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47 初のテイクアウト販売

 数日後、実験的に俺とリルハさんで朝からパンの販売を行うことになった。


=====

メニュー

アンパン   銅貨1枚

ウグイスパン 銅貨1枚

=====


「あの、オルフェさん、せめて告知でもしておいたほうがよかったんじゃないですか?」

 カゴに積んである二種類のパンを見ながらリルハさんが言ってくる。言いたいことはよくわかる。


「うん、ほんとならそうなんですけど、事前に告知すると、それ目当ての人がかなり来ちゃって普段の売り上げがどんなものになるか読めないと思ったんですよね」


「オルフェ食堂」が変な料理ばかり出す――これはもう王都全体で広まっていることだ。お店で前日に張り紙でもしようものなら、みんなぞろぞろ早起きして並びかねない。


「それはわかるんですけど、案内もなしに売れるんでしょうか? このパン、この世界のパンとかなり雰囲気が違いますし。やけにやわらかいんですよね」

 そうなのだ。俺のいる世界のパンは、召喚してきたものと比べると、どれもハードタイプというか、硬い。いや、召喚したパンがやわらかいといったほうがいいか。


 たしかに中にあんを入れるんだったら、硬いパンは合わないだろうから、やわらかくなるのは必然かもしれないけど、それが評価されるかはまだわからない。へにゃへにゃで好きじゃないと言われる可能性はある。


 同じパンでもここまで変わるんだもんな。動物が島に入ると、数世代後に別の種類になるぐらい変化することがあるけど、それに近いかもしれない。


「さて、売れるかな。まったく売れなかったら、昼以降に食堂で売ろう」


 結論から言うと、販売のほうはまったく問題なかった。


「おっ! 新商品だ!」「というか朝にパンも売るようになったのか!」「そのパンを二個ずつくれ!」「朝に売るのも、やっぱり変な料理なのね。一つずつもらうわ」


 売れた、売れた。立て続けに売れた。そりゃ、朝に店の前を通る冒険者の中には常連も多いので、そういった層がきっちり買っていってくれるのだ。


 ただ、評価を見ないとまだ安心はできない。


「やけにやわらかいな」「これもパンっていうのか?」「パンというかお菓子じゃないの?」


 やはり、パンと認識できてない人の声が店の前で聞こえる。よくわからないものだし、みんなここで食べる気らしい。


 リルハさんも手を組んで、反応を祈るように見つめていた。俺の店は、誰も食べたことがないようなものばかり売っているので、客がどういう感想を示すか読めないところがある。


 冒険者は食べ方も大胆だ。見たこともない食品なのに一口でパンの三分の一がなくなるぐらいにかじる。


「おっ! 甘いな! 想像以上に甘いな!」

 そこまでは当たり前の反応だ。さて、合うかどうか。


「やわらかいパンって初めて食べるけど、これ、しっとりした中の具とマッチしてるぞ」

「ああ、ほっと一息つける、そんな味だ」

「こっちのウグイスパンっていうのも、パン生地と見事に調和してる」


 どうにかクリアできたようだ。この人たち、変な料理食べるのがもはや趣味みたいになってるしな……。

 リルハさんの顔も明るくなっていたのが印象的だった。完全に店員としてのマインドがもう定着しているようだ。


 けど、今回は無難においしかったという感じか。カレーや牛丼を出した時みたいな強い反応は得られてない。朝食ってそういうものかもな。感動するほどおいしいというのは朝食の要素にあまり求められてない。


 だが、顔に大きな傷のある冒険者がふと何か感じることがあったらしく、水筒を開いた。

 それからアンパンを一口食べてから、その水筒の液体も一口飲む。


「これは完璧なコンビネーションだぜ!」


 冒険者の大声がずいぶん遠くまで響いた。水とアンパンって、そんなにいい組み合わせだったか……?


「アンパンと牛乳、これはいいぞ! みんな、やってみろ!」

 あっ、牛乳か……。たしかに水分として牛乳を持っていく冒険者もいるな。


「俺、ちょっと家の牛乳、持ってくる!」

 なんというか、俺自身もその組み合わせを確認したかったのだ。


 家の牛乳のビンと、小さなコップを持ってきた。

 商品を一口、かじる。牛乳を飲む。あんの甘さを牛乳がすっきりさせてくれる。あと、牛乳のほうの癖もなんとなく減ったような。


「朝食として、すごくよくできてる。シンプルだけど、もりもり活力が湧いてくるっていうか……」

「……私もやってみますね」

 リルハさんもアンパン+牛乳の組み合わせで、ふぅと、少し艶めかしさも残るため息をついた。

「朝食、今度からこれにしましょうかね」


 それを見ていた冒険者たちが、「牛乳をくれ!」「こっちも!」と言ってきた。たしかに牛乳を普段から持ってなきゃ確認しようがない。こういうの、すぐ自分の舌で知りたいよな。わからないまま、ダンジョン潜るとフラストレーションがたまるよな。


「わかった、わかった! 牛乳は売り物じゃないし、サービスでいい! でもアンパンは買ってくれよ?」


 アンパンは用意していた数があっさり完売し、うぐいすパンも少し時間を置いてなくなってしまった。しょうがないので、少し家の中に戻って、追加を召喚する羽目になった。

 こうやって、店の前でテイクアウトで販売するというのも新鮮だな。


 それと、リルハさんもこれまでで一番生き生きしていた気がする。ほんとに目の前で新しい料理を食べた人の感想を聞けるというのは、励みにもなるんだ。


 昼前の休憩時間、まさにリルハさんは「面白かったです」と言ってくれた。

 もう、文句なく、この「オルフェ食堂」の一員だな。


「あと、やわらかいパンがほかにもあったのを思い出しました。多分、名前も合ってるはずです」


 これは一気にパンの種類が増えるチャンスだ!

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