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追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに  作者: 怪ジーン
第一部 第六章 レイン帝国崩壊編
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十六話 愚か者達、その末路

注※今話、少し残酷な表現があります

 ヨミーに向けて地響きを立てながらアスモデスが、接近してくる。先程のお返しだと言わんばかりに殴り付け、後退りさせていく。


「コ、コイツ腕ガ……!」


 千切れて失ったはずの腕が既に再生始めており、その腕すら使って、なりふり構わず連打でヨミーを押し込んでいく。

殴る度に再生して伸びたり、再生途中で殴り潰れたりして距離感が上手く取れずに、ガードするだけで手一杯のヨミー。

反撃の糸口が見つからないまま、アスモデスが咆哮する。


「サセルカイナァ!!」


 射線上には帝都がある。連打が一瞬止まった隙を見逃さずにヨミーは、アスモデスに右肩を密着させると、左腕を自分の腰に畳むように密着させると、腰を回転させながら、左腕を目一杯、天に向けて伸ばすと同時に地面を蹴りあげた。


 アスモデスの口はヨミーに顎をカチ上げられて空を向く。

飛んでいった魔法は青空に舞い上がり、やがて途中で掻き消された。


「ちっ! 今の狙ってやったのか!?」


 魔法が消えた空には、リリスに抱えられ高みの見物を決め込んでいた馬渕が、めんどくさそうな顔をしてヨミーとアスモデスを見下ろす。


「しかし、あの人形何故なかなか壊れない? ──いや、そうか。なるほどな」


 一人で質問して一人で納得する馬渕に、リリスは不思議そうに首を傾げながら理由を尋ねた。


「なに、()()()がな。色々と教えてくれたわけだが、どうもあのパペット──対魔法を体の外に施しているだけではなく、更にその外、薄皮一枚分に上から魔法で物理障壁を出しているみたいだな。だが、それも……」


 馬渕は不敵な笑みを見せ、互いに殴り合うアスモデスとヨミーを眺めていた。



◇◇◇



「帝都の住民の半数が避難を開始して、既に帝都を出ております」

「わかった。下がっていいぞ」


 ルーカスは、帝都の様子を伝えに来た兵士を退室させると、ヴァレッタの肩に手を乗せて向き合い優しく目を細める。


「さぁ、ヴァレッタ、行きなさい。レベッカ様を宜しく頼むぞ」

「はい、お父様。お父様も……お父様も御無事で! メイラ、行きましょう……メイラ?」


 盲目のメイラの手を取って部屋を出ようとしたヴァレッタだが、スルリとメイラの手が抜けてしまう。

メイラが、この場を動こうとせずにヴァレッタへ向けて微笑むのみ。


「私はここに残るよ。この目じゃ足手纏いになるから。それにね、寂しいじゃないか。陛下やルーカス殿が戻って来た時に“お帰りなさい”の一言も言う人が居ない城なんて」


 メイラは、荷物もろくに持たずに逃げ出す住民のお荷物になる訳にはいかないと、何よりも働いて帰ってくる殿方を、優しく微笑み迎えるのが色街に住む女性としての矜持なのだと。


 自分が幼い頃から出会い、時には姉のように、時には親友として、ヴァレッタが甘えることの出来る唯一の人物。

メイラの細く括れた腰に手を回して抱き締めるとヴァレッタは一言「お父様をよろしくね」と、震える声でメイラの耳元で囁く。


 メイラも一度強く抱き締める。日だまりのように暖かなヴァレッタを忘れないようにと。

二人は、離れると互いに笑顔を作る。そして、ヴァレッタは二度と振り向くことなく、部屋を出ていったのであった。



◇◇◇



 一方、アスモデスとヨミーの戦いを帝都付近から眺める老齢の男がいた。

彼の名前は、ボッデスといい、帝都にあるギルド本部のマスター。つまり、ローレライ全土にあるギルドの頂点に立つ男。

齢は既に八十を越えており、現役を退いてから長い時が過ぎていた。


 この間のグランツ王国との戦争にも参加する気満々であったが、周囲から止められて不満を貯めていた。

血気盛んなボッデスは、最後の一花を咲かせようと自らギルドの面々の指揮を執る。


 ギルドに所属している高ランクのギルドパーティーが、今まで帝国から安定した給金が支払われていたのは、まさにこういった緊急を要する事態に備えてだ。

そう、高ランクにはSランク以上を指す。

つまりは、このボッデス率いるギルド所属の軍隊には、あのアカツキを追い出したSランクパーティーも勿論帯同していた。


 男性二人と女性二人のギルドパーティー。歳はアカツキとそう変わらないか、やや上の四人組。

アカツキのお陰でSランクにまで登り詰め、アカツキを追い出した後は帝国から支給されるお金で悠々自適な生活を送っていたのだが、前回の戦争では殆ど出番らしい出番はなくて安堵していた所に、今回の事案である。

遠くにあるにも関わらず、姿を確認出来る大きさに四人は、頭を抱えて落ち込んでいた。


「どうするんだよ……あんなのに勝てないぞ」

「バカ! 私達じゃそれ以前の問題じゃない」

「くそぉ、これも全部あのアカツキがいてSランクになったせいじゃねぇか」

「本当よ、いい迷惑だわ!」


 四人は、コソコソと話をしながら他のギルドパーティーと共に整列していた。

ボッデスが、細かな指示を出しながら二つの部隊へと分けられる。

一つは、後から来る帝国本隊と協力して戦う部隊。

もう一つは、ボッデス自ら率いる今からヨミーと協力して戦う部隊。

四人組が配属されたのは、ボッデス率いる部隊であった。


「どうする? どうする?」

「落ち着け。いいか、隙を見て逃げるんだよ。なぁに、ちょっと大袈裟にやられたフリしてそのまま離脱するんだ」


 逃げる作戦を決めた四人組は、ボッデスを先頭に進む部隊の一番最後をついて行く。



◇◇◇



 ヨミーとアスモデスの殴り合いは、一見互角に見えた。一向に疲れを見せないアスモデスに対して、ヨミーの体力とも呼べるエネルギーのようなものも問題なく供給され続けていた。


 問題は、ヨミーの身体の造り。金属で出来ているヨミーは、幾度となく繰り出す拳に悲鳴を上げ始めていた。

いわゆる、金属疲労である。


 拳を繰り出す為に動き続ける腰の部分の金属に一番負担がかかっていた。

痛みを感じないが故に無理を通り越していたのである。


 そこにボッデス率いるギルドパーティーで構成された軍が投入される。

ヨミーとアスモデスの殴り合いの隙間を狙い、足元を攻撃し始めた。

ボッデスが先頭となり、八十を越える年齢とは思えない速度で足元へと到着すると、身の丈の倍はある双斧を振りかぶりアスモデスの足首にめり込む。


 体勢を崩したアスモデスを見て、チャンスだと思ったヨミーとボッデス率いるギルド軍。

接近すれば、長い腕を掻い潜ってボディを狙える。

自分でもやれるのだと証明したボッデス。

勢いづいて、一気に攻めいる。

しかし……ヨミーの足が前に進まなかった。


「ナ、ナンデヤ!?」


 金属疲労は起こしていなかったが、磨耗が激しく足の関節部分が空回りしていたのだ。

そんなこととは気づかないヨミーは、足を動かそうとするが前へと進まない。

そして、勢いに乗ったボッデス率いるギルド軍は、止まる事が出来ずにアスモデスの前へと出すぎてしまった。


 バランスを崩したアスモデスは、早くも体勢を立て直す。

調子に乗ったのは、アカツキを追い出したSランクパーティーの四人組。

四人組もチャンスと見て、ここで爪痕を残せば将来は安泰だと最後方から一気に先頭へと躍り出ていた。


「クソッ……ココノママヤッタラ……」


 アスモデスは足元に写る小さな蟻達に向けて、拳を地面へと突き立てる。

一斉に逃げ出す蟻達。


「引けぇ! 引くのだ!!」


 ボッデスの必死な叫びが辺り一面に広がる。

四人組も必死に逃げるが、その内のリーダーとおぼしき男は、間一髪直撃を避けるも、拳圧で吹き飛ばされた。


「ぐわあっ! み、みんな無事か!?」


 転がる体を起こして、辺りを見回し仲間を探す。アスモデスの突き立てた地面は、拳の形に凹み跡が残る。

その跡には、多くのギルド軍だと思われる残骸も残っていた。

あまりにも潰れ過ぎて、個人の確定など出来ない。


 その時、悲鳴が四人組のリーダーだった男の耳に入ってくる。咄嗟に悲鳴の方を見ると、思わず胃の中の物が口から飛び出してしまう。

悲鳴の主は、四人組の女性陣。

アスモデスの足に踏みつけられて、下半身が完全に無くなっていた。


「ひ、ひぃいいいいっ~!」


 四人組のリーダーは、アッサリと仲間を見捨てて逃げ出そうとするが、腰が砕けて上手く立ち上がれずに、四つん這いのまま地面を進む。

辛うじて助かったボッデスも生き残りを集めて、撤退を開始した、その時。

アスモデスから咆哮が聞こえた。


 突然吠えたアスモデスに、撤退していた生き残った者は、何事かと足を緩め後ろを振り向く。


「ト、止マッタラ、アカーン!!」


 ヨミーは叫ぶが、ボッデスを始め生き残った者は、振り向いた瞬間に黄色い光に包まれた瞬間、地獄絵図が描かれる。

地面から槍状の岩が飛び出して、次々と腹を抉り、頭を潰し、背後から貫かれる。


 ギルド軍の第一陣は、ボッデスも含めてあっという間に全滅という結果であった。

次回投稿予定は2/22か2/23になります。

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