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5 行商人クオリティ

 サンハーヤは腕をぐるぐるまわしたりして、コンディションを確かめていた。梅干しには薬草のような効果があるんだろうか?


「そっか、こういうすっぱさを『苦汁』に入れれば、もっと売れるものになるかもですね……」


 なんで破壊力をアップする方向にするんだ……。


 何か用途はありそうだけど、梅干しはタコ焼きと比べると使い勝手が悪いものではあるな。おなかがふくれるわけでもないし。


 しかし、この調子だと片っ端から詠唱を試していけば、ほかの料理が出てくることもあるかもしれない。どうやら料理しか出ないようだから、危険もないだろう。


「そうだ、オルフェさん、あのタコ焼きって何度でも出せるんですか?」

「うん、二つ目も出てきたし。いけると思う」


「オルフェさん、私、飢え死にを助けてもらった恩返しをしたいんですが」

「それはうれしいことではあるけど、サンハーヤは一文無しって感じじゃないのか?」

 お金があれば、食べ物ぐらい買っていそうなものだ。


「はい、ですので、まずは恩返し用のお金を稼ぎます。タコ焼きをいくつか出してもらえませんか?」


 俺はよくわからないままに、言われたとおりにした。



「はいはーい! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 本邦初の料理、タコ焼きですよ! なんと、あの凶暴なオクトパスを刻んで中に入れた一品ですが、これがまさかの絶品! 試食もあるからぜひ買っていってください! お代は10個入りで、銅貨5枚! 今ならできたてほやほや、あつあつもありますよーっ!」


 洞窟の前で、タコ焼きがいくつも入ったケース(『苦汁』を売る時の、首にかける木のケースだ)を抱えて、サンハーヤが声をあげた。


 そんなによく声が出るなというぐらい、生き生きした張りのある声だ。エルフは美声というけど、声量もあるんだろうか。


「ん? タコヤキ?」「ねえ、試食してみない?」「オクトパスなんて食べれるのか?」


 その元気の良さに冒険者たちが集まってきた。

 試食用のタコ焼きを口に入れていく。


「おお、うまい!」「オクトパスがぷりぷり!」「シンプルだけどいけるな!」「あーっ! ここに酒があったらなぁ!」


 反応は上々だ。まあ、この味がダメって人はあまりいないだろう。


「姉ちゃん、二つくれ!」「こっちも二つ!」「お土産用も含めて四つ!」


 飛ぶようにタコ焼きは売れて、なんと50セットが完売した。

 銅貨250枚が手元には残された。安酒場なら銅貨40枚ぐらいでいけるから、ほぼ酒場に一週間通えるお金だ。


「すごいな、サンハーヤ! さすが、行商人!」

「ふふふっ、これがお仕事ですからね」


 サンハーヤもいいところを見せられたからか、うれしそうだ。

 すると、また洞窟からパーティーが出てきた。しかし、どうも重い鎧を着こんだ男が背負われている。負傷者だろうか?


「くそ……眠りの息でぐっすり寝すぎなんだよ……」

 引きずっている小柄な男が嘆いていた。

 あの寝てるウォリアーは魔法耐性がないんだろうな。


 俺の頭に、一つの案が浮かんだ。

 早速、俺はそこに出ていく。梅干しが入った容器を持って。


「すいません、この梅干しって果実の漬け物を口に入れてみませんか? 気付け薬的な効果があるんです」

「そんなので効くとは思えないけど、やるだけやってみるよ」

 相手パーティーは半信半疑だったけど、とにかく寝ている冒険者の口に梅干しを押し込んだ。


 その途端、彼の目が見ひらく。

「す、すっぱいっ! なんだ、これ! いったい、何の食べ物だっ!」


 見事に大きな鎧を着こんだ男は覚醒した。

 効き目抜群だ。


 一同はぽかんとしていたけど、やがて、俺をたたえるように囲んできた。

「すごいよ! 一発で目が覚めた!」「これ、まだある? ぜひ購入したいんだけど!」「ダンジョンの中で寝られると引き返すしかないから、ありがたい!」


「わかりました。少しお待ちください」

 俺は少し移動して人目につかないところに移動して、梅干し3個入りを銅貨15枚で売った。

 食べ物を召喚できるということは、あまり知られるとややこしいことになるからな。


 そのあと、梅干し3個入りも眠り対策として、5セットが売れた。銅貨75枚ゲット。


「なんにでも、ちゃんと使い道があるんだな」


 ちょうど日も暮れて、かなり暗くなってきていた。

 さすがにこれだけ魔法を使ったせいか、疲労もたまってきたので、梅干しを口に入れる。最初はすっぱいが、じょじょに慣れてくる。


 俺は今日利益が出たお金の半分をサンハーヤに渡した。

「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。サンハーヤもまた、気をつけて」

「でも、まだ恩返しが……」

「これだけお金もらったわけだし、十分だよ。あと、この力の使い道もわかったし」

 飢えてるサンハーヤを救えたように、料理を出す力は人の役には立つ。


「わかりました! なんとか『苦汁』を売ってやっていきます!」

 もう、違うものを売ったほうがいいと思うんだけど、こだわりでもあるんだろうか……。


 洞窟から市街地のほうに戻るから、途中まで道は同じだった。そこにおかしなことはない。

 けど、どこにサンハーヤが帰るのかと、ちょっと気になった。


「サンハーヤ、君は家ってあるの?」

「ないですよ。行商人ですから。いただいたお金で、安宿にでも泊まります」


 あっけらかんとサンハーヤは答える。

 行商人が各地を流れるのはごく当たり前なことだ。サンハーヤはそこに悲哀も何も感じてないし、同情すら求めない。俺もすべての恵まれない人間に同情しながら生きていけるほどの余裕はない。

 けど、一言で言うと、かなり長い時間一緒にいて、情が湧いた。


「あのさ、俺の住んでる長屋に来るか? 狭いし、ほんとに雨風しのげるぐらいの価値しかないけど……」


 サンハーヤの足が止まる。その大きな瞳で見つめられた。ただ、言葉はまだ返ってこない。


「ほら、この召喚魔法を使えば、タコ焼きならいくらでも出せるから、食費はカバーできるだろうし……」

 微妙に言いづらいのは、下心があるように思われたら嫌だなとか、変な気恥ずかしさがあるからだろう。サンハーヤは変な奴だけど、かわいいし、髪もさらさらだし……。


 サンハーヤはぎゅっと俺の手を両手でつかんだ。それから、


「よろしくお願いしますっ!」


 夜ががもう一度昼に逆戻りしそうなほど元気に笑った。


「うん、じゃあ、よろしく。でも、男の一人暮らしとか本当に汚いからひくなよ……?」

「行商人も歩いてるうちに汗かくし、もちろん湯あみできるチャンスも少ないしで、大変ですよ。それと比べれば家があるだけでリア充です」


 行商人って大変だなと思いながら、俺は慣れた自宅への道を、慣れない気持ちで歩いた。


 田舎の父さんと母さん、俺、人生で初めて女の子と同棲します。


この世界では、銅貨1枚=100円程度の換算です。

銅貨100枚=銀貨1枚=10000円ぐらいの感覚で書いて行きます。よろしくお願いします!

今日も複数回更新予定です。

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