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新存の魔法使い  作者: つむ
1/10

プロローグ

――俺は宵闇の空を見つめていた。


星が数え切れない程の空。まだ肌寒い早春の夜空を、高校二年生の水無月幸生(みなづきこうせい)は、学生寮の自分の部屋のベランダで、黄昏ていた。


一呼吸した幸生は目を瞑り、視界を暗闇に閉ざした。

うっすらと浮かんでくる背景が、どんどんハッキリとなってくる。


そこは小さい頃幸生がよく遊んだ公園だった。

その公園には、幸生ともう一人の少女がいた。


その顔を幸生は見覚えがないのだ。


彼女は明るい笑顔で幸生の手を引っ張る。とても素敵な笑顔で、こっちまでも元気になるような顔つきだ。

全く見覚えが無いのに、少女の顔は鮮明で、ある言葉も聞こえる。


「また、会おうね!」

少女はそう言うと、消えていく。


「君は一体誰なの?」

そう言いたい幸生だが、そんな言葉が届くはずもなく、少女は消えていく。


――これはただの空想?

頭の中に浮かぶ事が現実なのか、空想なのか、幸生は理解できなかった。


――もう寝よう。

少女の顔を忘れる事が出来ず、そのまま幸生はベッドに倒れ込み、そのまま深い眠りについた。




――どれくらい時間が経ったのだろうか?

眠りついてから、まるで一瞬のように目が覚めた幸生は、傍に置いてある時計を見ると、午前六時を表示していた。

「…準備するか」

ベッドから気だるげに起き上がった幸生は、洗面所に向かい、顔を洗う。


洗った後はそのまま制服に着替える。


その後は適当にパンを焼いてそれを食べるだけ。


そして時間を潰して、学校へ向かう。なんて事の無い一連の動作で、幸生は準備を終えて、ドアを開けた。


「…お」

「あっ!」


偶然なのか、隣の部屋の生徒もドアを開けた。

「いっつも同じくタイミングに会うんだけど、お前狙って開けて無いよな?」


「まっさかー!たまたまだよ!た・ま・た・ま!」


そう言う少女は、明るい茶髪で、髪を後ろで結んだポニーテールのようなもので、いつでも笑顔を振りまいてる。


彼女は成瀬明彩(なるせめい)という名前だ。


「今日は早めに出たんだけどな…」

「今日は早起きしたから私も早く出たんですー!」


そんな事を話し合いながら、いつも通りの道を通り、高校に行く。


「待て待て待てよお前らー!」

「おー、健太」

「あ、健太君だ」


後ろから走ってくるのは、松山健太(まつやまけんた)だ。

短髪で、色んな人に優しい少年で、場を落ち着かせる事が得意なムードメーカーだ。


「俺を置いてくなんて酷いぜ!」

「俺はただ学校に行こうとしてるだけだぞ」

「俺を置いてくなってばー!」

「約束した覚えないしな」

「友達なら待ってくれたっていいだろー?」

「めんどい」

「あらー、これまたシンプル」

何気ないこんな会話を毎日続けている高校生活は変わらい。

いや、変わらないと思っていた。



だが、自体は急変した。

「もー!二人共私を忘れないでよ!」

「おー!悪いな明彩ちゃん!」

「おい気を付けろ、信号赤だっ…」


その瞬間、トラックが明彩に向かって急接近してきた。

――こんな朝から居眠り運転かよ…!

幸生は明彩の手を引っ張り思いっきり自分の後ろに投げる勢いで引いた。


「大丈夫か明彩っ…」


その時、なぜか一瞬で幸生は吸い込まれるように、トラックの真正面にいた。反動で自分が入れ替わったと考えたが、有り得ない吹っ飛び方なのでそれは無理だと分かった。


――もう少しくらいこいつらと話しても良かったな…。


幸生が最後に見たのは、必死に手を伸ばそうとする健太と、恐怖で顔を固めていた明彩の姿だった。






――あれ…?

目を開けると、古ぼけた天井が見えた。


何故か身体が温かいと思ったら、ベッドに自分が寝ている事が分かり、身体を慌てて起こした。


「な、なんで…?」


状況が理解出来ない幸生は、とりあえず落ち着く事を優先させようとした。


――ここは何処だ?


辺りを見渡すと、部屋は少し狭く、時計は午前九時を刺していて、ベッドが保健室で見るようなベッドと、腕の点滴を見るからにここは病院なのだとわかった。


だが、何故ここに居るのかも分からなかった。


「俺は死んでなくて、生きている…?」


一つ分かる事と言えば、今自分は生きている。それだけだった。


身体を少しだけ動かしていると、シャッター式のドアが開き、白衣を着た男性が入ってきた。


髪は首元より伸びているのだろうか。それを一つに結んでいて、まるで男性とは思えないような顔立ちだった。目が合うと彼はニコッと微笑んだ。


「目覚めはどうだい?水無月幸生君?」

「いや、状況が理解できません…」

幸生はそれしか言えなかった。


「ははっ、流石に無理は無いね。トラックに轢かれたと思ったら、何故か自分は生きている。普通死んだと思うよね?」


「は、はい」


「…君は、"魔法使い"という存在を知っているかい?」

「確か、魔法が使える人類で、普通の人間とは差別されている存在…ですよね」


――魔法使い。


この存在は数千年前から有り、もはや当たり前となっている。医者はそれを聞くとニッコリと笑って、話し始めた。


「おめでとう!君はこれから魔法使いとして生きるんだ!」

「…は?」


いきなり言われた事に幸生は目が点になった。


なぜなら自分とは全く無縁だった魔法使いが、何故か自分が魔法使いとして生きると言われても、理解に苦しむだろう。


「な、なんで俺が魔法使いとして…?」

「よし、分からないと思うし、説明しよう」


そう言うと、医者の男は手元にあるファイルを幸生に渡した。


「君は今まで"普通の人間"として過ごしてきたね」

「は、はい」

「普通、生まれた時、人は魔法使いか人間かを判断するんだ、それでどちらか決まる。」

「そ、そうなんすか…」


初めて知った事に、幸生は返答に困った。


「だけど君は魔法使いとして存在するはずだったが、人間として過ごしてきたんだよ」

「い、いや待ってくだい!なんでそんな急に魔法使いって事が分かったんですか!」

「うーんと…因みにトラックに轢かれてから、一ヶ月しか日にちは経ってないんだ」

「1ヶ月…?そんなの普通目覚めてすらないじゃないか!」


時間は確認したが、確かに日付けが分かるものはこの部屋には無かった。


「だけどおかしいよね、普通の人間ならあんな大型トラックに真正面から轢かれたんなら死んでるか、意識不明の重体なんだけどなぁ」

「え…」

「それなのに、一ヶ月。それで君は目覚めた。しかも完全にその身体は治っている。これは普通の人間じゃ有り得ないんだよ」


「…だから魔法使いって事ですか」

「うん、そう判断したよ。だから君はこれからこの地を離れる事になる」

「ここを…離れる…?」


その言葉を聞いた幸生は何故か無性に怒りがこみ上げてきた。


「嫌だ!俺は人間として生きる!この街からも離れない!あいつらとも、俺はまだろくに話しも…!」

「…でもいつかは、君はこの地を離れなくてはいけなくなるんだ」

「な、なんで…!」

「それは君自身で分かった方がいいだろう」


医者は幸生に繋がれている点滴のスタンドを動かした。


「それはつけたままで、下に行ってみるといいよ。君の友人が待っている」

「…あいつらが来てるのか」

「うん、毎日見舞いに来てくれてたよ。君はいい友達に恵まれたんだね」

「…どうも」

「でもその関係を壊したくないなら、会うのは止めておいたいいよ?」


言われた事の意味が分からなかった幸生は、すぐにドアを開けて、小走りで一階に向かった。


――あいつらに、会える!


そう思うと、嬉しさが幸生には溢れてきた。


一階に着いて、ソファーの辺りを見渡すと、二人が座っているのが見えた。


「お前ら…!」

「幸生!」

「幸生君!」


二人が幸生に駆け寄ってくる。


「目が覚めたのか!もう動いていいのかよ!」

「ああ、何とかな」

「ごめんね、幸生君、私の不注意で…幸生君が…」

「そんな事、もう気にすんなよ。俺はこうして動けるんだから」


明彩は泣きながら謝ってきたが、幸生には二人に会えたのが嬉しくて、軽く流した。


「あ、そうそう聞いてくれよ」

「ん?どうしたんだ」

「俺さ、何か医者から君は魔法使いとして生きろって言われたんだよ。俺は人間だってのに、変だよな!」

幸生は小馬鹿にしたように、軽く笑ってそう言った。



「え…?」

「魔法…使い…?」

その瞬間、二人の様子が、急変した。


「おう、なんでも普通なら死んでるか意識不明の重体なのに、一ヶ月で目が覚めたから、俺は本当は魔法使いとして過ごしていくはずだったとかさ」

「…っ!」

「確かにそう考えると…まさか、ホントに…」

二人の青くなった顔色が、よりいっそう青くなった。

「ど、どうしたんだよ二人共…明彩もどうして急に後ずさりして…」



「触らないで!!!!!!!」



手を伸ばそうとしたら、明彩は大声でその手を拒んだ。


「え…?」

「…幸生、お前は知らないだろうけど、明彩は昔、魔法使いの奴らに両親を殺されてるんだ」


健太が明彩の震えた肩を掴んで、落ち着かせるようにする。


「い、いや!俺と魔法使いは関係ないだろ?俺は普通の人間たぞ!?」

「お前のその話を聞いて、俺もそうなんじゃないかって思ってきたんだ…」

「な…!」


「…俺達はもう帰る。もう会うことは無いと思うけど、お前とはいい友達でいれたと思うよ…」

「ちょ、待てよ健太!」

「触るな!!」


健太からも否定される。幸生は今起きた状況に理解出来ずに、ただ病院から出ていく健太達を立ち尽くして見る事しかできなかった。


「…分かったかい?相手を魔法使いと知った人間は、急に態度を変えてしまうんだ。君が魔法使いと言わなくても、結果は多分同じだったかもしれないけどね…」


後ろから医者が声をかけてくる。その言葉に幸生はやっと声を出す事ができた。


「…これから、俺はどうすればいいんですか」

「ここから別の学校に転校する事になる。学校と言うよりは、魔法使いの機関みたいなものだけどね」

「機関…ですか」

「東京の中心区、そこに私立魔導機関学園がある。僕が案内しよう」


普通の人間でも、その名前は知っている程に有名だ。

この日本で一番と言われている、魔法使いの集まった場所だ。


「そこまでは僕が案内するから、安心してね。これでも僕も魔法使いだからね」

「…は!?」


「僕の名前は葉月悠大はづきゆうだい)。魔導機関医学代表責任者、怪我したら僕の所に来てね」


軽くそう言われた幸生だが、幸生自身はいきなり言われた事にショックを受けた。



「とりあえず、これからの内に君の事が魔法使いだという事は、ほとんどの人に知れ渡るだろう」

「…わかってます」

「それに魔法使いだから、普通の人間とは違って、身体能力も違うし、魔法も使えるという事だからしっかりとそこは注意してね」


その説明を聞くと、幸生は魔法使いがどうして差別されているのかを、改めて理解したような気がした。


魔法使いが普通に人間を叩いたりすると、人間はただの怪我じゃ済まされないかもしれない。


ボクシングのプロが喧嘩などをしないように、幸生自身も、強化された身体能力よ使い方をしっかりと考えていかなければならない。


もちろん、魔法なんてもってのほかだろう。


「さて、これから新生活なんだし、何か目標でも作ってみたらどうだい?」

「目標?」


悠大がそう言うと、幸生は少し考えて、答え始めた。


「…あいつらといつか、また会う日まで強くなりたい」

「…やっぱり君は友達思いでいい子だね!うんうん!」

「別にそんなんじゃ…ってやめろ!頭ワシワシするな!」


何故か幸生の頭を悠大はワシワシするのは幸生は意味が分からなかった。

――私立魔導機関学園か…


幸生は頭の中で名前を呟いた。


まずは転校して、自分の実力を訓練して磨いて行く事。


――いつかまた、あいつらに会うために!


幸生の決意は固く決まって、拳を強く握り締めた。


(点滴の袋の中身がもう空に…身体の治癒力と養分を吸収する速度が格段に速いのか…)

悠大はそう思うと、不思議と幸生に対する期待が高まった。


ここから、人間から魔法使いになった少年、水無月幸生の物語が始まる。

つむです。

新作です。

題名は適当なんでちゃんと考えたらそれにします。

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