではないのかと。


「ルスカは……いえ、何でもありません」


 アカツキは聞いていいものだろうかと、途中で言葉を呑み込み、ルスカは小首を傾げていた。



◇◇◇



「さて、遅くならないうちにギルドに登録しに行きましょうか?」

「おー」


 ちょっと話をしている間に、お昼時を過ぎた頃になっており、ギルドに登録に行くだけだし、それほど時間はかからないだろうと思っていた。


 宿を出て、リンドウの街に入った時に見かけた剣が三本交差している看板の店へと向かう。

街では唯一三階建ての石造りの建物で周辺の家と比べてかなり大きく目立つ。


 しかし、高いランクのギルドパーティーを公式パーティーとしても扱うレイン帝国にある冒険者ギルドに比べれば、むしろ小さい方だ。

アカツキもこの間まで、帝国の冒険者ギルドを利用していた為、同じように感じていた。


「一階の受付横は、やはり酒場になっているのですね。私はお酒が飲めないので、理解できません」

「ん? なんじゃ、アカツキは酒が飲めんのか? お子様なのじゃ」


 したり顔のルスカ。どうだ、ワシは飲めるぞ、大人なのじゃと言わんばかりだ。しかし、当のアカツキは困った顔をしていた。


「ルスカ……お酒は、大人になってからじゃないと」

「わ、ワシは大人じゃ! アカツキより、ずーっと大人じゃし、年上じゃ! 正確な年は覚えておらぬが、三百歳以上じゃあ!」


 三百歳以上と聞き、ルスカの言葉に耳を疑うが、こんな分かりやすい嘘を付く理由もない。

“大賢者”や“大魔法使い”などは、元の世界でのゲームや漫画だと確かに高齢のイメージがある。


 アカツキは、宿で呑み込んで聞けなかった質問を口にする。


「三百歳以上だとしたら、その姿は、どうして……?」

「えーっと……それは言いたくないのじゃ……」


 ルスカは顔を伏せながらワンピースの裾をギュッと掴み小声になる。

アカツキもその様子から、それ以上追及しなかった。


「さぁ、ギルドに入りましょう」


 アカツキはそう言うと、ルスカの肩甲骨辺りを押すように、ギルドへと歩を進める。


「いらっしゃいませ~」


 二人並んでギルドの扉を開けると、若い女性の声が出迎える。

声の主は受付の女性で、透き通るような白い肌、背は高く細身で何より特徴のある尖った耳をしていた。


 エルフ。その尖った耳と美しい顔立ちが特徴でもある種族だ。受付の女性も美しい顔立ちをしており、酒場の男どもから粘り付くような視線が送られるが、女性は意に介していないみたいだった。


 二人はカウンターに近づき、ギルド登録の受付をお願いした。



◇◇◇



「な、な、何故じゃ!? 何故、アカツキが登録出来ぬのじゃ!!」


 ギルドの受付カウンターの女性エルフに対して、地団駄を踏みながら怒るルスカ。アカツキが登録をお願いしたところ、断られたのだ。


「アカツキ様は、以前Sランクパーティーに所属しておりましたね。その後追放されていると記録がございます。申し訳ありませんが、Sランク以上のパーティーを追放されると再登録は出来ません」


 受付の説明を聞き、ますますルスカは怒りを露にすると、白樺の杖と片足で床をひたすら叩いている。


「じゃから、さっきも言ったのじゃ! アカツキは何もやっておらぬと! なんで、向こうの言い分だけで判断するのじゃ!!」

「向こうはSランクパーティーですから」


 アカツキが所属していたパーティーが、Sランクまで上がれたのはアカツキのおかげである。その事を知っているルスカは受付のエルフの物言いに限界が来ていた。


「だったら、ワシじゃ! ワシが登録するなら文句ない筈じゃ!!」

「ごめんなさいね。お子様は無理なのよ」


 この言葉を聞いて白樺の杖を一回強く床を突く。

肩を震わし、周りが見ても怒りに震えている事がわかるくらいだ。


「こ、こんなギルドっ、街ごと吹き飛ばしてくれるのじゃ!!!!」


 魔力を高め、白樺の杖の先端に目映い光が集まっていくと、今度は集まった光が、暗い深く深く沈んだ闇に変わる。


「ルスカ! やめなさい!」


 アカツキがルスカを抱きしめ声をかけて止めようとするが、耳に入っていないのか、杖の先の闇はどんどん大きくなっていく。


「ちょっと、何!? この魔力は!?」


 突然、受付のカウンター横にある扉から一人の女性が出てくるが、女性は今起こっている状況を見てギョッとする。

そして騒動の中心であるルスカに抱きついて声をかけた。


「お待ちください、ルスカ様! 原因は分かりませんが、お話はワタシが聞くので、どうかお怒りをお沈めください!!」


 ルスカの事を知っているのか、その女性は必死に頼み込むが止まる気配がない。白樺の杖の闇は今度は一気に収縮し始めた。


「ルスカぁ!! 飴玉欲しくないですかぁ!!」

「欲しいのじゃ」


 恐らくアカツキは無意識なのだろう。

咄嗟に出た台詞にルスカの白樺の杖の先の闇は霧散した。


「アカツキ、早く。早く、苺の飴玉くれなのじゃ」


 アカツキの肩を揺さぶりながら催促してくる。

拍子抜けされたアカツキは、辺りを見ると腰を抜かしている受付のエルフに、酒場では見た目から魔法使いだとわかる者も同じように椅子から転げ落ちていた。


「アカツキ! 飴玉!!」

「あ、はい」


 空間の亀裂から瓶を取り、一つ飴玉をつまみルスカの小さな唇に当ててやると、指ごと口にむしゃぶりついてくる。


「あ、あの。ルスカ様を止めてくださりありがとうございます。危うく大惨事になる所でした」


 アカツキと同じように止めに入った女性が立ち上がり頭を下げる。

改めて女性を見るととても若く十五、六くらいに見え、髪は赤茶けたショートで、背は低くアカツキの胸の辺りまでしかない。

何よりその頭にはピクピクと動く犬のような耳と赤いミニスカートの後ろで動く、ふさふさの尻尾が見えた。


 典型的な獣人の特徴だ。


「ルスカ“様”? あなたはルスカの事を知っているのですか?」

「はい。改めて、ワタシはこのリンドウの街のギルドマスターをしている、アイシャ・カッシュと言います」


 子犬のような小動物を連想させるような愛らしい目でアカツキを見て、尻尾を激しく振っている。


 酒場の男どもからは、嫉妬の炎が渦巻いていた。


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