フィル
短めです。
俺の仕える伯爵家のアルフォンス様は五人兄弟の末っ子だ。御当主様は武勲をたてた騎士様で婚姻と同時に家督をついだお方だ。御当主様に心酔している騎士時代の部下が数名領地に着いていき、御領主様を見習い、領地で家庭を持った。数年後には伯爵家跡継ぎも生まれ、そのあとに続けとばかりに領内でベビーラッシュがおき、何年か遅れて生まれたのがこの俺だ。
伯爵家の五人兄弟のうちで一番年の近い男子が侍従としてつけられるのだが、四男様より二つ年下の俺は四男様の侍従になれず、二つ年下の五男、アルフォンス様の侍従に決まった。
剣術にたけている四男様は俺の目から見てもものすごくかっこいい方で、あの方の為に、と、剣術はもちろん魔術も使えるように頑張った。剣の師匠にも魔術の先生にも褒められるようになった俺は、四男様にお仕え出来る! と、夢見ていた時だった。
大人たちの決断は俺にとって納得いかないものだったから、ムカついた俺は何度も父に抗議した。昔から俺のあとをついてきて、質問ばっかりしてくるお子ちゃまの泣き虫のお守なんてやなこった。
「 俺なんかよりも向いているヤツいるだろ? 何で俺がアルフォンスサマの面倒見係なんだよ。」
「 年が近いからだ。」
何回聞いても変わらない見も蓋もない返事が帰ってきて、なんか反抗してるのがアホらしくなってきた。そんな時にお子ちゃまなアルフォンスに魔術を見せたのは、悔しさ半分、いらだち半分、まあ、どうにもならないことへの怒りだったのかもしれない。あっけにとられたお子ちゃまのまん丸になった目は見ていて気分が良くなった。
------ ざまあみろ。
しかし、そううまく事は運ばなかった。しばらくはこのネタで泣かせてやろうと思ったのに、あっという間にめきめきと力を付け、俺より強い術が出せるようになってしまった。今度は俺の目が丸くなる番だった。なにが、見て見て!フィル!出来ちゃっただよ。くそ、これだから天から二物も三物も与えられたやつはよ。
本格的に魔術師になることに決めたアルについて行けと主命を受けた俺は、立場的には護衛だが実際にはただのお荷物だ。魔法剣士としてそこそこの俺は偉大な魔術師にはかなわない。
本当は自分がみじめになるようなこんな仕事はやめたいんだけども・・・。
「 フィル・・・。」
心細そうな目で見られると、子犬を見捨てる気分になる。キューン、という鳴き声とぺたりと伏せられたふさふさの耳が頭の上に見える、ような気になる。
------ これじゃあ俺が悪人みたいじゃないか!
ふん、と、鼻息を一つ出して気合を入れる。・・・まあ、弟分がいなくなるのは、なんか、その、淋しい気もしなくはなくはないかもしれない。
「 行きますよ。早く帰って支度をしないとエイミー様がいらしてしまいます。それまでに花ぐらい用意しないとか、まあ、ないですよね? 」
「 !! 」
途端にしゃきっとして走り出すアルは現金なやつだ。
「 おい、フィル、遅いぞ!早く、早く!! 」
へいへい。荷物を抱えてものごっつう速足で歩きやすよ。アルが暴走する前に止めるのも俺の仕事ですからね。
婚約者様が好きすぎて好きすぎて平常心が保てないなんて、どうなんですかね?