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新存の魔法使い  作者: つむ
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第三話 内に秘めたモノ

目覚めは一瞬で、眠りはまるで永遠に続くように感じると、幸生は昔からそんな考えをしていた。

目を開けると、目に映るのは天井だった。どうやら自分は気絶して保健室にでも運ばれたのだろうと幸生は思い込んだ。


「お、どうやら目が覚めたみたいだね。どうだい?今の気分は」


そこにら悠大がいて、幸生の目が覚めたのに気づいて、声をかけた。


「んー…だるい…」

「うん、そうだろうね。おそらく君は急な多量の魔法の放出で体が疲労のピークを一瞬で越えてしまったんだろう」

「疲れのピーク、か…」


幸生はゆつくりと上体を起こして、気だるげな態度で首を軽く回す。いつも朝は平気なタイプの幸生は、今回に限ってはとても体が重く感じていた。


「本当は魔法を大量に使うと、魔法使いの体は自然に魔法の放出を止めるよう、脳に命令される筈なんだけどね。君はまだ魔力のコントロールが制御できていなから、そのせいかな?」

「…わからん。だけどその時は、俺もよく覚えてないから」

「ん?それはどういう意味かな?」


「えーっと…話すとなると難しいんだけど、変な奴らが来て、俺を馬鹿にしてきて…」

「それで怒ったのかい?」

「いや、俺だけじゃなくて、同じクラスのむつ…白濱さんも馬鹿にし始めたから、それでなんか…」

「なーるほどね…」


悠大は少し疑問に思いながらも、その状況を頭に思い浮かべて、考えついた事を幸生に話し始めた。


「つまり、怒ったら何故かさっきまで魔法が使えなかったのに、魔法が使えるようになった感じかな?」

「…多分、そうだと思う。体も急に軽く感じたし、我を忘れた気分だった」

「まぁ、それは白濱さんに聞いた方が早いよね」


悠大がそう言うと、ドアの方からノックを二回叩く音が聞こえてきた。そのまま睦月が部屋に入ってきた。


「し、失礼します…」

「いらっしゃい。幸生君はついさっき起きたよ」

「も、もう大丈夫なの…?」

「まだ体はめちゃくちゃだるいけどね」


幸生がそう言った後、悠大は睦月に質問を問いかけた。


「さて、来てもらって早速質問だよ、白濱さん。幸生君の変化はどのような変化だったか、分かるかい?」

「えっと…急にとてつもない威力の魔法を打ちました…あと…運んでる時に寝言みたいなのをを言っていたと思います…」

「寝言…?」

「はい…」


――幸生が気絶した時の時間に遡る――


「は、早く保健室に…よい、しょ…!」


睦月も魔法使いなので、幸生くらいを運ぶのには簡単だ。そして睦月は幸生を後ろに背負って訓練室を出た。


「幸生君…どうして急に倒れたりなんて…私が馬鹿にされて…私のせいでこんな…」


睦月は少し涙目になりそうになりつつも、幸生を横目にチラチラと見つつ、廊下を早歩きしていた。


「…む…」

「…!幸生君、大丈夫!?どこか痛い!?」

「…む、じょ…う…」

「え…?何?むじょ…う?」

「もん…し…が…」

「え…な、何が言いたいの…?」


幸生はそう呟いた後、がっくりと睦月に体を預けてしまった。


「は、早く連れて行かないと…!」


――そして今の時間に至る――


「もんし…いん…とけた…って…」

「な、なんだそれ…?訳が分からん…先生、これどういう意味で…?」

「まさか…いや、ありえない…あれは既に滅んだんじゃ…!」

「…葉月先生?」


幸生が尋ねようとした時、悠大の表情はまるで鬼気迫るような顔をしていた。


「…幸生、背中を見せてくれないか?」

「え、背中って…何で?」

「それは後で説明する、早く!」


悠大は鬼気迫るような表情で幸生を見ながらそう言った。


「わ、わかった…」


幸生はそう言うと、制服の上だけを脱いで上半身裸の状態になった。


「え、えぇ…!?」


睦月は見慣れない男性の裸に顔を真っ赤にして、手で顔を隠した。


「…こ、これは…」

「え、何?俺の背中に何かあるの?」


幸生が何か不安そうに言うと、悠大は一息ついてから、机の上にあるカメラを取り出した。


それを使って幸生の背中を撮る。


しばらくすると、写真が一枚現像された。


「幸生君、これを見てくれ」

「…俺の背中に、なんだこれ…タトゥー?」


幸生が貰った写真には、首の少し下あたりから、背中の中心から全体辺りまで伸びた、タトゥーの様な、シンプルで赤紫のような色をしたモノが、幸生の背中を這っていた。


「…何ですか、これ?…イバラの様に這っているように見えるし、何かの絵にもなっているようで、綺麗にも見えます…」


睦月は少し慣れ出したのか、幸生の背中を見て驚いていた。


「この形は…"無情の紋章"という、まぁ…一種の呪いなんだ」

「の、呪い?俺死ぬのか!?」

「まあ落ち着いて。呪いみたいなもんだけど、死ぬわけじゃないんだ。」

「じゃ、じゃあどゆことだ?」


幸生は死ぬという単語を聞いて、焦りを隠しきれない様子になっていた。


「うーん…僕も詳しくは知らないんだけど、ズバ抜いて言うと、超絶クール系ポーカーフェイスって感じかな。うん、多分そんな感じ」

「超絶クール系…何?」

「ポ、ポーカーフェイスだって…」


ふざけた様にも言えるこの説明は、幸生と睦月をぽかんとさせてしまった。


「つまり…無情って言うほどだから、表情があまり表に出ないんだ。出ない事はないけどね、そうそう出る事はないよ」

「え、俺今結構表情変わってるよ?」

「まぁ、この紋章が発動した時に表情が無くなるって覚えてればいいんじゃないかな」

「表情…た、確かにあの時の幸生君、凄く怖かった…でも、戻った時は…柔らかい表情で、とても優しそうに見えました…」


睦月が言っている事は間違ってはいなく、その時の幸生は、まるで無表情に等しい顔つきだった。


そして、終わった時には笑顔が戻っていた。


「そしてその紋章は、発動した時に尋常じゃない力を引き出すんだ。死ぬ訳ではないけど、無理をしすぎると体の負担も大きい。体中全ての神経、細胞の働きを活発にさせているからね」


「…なるほど」


「君は死ぬかもしれないというその印の力を、これからは殆ど毎日使う事になるだろう。その覚悟はあるかい?」


悠大は真っ直ぐと幸生を見つめる。


幸生も悠大を見つめ返して、少しほくそ笑んだ。


「…幸生君…?」


「…大丈夫だよ先生。そんな覚悟だったらいくらでもしてやるし、それに俺は…一回死んだようなもんだしな!」


「…確かに、愚問だったね」


まるでこの会話が馬鹿らしくなったのか、悠大は笑い、幸生もそれにつられたように笑った。



「だけどさ、この紋章の力を使うような場合ってあるのか?魔法使いと言っても、毎日戦うわけでもないんじゃないか?」


「んー…多分その力を持っている限りは、嫌でも戦うことになると思う」

「それはどういう…」

「まあ、とりあえず今日は休もう。その話は後日という事でね」


幸生はもどかしい気分のままだったが、ひとまずそれを受け入れて、ふらつきながらも睦月の手を借りて寮に戻った。

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