第二話 俺の魔法とは?
訓練室の見た目は、射撃場のようなシンプルな見た目で、全体が明るい青で染まっている室内だった。学生にも良い雰囲気を与えてくれる優しい色使いだ。
シンプルさだけではなく、部屋の広さにも、幸生は驚きを隠せなかった。
「うわぁ…広いな…」
「魔法は、人それぞれのタイプがあるから…それを考慮してだと、思うよ…」
幸生は睦月に魔法のタイプについて、ある程度話を聞かせてもらっていた。
――魔法には"要素"というものが存在しており、『火』、『水』、『雷』、『風』、『氷』、『土』、『光』、『闇』と多くの要素が存在している。
だが、全てが平等に使えるわけではなく、火の魔法を得意とする魔法使いは、水の魔法は全く使えないという様な、一つの魔法に特化した魔法使いが多いのだ。
もちろん、この八つの要素に囚われることはなく、様々な魔法がこの世に多く存在している。
物を浮かしたり、空を飛行したりする事もできる。これはどの要素にも入らない魔法だ。
どの要素にも入らない魔法は、これだけではく、"身体強化"の魔法もどの要素にも入らない魔法だ。
体の動きを強化する事の出来る、シンプルな魔法だ。
だが、魔法はこれだけに留まらず、さらに枝分かれして、使い方も異なっていく。
身体強化の魔法で例えると、中心が体全体の強化だとして、枝分かれすると、体の一部分を強化する事もできる。
魔法とは、無限の可能性を持っているものだ。
「…って俺は教わった」
「だ、誰に言っているの…?」
「あ、こっちの話」
魔法について大まかな事を知って、とりあえず幸生は自分がどのような魔法が使えるのか、体を疼かせた。
「どうやって、魔法って出せばいいんだ?」
「イメージ…かな。頭の中で、出したい魔法をイメージして、体から一気に放出する感じ…」
「イメージね…よし、やってみるか!」
幸生は手を前に出して、火の魔法をイメージした。
――火…火の魔法…よし!
「いっけぇ!」
大声でそう発した幸生の掌からは、ピンポン玉サイズの火の玉がふわふわと飛んでいった。
「…んー?」
「も、もしかしたら…火は相性が悪いのかも…」
「そ、そっかな…?なら次は――」
水の魔法から順番に試していって、かれこれ三十分は経っていた。
「はぁっ…はぁっ…な、何故だ…」
「ま、まだ最初の内だから、慣れてないんだ、よ…」
睦月の慰めも、幸生には心を余計に痛ませるばかりだった。
そんな時、後ろから笑い声が響いた。
「ギャハハハ!なんだあのショボイ魔法はよ!」
「あんな奴がこの学校に居ていいのかよ!なぁ?」
「全くだぜ!あーあ!この学校も落ちぶれたもんだぜ!こんな落ちこぼれがまだいるなんてよ!」
いかにも不良の様な三人組が、幸生を馬鹿にしていた。
幸生は、怒りと共に悔しさが込み上げてきた。
――こ、こんな奴らに馬鹿にされるなんて…!
睦月は、顔を下に俯けている幸生を見ては、周りを見て、この世が終わりそうな顔でオロオロしていた。
そんな時だった。
「あの陰気臭ぇ女も、どうせ落ちこぼれなんだろうなぁ!」
「全くだ!傷の舐め合いは楽しいか〜?」
高らかに笑っている不良達の声を聞いて、幸生は怒りが急上昇した。
――それは関係ない。言い過ぎだろうが
プチンという、何かが切れたような音と共に。
「…睦月、もう一回火の魔法からやるわ」
「…え、で、でもまだ慣れてないから…」
「大丈夫、コツは掴んだから」
幸生はそういうと、さっきまでの立ち尽くす状態ではなく助走をつけて、まるでドッジボールでボールを投げるかの様に、腕を振り下ろす。
「燃えろ」
幸生の腕から放たれたのは、先程のサイズとは格段に変わって、レーザー状に近い炎の塊が直線上に放たれて、的に勢いよくぶつかった。
「なあっ!?」
「な、なんだぁ今のはぁ!?」
「あんなの、上級レベルの魔法使いの威力のレベルだぞ!それを、あんな転校したばっかのやつが、どうやって!?」
「…み、水無月、君…」
不良達三人は、まるで呆気に取られた顔をして幸生を見つめたまんまだった。
「…おい、お前ら」
「ひいぃっ!?」
「さっき言った事…全部取り消せ」
幸生はまるで別人の様な、無表情な顔で不良達を睨みつけた。
「ううう、うるせぇ!マグレの魔法で、俺にそんな口を聞くんじゃねええ!!」
不良の一人が幸生に殴りかかったが、幸生はいとも簡単にそれを避けて、懐に潜り込んで、腹に拳を入れる。
「がっ…はぁっ…!」
不良は膝をついてそのまま床に倒れ込む。
「お、おいしっかりしろ!」
「う、嘘だろ…白目剥いて気絶してるぜ…!」
「ま、マジかよ…!」
「お前ら、何言ってんの?」
「「ひいっ!?」」
「早く取り消せよ」
幸生は、屈んでいる不良達を上からただ見下ろしていた。
「わ、わかった!取り消す!取り消すから許してくれ!」
「…最初からそう言えよ」
後ろを向いて、幸生は睦月元へ向かった。
「そいつを抱えて早く消えろ。俺はそこまてま気は長くないんだよ」
幸生は不良達の方向に、手を前に出す。
「「す、すいませんでしたあああああ!!!!」」
不良達はすぐ立ち上がって、気絶している不良を抱えて、訓練室から去っていった。
「…はぁ」
「み、水無月君…?」
「あぁ、白濱さん。ごめん、俺出しゃばったかもしんないね…」
幸生は先程の冷たい顔ではなく、優しそうな暖かい顔に戻っていた。
「そ、そんな事…ないよ。み、水無月君…カッコ、よかったよ?」
「カッコよかったなんて…やめてくれ、照れる」
「誰が見ても、あれはカッコよかったよ…それと、聞いても、いいかな…?」
「ん?」
「な、なんでさっきは名前で呼んだ、の…?」
「…あー、ごめん、なんか無意識で言っちゃったんだ、嫌だったかな?」
「そ、そんな事無い…よ」
幸生は慌てて謝ろうとしたが、睦月は軽く許してくれた。
「あー…でも俺はさ」
「…?」
「睦月って好きだな」
「うひゃぁっ!?」
幸生自身は、名前の呼び方でそう言ったつもりだろうが、睦月にとってはまるで、告白みたいに聞こえてしまったのか、顔を爆発させる勢いで真っ赤にした。
「え、ええ!?なんか俺変な事言った!?」
「い、言ったよ…うん」
「ファッ!?ご、ごめん!ホントごめん!俺に出来ることなら何なりと!」
「…じゃ、じゃあ…」
「じゃあ…?」
「私の事は睦月で呼んでいいから…私も名前で呼んで…いい?」
「あぁ、うん。それくらいなら構わないよ。ホントにそんなのでいいの?」
「わわ、私には…これが、精一杯…」
「そ、そう…?」
幸生は、自分がたらしの才能を持っているという事には到底自覚がなく、睦月は顔を赤らめたままだった。
「とりあえず戻ろうか。疲れた…よね?」
「うん。そうしよう…か…?」
戻ろうとした幸生は、急に足がふらつき、視界が揺れ始めた。
――あ…れ?
「…幸生君!?」
その瞬間、幸生の意識は黒に染まった。