第八話 適応能力
「…フン、つまらん」
「…え?」
魁斗は背を向けて歩き立ち去る準備を始めた。
「ちょ、ちょっと待て!まだ勝負は終わってないぞ!」
「お前からは、戦うという意思が感じられない。そんな奴と戦っても、俺の勝ちは決まってる」
「そんな事はっ…」
事実、幸生は迷っていた。
この戦いの中で紋章が使えるのか、また使えたところで制御ができるのかという事に。
その迷いが魁斗に伝わってしまったのだろう。
「親父が水無月をあれほど意識していたからどんな奴かと思ったら…とんだ臆病者だぜ」
その時、魁斗は出る準備を終わらせた所で、幸生は立ち上がった。
「臆病者かどうかは……もう一度試してから言えよ」
「…へぇ」
幸生は紋章の力を発動した。
――すげぇ、なんだこれ、体が軽い。
使った途端の体の違和感に幸生は驚いた。
だが、紋章の効果でそれは顔には出ない。
「なんやなんや!?急に幸生からめっちゃえげつない魔力を感じ始めたで!!」
「幸生君…使ったんだんだね」
「使ったって、何をや?」
「えっとね…詳しくは私にも分からないけどね――」
睦月は純吉に幸生の持っている紋章について話した。
「それ、ホンマかいな…」
「う、うん。だからあれは使いすぎちゃ駄目なの。幸生君自身にかかる負荷が大きいから…」
睦月は幸生を不安そうに見つめていた。
「せやけど、あれを使わんと幸生はろくに戦う事もできひんし…難しい所やな」
「いや、一つだけ方法があるよ」
「うぉあ!?」
「は、葉月先生?いつから?」
「ついさっき、ね」
いつの間に来ていたのだと、二人は思った。
「てか、方法ってなんや先生?どんな方法なんや?」
「うーん、これは彼君自身の問題だからねぇ。上手くいくかは時間の問題とやる気次第だけど」
「幸生君です、自身…?」
「そう…方法は至ってシンプル。幸生君自身にはあの紋章に慣れないといけないんだ!」
葉月はビシッと幸生の元に指を指しながら言った。それを純吉は「何言ってんねんコイツ」みたいな顔で見ていた。
「…急に雰囲気を変えたところで、勝てると思っているのか?」
「勝てるさ、これは雰囲気だけ変えただけじゃ無いからな」
「「……」」
数秒の沈黙が生まれた後、先に動いたのは幸生だった。
魁斗に向かってかなりの速度で走り出す。
踏み込んだ右足で地面が軽くめり込んだ
「こいつ、急に速く…!?ぐっ!」
幸生のハイキックが魁斗に向かって繰り出されるが、間一髪魁斗はガードした。
だがそれも束の間で、幸生はくるりと回り、回転の勢いで左足で魁斗を蹴る。
「ぐっ…!」
この攻撃は当たり、飛ばされる魁斗。モロに入ったせいか、動きが止まる。
「…まだ、いける」
「っ…調子に乗るな!」
魁斗は氷を造形し、幸生に向かって数弾飛ばす。
だが、幸生はそれぞれの氷が飛んでくる順番を見切り、全て弾き飛ばした。
「何っ!?」
「見える…気持ち悪いくらいに、攻撃が見切れる」
「ふざけた事をっ…さっきまでの姿はブラフか!」
「ブラフなんかじゃない。こいつが俺の能力…いや、呪いだったかな…まぁそんなもん」
幸生は自分の体の流れを馴染ませるかの様に、手を開いたり閉じたりした。
その動きが相手を挑発しているように見えたのか、魁斗は怒りがこみ上げていった。
「…親父の言っていることは正しかったみてぇだな。なら話しは簡単だ。水無月、俺はお前にここで勝つ!」
「…こっちも負けたくないし時間も限られてるから、早めに終わらせるしかないな」
「ふざけた事抜かしやがって…ますます気に入らなくなってきたぜ」
魁斗は前に手を出し、幸生に向かって掌を見せる形になる。
「…?」
「…連牙氷牢陣!」
魁斗がそう唱えると、幸生の周りに冷気が漂い始める。そして幸生の周りの冷気は高速で周り始めた。
「喰らえ!」
「っ!」
突然氷の刃が幸生に向かって飛んでくる。
幸生はギリギリ避けるが、一発だけではなく、上下左右、全方位から勢いよく飛んできた。
「すっげーうっざいっ…!」
「そのまま倒れるんだな」
魁斗が拳を握った直後、幸生の周りの冷気が一気に幸生に近づき、爆発した。
その爆風はは熱くなく、とても冷たい風が純吉達の元まで届いた。