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8 食堂オープンしました

 王都近郊の丘に「背教者の洞窟」という、それなりに深い洞窟がある。最低でも地下25階層はあるというし、いまだに完全に攻略はされてないという話だ。


 名前の由来は、大昔に背教者として弾圧された高僧が身を隠すために、この洞窟に逃げこんだからと言われている。

 実際、地下の層の一部には、洞窟というより塔に近いような、人工的な区画があるという。


 で、そのダンジョンの前に俺たちは「オルフェ食堂」をオープンさせるのだ。


「いやあ、なかなか大変でしたね……」

 サンハーヤは肩で息をしながら、持ってきた椅子の一つに座り込んでいた。


「そりゃ、人力だからな……。そこそこ、ここまで距離もあったし……」


 荷車を専門学校で借りて、椅子と机を運ぶこと、二往復。なお、暇そうにしている現役学生もバイトで雇って、荷車をもう一両動かしてもらった。


 つい先日まで授業を教えてくれていたミルカ先生(巨乳)は、

「サモナーで食っていけないからって、すぐに転職を試みられるのは教師として複雑な気持ちです……。でも、落ち込んで食事ものども通らないというのよりはいいです……。総じて言うと、頑張れ頑張れです!」

 と偽りない本心であろうものを吐露してくれた。


 俺も逆の立場だったら、引きつった笑いをしてたと思う。専門学校で習ったこと、ほぼ全部無駄に見えるからな。


 けど、サモナーになるための授業を受けなかったら、異世界の料理を召喚することもできなかっただろう。今の俺を救ってくれているのは、やっぱりあの勉強のおかげだ。


 さて、俺とサンハーヤは机と椅子を並べて、使えるようにした。

 サンハーヤは口で言っていただけあって、修理がやたらと早くあっという間にテーブル五つと椅子二十脚を用意してしまった。なお、テーブルは学校用のものを改造して広くしたものだ。


 さらに余った材料で小さな調理場用の小屋まで作ってしまった。ここで魔法を使えば外から見えることはない。


「はい、狭いですが、まずはこんなところでいいでしょう。儲かったら、もっと本格的なものを作りましょう」

「サンハーヤ、もう、この工作技術で食っていけたんじゃないか……?」


「いえ、やっぱり『苦汁』を売らないといけませんから。あっ、今日も『苦汁』を朝から飲んできたので、元気いっぱいですよ!」

 それ、下手をすると朝から倒れて動けなくなっていた危険があるのでは……。


 朝、俺たちが何か作っている横を冒険者たちが不思議そうに通りすぎていった。きっと、あんたらが帰ってくる時間には店がオープンしてるはずだ。


 そして、お昼。タコ焼きと豚汁で昼食をすませて、いよいよお店を開く時間が来た。


 俺は近くにある木に「オルフェ食堂」と書いた看板をかける。

 呼び込みはサンハーヤがやってくれる。


「冒険者の皆さん、おなかすいていませんか? 『オルフェ食堂』ただいまよりオープンしました! 異国の不思議な料理をこの店ではお出ししています! 疲れた体、ここで休めていきませんか?」


 相変わらずサンハーヤの声はよく通るな。聞いているだけですがすがしくなってくる。


 ちょうど早朝から探索をやっていた冒険者たちが戻ってきた時間だったので、彼らが興味を引いた。


「へ~、茶屋か。変わったことを考える奴がいるな」「今日は割と稼いだし、ちょっと休んでいくか。酒場行くには早いしさ」


 おっ、早速お客さんが来た。茶屋というのとはちょっと違うけど。

 サンハーヤに案内されて、テーブルの一つに四人パーティーが座る。


 ただ、メニュー表を見て、冒険者が困惑しているのが見えた。


=====

メニュー

タコヤキ     銅貨4枚

トンジル     銅貨3枚

ウメボシ(3ヶ) 銅貨2枚

=====


「すべての料理名がわからん……」「どこの国の料理……?」


 言葉である程度メニューを説明することもできたが、あえて、書かなかったのだ。話題性をこれで作れるのではないか。ちなみにタコ焼きは昨日売った時より少し安くした。あと、梅干しも料理として出す時は以前の値段が高すぎると思ったので安くした。


 それと、苦汁という文字をメニューに入れられそうになったので、消した。


「冒険者の方々と言えば、冒険が仕事ですよね? ここは勇気のある方が挑戦してみませんか?」


 上手くサンハーヤが煽った。


「いや、俺は食に関しては保守的なんで……」


 一番ガタイがいいウォリアーっぽい奴が逃げようとしている……。


「いや、お前はせっかくだし挑戦するべきだ」「そうよ、激辛料理も食べずにリタイヤしたことあるでしょ」


 なんか、パーティーから過去のことを持ち出されて、ガタイのいい冒険者が逃げられなくなって、タコ焼きと豚汁を一つずつ注文した。


「オーダー入りました! タコイチ、トンイチです!」

「はいよ!」


 俺はタコ焼きを召喚する。

 豚汁は事前に召喚して、弱火で加熱した鍋のほうであっためているので、これをお椀によそう。

 なお、一日たってわかったことだけど、召喚時に出てくる容器は翌日消えていた。無限にたまっていっても困るからな。


「はい、タコ焼きと豚汁、お待ち!」

 さあ、しっかりと味わってくれ。


 サンハーヤがすぐに料理を持ってきたので、冒険者たちもびっくりしていた。

「もう、できたのか……。まあ、いいや。まずはこのタコヤキってやつだな。十個入ってるからお前たちも食べろよ?」

 ガタイのいい男が念を押してから一つを口に入れる。


「……お前らも食べろといったのはウソだ。これは全部、俺が食べる!」

 その言葉で味では高評価を受けたとわかった。


 当然そんなのを守らずにみんな、横からとっていく。つまようじの数が足りてないが、そこは冒険者、手づかみでとる奴もいる。ダンジョン内での食事を思えばマシなんだろう。


「あつあつだけど、うまい!」「おお!」「いける!」


 最初にタコ焼きを食べた冒険者は今度は豚汁のほうを口に運ぶ。


「おふくろ! なぜか、おふくろに会いたくなったぜ! 材料もよくわからないのが入ってるけど、うめえ! なんだ、この白くてふわふわしたやつ! とくに味しないけど、スープと合うな!」


 白くてふわふわしたやつは、トウフだろう。実はまだ俺もよくわかってない。

 すぐにタコ焼きと豚汁の追加オーダーが来た。


 サンハーヤがタコ焼きを持っていく時、それがオクトパスだと説明していた。


「オクトパスってこんなにうまいのか……。たしかにあれはモンスターじゃないって話は聞いてたけど……」

 俺も昨日まで驚いてたから、その気持ちはわかる。原則、海辺に住んでる人間しか食べないからな。


 ひとまず、最初のお客さんの評価は上々だ。

 さあ、もっともっと来てくれ!

次回は夜遅くに更新します。

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