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4 梅干し投下

 タコ焼きを食べ終えたダークエルフの少女は、さっきより明らかに元気になっていた。


「ありがとうございます。危うく野犬の餌になるところでしたよ。私の名前はサンハーヤです。職業は行商人で、今は故郷から離れてこのへんをまわってます」


 にこりと笑みを作るサンハーヤはとても魅力的に見えて、ちょっとどきりとしてしまった。


 そういえば、サモナー専門学校では勉強一筋だったためか、カタブツ扱いされて、友達もあんまりいなかったな……。男友達がいない男には、まず女子も寄ってこない。

 なので、女子のこんな表情を見たのはものすごい久しぶりだ。


「俺の名前はオルフェだ。君、行商人ってことは、何か売ってるの?」

「はい、ほら、後ろにありますよね」


 たしかに木の陰に隠れるようにして背中に背負えるタイプの箱と、首にかけて胸の前に商品を並べる入れ物が置いてある。


 売っているのは緑色の粉の入ったビン。


「私、『苦汁くじゅう』というドリンクを売っています」

「名前が商品として問題ありすぎる!」


「この緑色の粉末を水に溶いて飲むと、クソ苦いんですけど、健康には無茶苦茶いいんですよ。ダークエルフの里ではこれをみんな飲んでるから、百歳の人がうじゃうじゃいます」


「いや、ダークエルフって不健康な生き方しても、二百年ぐらい余裕で生きたよな……」

「ま、まあそこは言わないお約束ということで……。健康にいいのは本当ですから。苦すぎて意識を失うことがあるので、できるだけベッドの中で飲んでくださいね。じゃあ、あなたには特別に一つプレゼントということで――」

「いらん」


 想像以上に危なっかしい代物じゃないか!


「え……? タダですよ? タダでもダメですか……?」

「意識失うようなもの売っても誰も買わないだろ。もうちょっと考えてくれ」


「わかりました。それでは、私が身をもって、この『苦汁』の素晴らしさを教えてご覧にいれましょう!」

 そう言うと、サンハーヤはコップを取り出し、そこに『苦汁』の粉を小さじ三杯ぐらい入れた。

 そこに持っていた水筒の水をコップに入れて、ぐるぐるかき混ぜる。

 緑というよりは、遠目には漆黒に見えるすごいドリンクが完成した。


「ふっふっふ、できてきましたよ」

「それ、飲んだ途端、毒状態になりそうだけど大丈夫なのか……?」


「はははっ、それは飲めばすぐにわかりますよ」

 自信たっぷりに、ごくごくとサンハーヤはそれを飲みはじめ――


「うえええっ! にがっ! 地獄と煉獄れんごくを一度に口の中に流し込まれたような味がしますっ!」


 そして、ばたんと仰向けに倒れた。


「たしかに飲んだ途端にわかったけど、やっぱりろくでもないじゃないか!」

 最悪も最悪な結果になったぞ!


「これは……売れないですね……」

 目をまわしながら、サンハーヤが言った。



 サンハーヤが復活するまでの間、俺は『召喚魔法必携』の詠唱をいろいろと試してみた。


「スガラ・アルン・バトム! …………これも効果なしか」

 どうやら、詠唱をすれば必ず食べ物が出てくるわけではないらしい。冷静に考えれば当たり前か。


 一方で、「カニンタ・コヤ・キーツバスノア・エル・グル・ヴァシアファイファピ!」と詠唱すると、またタコ焼きなるものが出現した。


 ちなみに今回はソフトタイプなのか、少し表面がやわらかい。これはこれでおいしい。同じ詠唱でも、まったく同じタコ焼きではないらしい。説明書にもソフトタイプにしたと書いてあった。


 これはウィザードの同じ魔法でも、熟練者と中級者の違いだったり、体調の違いだったりで、威力に変化が出てくるようなものなんだろう。


 実はオクトパスじゃなくてタコ焼きを召喚する魔法だったのか? いや、そんな訳のわからない魔法はないだろ。料理を召喚するなんて前代未聞だ。


 そして、詠唱を見て、とあることに気づいた。


「詠唱冒頭の、カニンタ・コヤ・キーツ(以下略)の箇所が『タコ焼き』って料理の発音に似ている……」

 つまり、「タコ焼き」という料理が異世界に存在し、それを召喚する効果がオクトパス召喚の詠唱に偶然入っていたというわけか。


 オクトパス召喚で料理にもオクトパスを使ったタコ焼きが出てきたのは、一応たんなる偶然と考えておこう。でないと、スライム召喚の魔法でスライム料理が出てくるとかだったら嫌だし。


「とりあえず、タコ焼きが無限に召喚できるなら、食事には困らなくなったな」


 タコ焼きを食べながら、ほかの召喚魔法も試す。

 もしかしたら、偶発的に何か出るかもしれない。


 そして、ワームを召喚する詠唱を試した時だった。

「トットラウ・メボシーガヌ・ラート!」


 今度は透明な容器に真っ赤な色の果実みたいなものが三粒入ったのが出てきた。


=====

ご注文の品をお送りいたします。

料理名:梅干し

梅という果実を塩漬けにしたものです。産地としては梅がよく実る和歌山県などが著名です。味がしょっぱく、刺激的なため、日本の食べ物の中で外国人ウケが悪いもので上位に入ります(あとは納豆とかも慣れてない人にはきつい)。


疲労回復に効果があります。冒険をされている方にはいいアイテムなのではないでしょうか。なお、近年、はちみつ味タイプのしょっぱさひかえめのものも増えてきつつあります。


種には注意してくださいね。いきなり、がりっと噛むと歯にダメージがいきますよ。

=====


 やっぱり説明によくわからない箇所がある(ニホンとかワカヤマとか謎の地名がある)が、とにかく、これがしょっぱい食べ物であることはわかった。


「あ~、この数日食べてなかったからなかなか体力が戻りません……」

 ぐったりと倒れたままのサンハーヤ。


「なあ、梅干しって食べ物があるんだけど、食べてみる? 疲労に効くらしい」

「じゃあ、いただきます」


 俺は梅干しを一つサンハーヤの口に入れた。


「す、すっぱーっっっ!」

 倒れていたサンハーヤが跳ね起きた!


「な、なんですか、これ! 無茶苦茶、唾が出るんですけど! 『苦汁』とは違うジャンルの刺激がっっっ!」

「それは、そういう味らしい。毒じゃないから大丈夫だと思うけど……」


「水がほしいです、水、水!」

 残っていた水筒の水をサンハーヤはごくごく飲んだ。種はちゃんとそのあたりに吐き出していた。

 俺は少しずつかじってみたが、たしかにこれは強烈だ……。異世界の食べ物って恐ろしいな……。


「あ~、死ぬかと思いました……」

「タコ焼きと同じ世界のものとは思えないな。あれ……。そういや、サンハーヤ、やけに元気になってない?」

 ぐったりしていたのに、ごく普通に立っている。そんなに疲れてるようにも見えない。


「ほんとだ……回復してますね……」

 サンハーヤは腕をぐるぐるまわしたりして、コンディションを確かめていた。梅干しには薬草のような効果があるんだろうか?

なお、この世界観だと、タコヤキとかウメボシとかいった料理名(食品名?)も外国語的に聞こえているはずですが、オルフェにとってだいたいの意味合いがわかった時点で、普通の表記にしていくスタイルということにいたします。ご都合主義ですが、ご容赦ください……。

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