第六話 知らぬが仏、睨まれるが無の如し
「ワイは雷の魔法が得意やで!」
「へぇ、ビリビリしてそう」
「触ると感電するでー?、気をつけや!」
「…えぇ!?」
「いや流石に嘘やで?…って待て待て離れんなや!」
謎の会話をしている幸生と純吉
ふと幸生は思った事があった。
「そういえば他に人はいないの?」
「ん?おるで!まだ任務中やろうなー」
「…任務」
そもそも任務とは何なのか。どのような事をしているのか。
幸生は他の人の次にその事が気になっていた。
「…気になるか?どんな任務をしているか」
「…さすがに気になりますね」
「なんや?知らんで来たんか?簡単に言うとな――」
純吉はソファーに座っている幸生の前に立ち、顔をズイっと近づけて言葉を言った。
「戦争や」
純吉はそう言ってニヤリと笑った。
ついさっきまでの笑顔とは違う。どこか黒みのある笑顔だった。
「せ、戦争?」
幸生は何故戦争なのだろう。世界大戦でもおっぱじめるのかと考えていた。
(戦争って社会の授業くらいでしか聞いたことないぞ…)
「…クククク」
「…え?」
「アッハッハッハ!!そんなに驚かんでもええって!戦争と言ってもワイらはただの学校の風紀委員みたいなもんやで!」
「え、風紀?え?」
幸生は頭がまるで追いついていない様子だった。
その時に龍悟が純吉に睨みつけた。その目つきはまるで「さっさと、簡潔に、説明しろ」とでも言いつけているようだった。
それに気づいた純吉も「ういっす…」と青ざめた感じでナイスガイポーズをした。
「…まぁせやな。ワイらは魔法使いの中のおまわりみたいなもんやな」
「おまわり…警察官?」
「せや。一般人が犯罪を犯すように、ワイら魔法使いも犯罪を犯すやつらも少なくない、むしろ多いくらいやで。それを正すのがワイら。あ、勿論それ専門の仕事の人達はおるで?ワイらはその悪い奴の動きをある程度止める役目や」
ある程度説明された幸生は何となく納得できた。
こちらである程度相手を抑制した所を後はバトンタッチ。
少し漁夫の利をかまされている気もしたが、特に問題は無いならいいと、幸生はそこは特に気に止めなかった。
「今任務に行ってる奴らも皆そういう任務や。あ、だけどそういう任務でも特別任務。つまり危険な所に行ってる奴もおるで」
「へえ。じゃあその人は強いって事か」
「せや!まーワイも強いんやけどな!今回はワイの出る幕や無いと言うかそんなところや!」
そう言いながら純吉はアハハと笑う。
その時、ドアが開き二人入ってきた。
「ただいま帰還ました。無事に人質も救出できました」
「後は向こうの人がやってくれるそうです」
入ってきたのは睦月と青年だった。
その青年は髪の毛に青色のメッシュが入っており、森林の中のような緑色の瞳をしていて、顔立ちも良く、見るからにイケメンだった。
「…?純吉、その隣にいるのは誰だ?」
「こ…幸生君…!?どうしてここに…?」
「む、睦月こそどうして…?」
「なんや、二人とも知り合いやったんか?」
純吉が尋ねる。
「ま、まあな」
「幸生君とは同じクラスなの。この前転校してきた時に、学園内を案内してあげたりしてたんだ」
「なるほど、納得したわ」
ウンウンと純吉は頷く。
するともう一人の生年が幸生に近づいてきた。
「…ここにいるって事は、この隊に入るってことだよな」
「…まぁ、そうなる」
「そうか…俺は氷堂 魁斗。よろしくな」
そう言って、魁斗と名乗った青年は手を差し出してくる。
いわゆる握手というやつだろう。
「よ、よろしく。俺は水無月幸生」
「…水無月?」
水無月というワードに魁斗は眉をピクリと動かした。
その反応に幸生は首をかしげた。
「かっこええやろ!水無月!ホンマええ名前やな!」
「じゅ、純吉君…多分そうじゃないと思うよ…」
純吉の反応に睦月は否定の言葉を述べる。
「そうか、お前が…」
「え…」
「…これから仲間になるのだから、余計な手出しはしない。だが、俺はお前達、水無月家をーー」
手を離した魁斗は真っ直ぐに幸生を見つめた後、静かに、威圧するように言葉を発した。
「絶対に許さないからな」
「…ん、んん!?」
幸生は驚きを隠せなかった。
さっきまでいい雰囲気だったのに自分の苗字を言っただけで空気が変わる。
こんな事は生まれて初めてだった。
魁斗は幸生をじっと怒りを静かに表すように見つめていた。
その目は睨んでいるようで、幸生を見つめているのか、もしくは水無月という何かを見つめているかの様だった。
「…なー睦月。ワイらどないすんのこれ」
「ど、どうしよう…喧嘩は止めた方がいいのかなぁ…?」
この二人の側で、この緊迫した状況をどうすればいいか考えている、ただただ平和な二人。睦月と純吉であった。