表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新存の魔法使い  作者: つむ
2/10

第一話 転校生、水無月幸生

東京都の中心区――


幸生はそう聞かされた。


目の前でそう言われ、医者の葉月悠大にそのまま案内され、付いていった。それだけなのだ。


だが、着いた時に幸生はある事に気づいた。


「…どこが東京都の中心区だよどこが」

「やだなぁ、僕ら魔法使いからしたら立派な中心区だよ」


中心区と聞かされて着いた場所は、"東京都青梅市"だった。


「そんなん言い訳に過ぎないだろ、そもそも区でもねぇじゃねえか」

「まぁまぁ、騙されたと思って付いてきてよ」


――いやもう騙されてるって!


幸生は頭の中で突っ込んだ。


歩いて数十分、段々と人の気配が少ないところまで来ると、悠大は止まった。


「ここら辺なら人はいないだろうね」

「確かに全然いないな」


「さて、君がこれから行く私立魔導機関学園は、簡単に人間が行けないようになっているんだ」

「ん?じゃあどうやっていくんだよ、そもそもどこにあんだよ」


簡単に人間が行けない所なんて、どのようにいくのか、幸生は検討もつかなかった。


「東京と埼玉の境かな」

「は?」

「なぜか不思議とそこは謎の森林があってね。人間が迷い込んでも、入った場所に自然に戻って来てしまうんだ」

「も、もしかしてそれって…」


幸生は謎の勘が働いた。


「そう、魔法がかかっているかもしれない。詳しいことは僕も分かんないけどね」

「まじかぁ…」


自分がまだ知らない事がある。幸生は驚いてばっかりだった。


「それじゃあ、どうやってその森を抜けるんだよ」

「…幸生君、僕らは魔法使いだ。魔法を使わない手は無いだろう?」

「えっ」

「転移魔法だ。僕は医者だが少しくらいの距離なら転移なんてたやすいもんだよ」

「だ、だから人の少ないところに…?」

「そういうことだよ」


悠大はウインクをしながら小悪魔みたいな笑みを浮かべた。この時幸生は、見た目によらず変な奴だと思った。


「それじゃあやるよ…ほいっと!」

「う、うおおおお…!」


悠大が手を前にかざすと、青白いモヤモヤの様なものが目の前に出てきた。


「こ、これが魔法か…!」

「それじゃあ行くよ!」

「え!?いやちょっとま…うわああああ!!!」


幸生は悠大に引っ張られ、勢いよく青白いモヤの中に入り、視界が光に包まれた。



―――――――――――――――――――


「う、うーん…?」


謎の光が消えていき、視界が良くなってきた時、目を開けると、そこはさっきまで居た場所ではなく、目の

前にあるのは大きな城の様な形の建物だった。


「な、なんだここ…!」

「ここが私立魔導機関学園だよ」

「俺はこれからこんな所で過ごすのか…」

「大丈夫、次第に慣れていくよ」


幸生達は門を通り、中庭を抜けて昇降口に入っていく。


見た目の割には、意外と内装は学校と同じようで、綺麗だった。


「これから何処に行くんだ?」

「君がこれから過ごす教室だよ。学生だから、それなりに頑張ってね。ちなみに担任僕だから、よろしくね」

「先に言ってくれよそういうの…」


呆れかけていた幸生だが、しばらくすると目の前の教室で悠大は止まった。


「ここが君の教室だよ」

「…」

「緊張してるの?」

「…いや」

「?」

「なんか、いきなり入った瞬間ボコボコにされんじゃねぇかと思って…ちょっとビビってる」

「いやいや…そんなこと無いからね?」


謎の不安を幸生は心に持ったまま、悠大は扉を開けた。教室にいた生徒は静かになった。


「皆、おはよう。今日はこのクラスに転校生がやってきます」


それを聞いたクラスはざわつき始めた。


「あ、ちなみに男子ね」


悠大がその言葉を発すると、女子の「キャー!」という黄色い声と共に、男子の「んだよ男子かよ…」「チッ…」という残念そうな声も聞こえてきた。


「じゃあ、入ってきてね」

「…」


幸生は恐る恐る教室に足を進める。そして悠大の立っている教卓の隣に立った。


「えー…水無月、幸生です。よろしくお願いします」


黒板には『水無月幸生』と書かれ、転校生として、よくある状況なのだから、それなりの挨拶をしただけなのだか、幸生は感じる視線の謎の違和感を感じていた。


――どうして、男子と女子で見られる感じが違うのだろうか…。


女子からはまるで男性アイドル。男子からは恨みつらみのような怨念の篭った眼差しを浴びていた。


これほど別物の視線にさらされることなど、幸生はこれまでの人生として、一度もなかった。体育の授業中に、応援されていた事はあるが、ほとんどは明彩と健太だったので、このような視線を受けた事はない。


このような視線があり、なおかつ人間から魔法使いとしてこの学園に来たのだから、もしかして自分は物珍しく見られているだけで、ある意味特別なんじゃないか?と、思うしかなかった。


こうしてクラスで謎の視線を浴びて、不安を募らせていた幸生。その一方で、彼の注目を別の意味で見ている生徒もいることなど、幸生は知るよしもなかった。



「 あの…だ、大丈夫…?」


朝のホームルームが終わりその休み時間、幸生は視線から来た緊張で疲れてしまい、少し落ち着こうとトイレに行こうと教室を出る所で、後ろから少女に声をかけられた。


黒色で、腰より少し届かないくらいの髪の長さ。


サラっとした癖のない髪型で、前髪もかなり伸びきっている。片方は肩まで結ばれた三つ編みに、桃色の小さなリボンで結ばれていた。


「え、あぁ、うん。ところで君は?」

「わ、私は白濱(しらはま)睦月(むつき)…よ、よろしくね…」


睦月と名乗った少女は、下から幸生をただじーっと見つめていた。


「え、えっと…何の用かな?」

「わ、私…水無月君の、魔法がどんなものかを知るために、訓練室に誘おうと…思ったんだ…」


目を逸らしつつもチラチラと幸生を見ながら、睦月はそう答えた。


「それはいいけど…俺、魔法なんて使った事ないよ?」

「だ、大丈夫。そこは私が教えるから…だめ?」

「わ、わかった…」


今までに味わった事のない謎の雰囲気に、幸生は戸惑いを表情を隠せなかった。


「や、やっぱり…私みたいな奴には…教わりたくない?」

「え、なんで?」

「わ、私はこんな性格だし、内気というか…陰気な感じだから…引かれたりされるから…」


睦月は下を向いたまま話す。


「そんな事無い」


それを聞いた幸生は、頭の中にふと離れていく明彩と健太を思い出し、睦月の手を両手で握ってそれを否定した。


「ひゃっ!?」


睦月は変な声を出して顔を真っ赤にした。


「俺はそんな事は思わないし、むしろ俺に話しかけてきてくれた事が俺は嬉しい。だから、えーっと…そんな事、言わなくても、大丈夫…ですよ?」


初対面の人に馴れ馴れしくしたら悪いと思うタイプの幸生は、敬語でいいのかと思いいつつ、変に問いかける感じで答えてしまった。


「あ…う、うん。わ、わかった…でも、その…」

「ん?」

「その前に…て、手を…」

「…あっ、ご、ごめん!」


無意識で握ってしまったのか、幸生は手を握っていたのに気づき、慌てて手を離す。


「だ、大丈夫…だ、から…と、とりあえず、行こう…?」

「そ、そうだね。悪いけど、案内してもらっても、いい?」

「う、うん…」


睦月はまだ顔を林檎の様に真っ赤なままで、幸生はこんな体験は毛頭無かったので、頬を染めながら首に手を当て傾げて、目線を色んな所に向けていた。


幸生は睦月に案内されるまま、二人は訓練室に向かった。





「…青春だなぁ。いいぞ、幸生君!」


「…先生、そんな壁の隅で何してんの…」


悠大はそれを壁から感激して見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ