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追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに  作者: 怪ジーン
第一部 第二章 グルメール王国動乱編
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二話 幼女と青年、首都に向かう

 寝室の暗闇を薄くする柔らかな光が、窓から差し込んでくる。

外は雨が上がり、窓に付いている水滴に光が反射して輝いていた。


 柔らかな光に(まぶた)を刺激されルスカが目覚めると、ベッドの隣にアカツキの姿はない。


 眠い目を擦りながら呆けてベッドに座るルスカ。

頭が働き出すまで三十分ほどかかり、ベッド横に立てかけられた白樺の杖を持つと、ベッドの上をモゾモゾと()うように端に行くとベッドから降りる。


 まだ眠いのだろう、大きな欠伸をしながら寝室を出て一階への階段を降りると、台所には既に起きて朝ごはんの用意をしているアカツキがいた。


 一階に漂う炊きたてのご飯の匂い。しかし、ルスカにはそれが良い匂いとしか分からずアカツキに近寄っていく。


「おはようなのじゃ、アカツキ」

「おはようございます」

「これ、何の匂いじゃ?」


 匂いの元であるテーブルに並べられた白い三角の食べ物。


「ああ、おにぎりですよ。手を洗ったら一つ食べてもいいですよ」

「洗ってくるのじゃ」


 裏庭に手と顔を洗いに行くルスカを見送りながらアカツキは手を休めることなく、おにぎりを握っていく。


「こうして、おにぎりを大量に握るのは妹の運動会以来ですかね」


 独り言を呟き、懐かしい頃を思いだし思わず鼻歌を口ずさむ。


「あ、あきゃつきぃ~!」


 おにぎりを握るのに夢中になっていたアカツキの背後から、突然の奇声に驚き振り返ると、いつの間にやら(かじ)られたおにぎりを持ったルスカ。

顔のパーツが全て中央に集まるのではないかと見間違うかのように、しかめていた面構えになっていた。


「に、にゃんなのじゃ~、すっぱいのじゃ~!」


 噛られたおにぎりの中から見えるのは赤紫色の梅干し。

アカツキ特製の梅干しで、かなりのすっぱさと塩辛さが特徴だ。

転移したての頃作った物で、かなりの年季も入っている。


「アカツキ、おにぎり嫌なのじゃ~」


 アカツキから渡された水の入ったコップと交換に食べかけのおにぎりをアカツキに渡す。


「あー、ルスカ用ではなく、私用のを取ったのですね」


 アカツキは梅干しが入ったおにぎりがある自分用とルスカ用に分けていた。

しかし、テーブルの手前に自分用を置いていた為、ルスカの背丈で届く手前のおにぎりを取って食べてしまったのだ。


「こっちがルスカのですよ」


 アカツキが渡したのは、胡麻がご飯に混ぜられたおにぎり。

先ほどの事もあり、少し疑惑を抱きながらアカツキの顔をチラチラと確認して、噛りつくと、瞳がパッと輝き出す。

おにぎりの中には薄紅色の鮭のフレークが入っていた。


「これは好きなのじゃ。すっぱくないし、それに噛むと旨味が出て、ちょっぴりの塩気がこの白いのと良く合うのじゃ! この粒々は胡麻じゃな。プチプチして食感が楽しいのじゃ」

「白いの……って、それはお米ですよ。私が元いた世界じゃ主食の一つです」


 聞いているのかいないのかわからないが、ルスカは返事もせずにおにぎりに夢中にかぶりついている。

アカツキは一つため息を吐いて、ルスカの食べかけのおにぎりを口に入れるのだった。


「すっぱ……」



◇◇◇



「ルスカ、準備はいいですか?」

「大丈夫なのじゃ」


 おにぎりを昨日買ったお重に詰めてアイテムボックスに仕舞うと、二人で裏庭に出る。

まだ朝靄(あさもや)がかかり、雨上がりの匂いがする早朝、ルスカを馬に乗せるとアカツキもルスカの後ろに跨がり通りに出た。


「よーし、“イチゴカレー”出発なのじゃ!」

「お、おー。ってやっぱりパーティー名、変えませんか」


 元気良く号令を掛けるルスカとは、対照的に照れながら号令に答えるアカツキ。


「何を言ってるのじゃ! “イチゴ”も“カレー”もアカツキもワシは好きなのじゃ!」

「えっ!? あ、それは嬉しいのですが……」


 面と向かって好きと言われて、ちょっと照れるアカツキ。

しかし、これだと後々好きなものが増える度に、もっと長いパーティー名になりそうな予感がした。


「ええっと……こっちには苺もカレーも知っている方はいないですし、意味を尋ねられたら答えにくいので、前向きに検討するという方向でお願いします」

「むう……確かにアカツキが転移者だと説明しなくてはならないかも……うーん、考えておくのじゃ」


 政治家みたいな妥協案を出したアカツキに、ルスカは渋々受け入れる。


 とまあくだらないやり取りをしながらアカツキ達は、グルメール王国の首都グルメールに向かい、南の門から街道を歩むのだった。



◇◇◇



 このローレライには転移者と呼ばれる者は、過去にもいた。


アカツキは知らない。

自分が転移してきた時、集団転移だったことを。

転移を実行した帝国は知らない。

自分達が行った転移が、集団転移だったことを。


「それじゃ、そのビックリ箱を売っていた人は間違いなく転移者なのですか?」

「間違いないのじゃ」


 アカツキ達は、街道を南に進み以前ピーンという果実を採るクエストの際に入った森の手前で休憩と食事をしていた。


 早朝にリンドウの街を出発したが、日も暮れ始め森の木々の葉が、夕日に照らされ赤く燃え上がり始めていた。


 休憩し始めた頃、アカツキはルスカの使った魔法“ビクリバコ”がビックリ箱からヒントを得て作られ、そのビックリ箱を売っていた人が転移者だと言っていたのを思い出し、ルスカに尋ねたのだった。


「それはいつ頃なのですか?」


 アカツキは、自分以外にも転移者がいる事に驚きながらも、内心会いたい気持ちになる。

転移してきた時から、周りは知らない人ばかり。

その転移者が、もしかしたら自分の知っている人なのかもと一縷(いちる)の望みを抱いて。


「三年か四年くらい前なのじゃ。会ったのは帝国領内の小さな村だったかの」

「帝国ですか……」


 帝国と聞き大きく肩を落とす。

帝国にあまりいい思い出のないアカツキは、どうしたものかと思い悩む。


「……ツキ、アカツキ!」


 ルスカの声で自分の意識が明後日の方に向いていたのに気づく。


「アカツキ、まずはクエストなのじゃ! 帝国にはいつでも行けるのじゃ」


 いつの間にか横に来ていたルスカは、強引に顔を自分の方に向けさせる。自分を見て元気を出せと言わんばかりに。


「ルスカ、痛いですよ。……ありがとうございます」


 ルスカの頭を撫でた後、抱きかかえて立ち上がると、馬に乗せて自分も騎乗する。


「さあ、暗くなる前にもう少し見晴らしのいい場所を探しましょう」


 手綱を動かし、街道沿いに西に進み始める。

このまま西に進んだ先に首都グルメールがあるのだ。


 適度に野宿出来る場所を探しながら街道を進むと、一台の馬車とすれ違う。


 アカツキは挨拶に頭を下げると、馬車の御者の男も頭を下げる。

屋根のない荷台には、数人の子供が乗っていた。


「あれは相乗り馬車なのじゃ。しかし、子供ばかりとは珍しい」


 ルスカが馬車に掲げられている黄色い旗を指差して説明してくれた。



◇◇◇



 馬車とすれ違った直後、馬の速度が少し落ちる。

どうやら緩いながらも登り坂になっているらしく、街道の先に日が沈んでいくのが見えた。


 赤く照らされた街道の坂の頂上に影が見える。その影は下り坂をものすごいスピードで下り、すぐにアカツキ達にも何の影かがわかった。


「馬車? 随分と豪華な馬車のようですが……」


 二頭の馬に引かれた馬車は、豪華な装飾が夕日に照らされ光輝き、純白の馬車が赤く染まり貴賓に溢れる。


「アカツキ! 馬車の後ろじゃ」


 馬車の後ろにも五、六頭の馬の影が現れる。


「追われているようじゃ! このままではさっきすれ違った相乗り馬車も危険なのじゃ」


 このまま見逃せば、相乗り馬車に追い付いて巻き込まれる可能性が高い。

アカツキは、馬に気合いを入れて走り出す。


「アカツキ! ワシの体を支えてくれなのじゃ!!」

「はい!」


 アカツキが片手でルスカの体に腕を回すと、白樺の杖を天に掲げる。


“大地の聖霊よ 我と汝の力をもって 大いなる城を築かん グレートウォール!!”


 今まで無詠唱だったからわからなかったのだが、魔法を使えないアカツキさえも感じるほどルスカの周囲に集まる魔力の大きさに、頬に一筋の汗が流れる。


 以前使った“グレートウォール”とは比でなかった。

馬車と馬車を追う馬の間に土の壁が出来たのだが、その壁は街道の幅どころか、街道横の森の一部が盛り上がり、その高さも優に十メートルは越えた。


 壁と言うには余りにも大きく、まさに城である。

そしてその城の向こうから、悲鳴や断末魔が聞こえてきた。


 そんな中、一人笑うルスカの顔を見て、アカツキの背筋はとても寒くなるのだった。

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