35 豚汁追加
サンハーヤの食べっぷりが目立つけど、一方でレトのほうも食べてないというわけではない。むしろ、ゆっくりとながら確実にライスを消費して、まだ二切れしかとんかつが減ってないのにごはんを空っぽにしていた。
「オルフェ、おかわりを所望する」
また俺の手の中にお椀が登場した。
「はい、お前もけっこう食うよな」
「育ちざかりだから」
ちょっと前に橋のたもとで自殺を考えていた人間と同じ台詞とは思えない……。もちろん今のほうがいい。育つということを考えられるほうが心理面でもいいに決まってる。
俺もおなか減ってきたので自分のとんかつを召喚して食べはじめた。たしかに品数が多くて、ちょっとしたコース料理のようなところがある。
たしかに、これ、とりあえずキャベツからいっておくかという気にはなるな。サラダみたいなものだからな。
さて、二杯目のライスをレトは味噌汁で食べはじめた。もはや、すべての素材がライスを食うための道具に見えてきた。いや、異世界ではこの米というものが小麦粉みたいなものだとすると、ライスはパンみたいなものだから、これでいいのか。
この世界でも貧乏人ほどパンで腹を満たすしかない。実際、パンは価格が定められていて、規定よりも高い値段にすることはできないようになっている。
ただ、味噌汁でライスを食べるのはちょっときついかもしれない。けっこう薄味なんだよな、これ。
「ねえ、オルフェ、この味噌汁、インパクトがない」
きっちりレトは注文をつけてくる。
「それはわかるけど、そもそもスープなんだから、そんなにインパクトがあるの、おかしいだろ」
どっちかというと、頭にそこまで残らないぐらいのほうがいいんだと思う。とんかつより味噌汁のほうを意識してしまうようではバランスに問題がある。
しかし、そこでレトがとてもいいことを言った。
「これ、豚汁に変更したらすごく食べごたえがあるかも。豚汁も豚肉だし相性もいいかも」
あっ! それはありか――
「それはありですよ! オルフェさん! やりましょう!」
サンハーヤが真っ先に賛成した!
「豚汁変更は銅貨一枚でできることにしましょう! そうしましょう! とんかつ自体は銅貨9枚で、豚汁変更だと銅貨1枚追加、つまり豚汁変更のとんかつで銀貨1枚ですね。これですね!」
「どんどん決めるなよ……。けど、それぐらいの値段が妥当な気はする」
かつ丼よりは高くしたほうがいいと思うし、ラーメン系統よりも値段が高い印象はある。召喚時の疲労具合からそのあたりは何となく類推ができる。
「オルフェ、早く豚汁を出して。豚汁を所望する」
おっと、レトに催促されてしまった。では、怒られないうちに出さないとな。
「ダルントン・ジルグルベルダーダ!」
もはや見慣れた豚汁が姿を見せる。
その具だくさんの豚汁にがっついて、またライスを食べるレト。
「うん、これは正解。いくらでもいける」
その口調に偽りはなかった。もりもりライスを食べて、時折、ご褒美のようにとんかつを入れる。そっか、とんかつってそういうポジションになるのか。
「オルフェさん、こちらにも豚汁をお願いします!」
「わかった、わかった。ていうか、俺も自分の分、出そう」
豚汁を飲んでみたけど、たしかにこれは合う。がっつりとんかつを食べる時に見事なまでにマッチしている。
もしかして、牛丼の時よりも合ってるんじゃ……? いや、難しいところだな。どっちもどっちだな。しかし、どっちも豚汁とよく合ってることは間違いない。
結局、サンハーヤは四杯ライスを食べた。
食べすぎだろと思ったけど、俺も三杯、レトも三杯食べたので大差はないかもしれない。
「これで銀貨1枚ならコストパフォーマンス、悪くないな」
「ですね、冒険者さんにとってはいいかもしれませんね」
食べ終えた後、俺たちは応接間で休憩した。食事したことで休憩が必要というのも変な話だな……。
●
こうして食堂のメニューはかなりバージョンアップすることになった。
=====
メニュー
●麺類
ショウユラーメン 銅貨5枚
シオラーメン 銅貨5枚
トンコツラーメン 銅貨5枚
ミソラーメン 銅貨6枚
ウドン 銅貨3枚
●ギョウザ
ギョウザ 銅貨3枚
スイギョウザ 銅貨3枚
ミソラーメンとギョウザのセット 銅貨8枚
他のラーメンとギョウザのセット 銅貨7枚
●ごはんものなど
ギュウドン 銅貨4枚
ギュウドン・トンジルセット 銅貨6枚
カツドン 銅貨6枚
カツドン・トンジルセット 銅貨8枚
カレー 銅貨6枚
トンカツ 銅貨9枚
(ミソシル付き、ミソシル・ライスお代わり無料、トンジル変更銅貨1枚)
タコヤキ 銅貨4枚
トンジル 銅貨3枚
ウメボシ(3ヶ) 銅貨2枚
●甘味
ゼンザイ 銅貨5枚
アマザケ 銅貨3枚
=====
最初はとんかつにちょっと高いなという顔でメニューを見る冒険者もいたが、すぐにライスお代わり無料というところに気づいて、目の色を変えた。
「よーし! 俺なら十杯は食えるぜ!」
「なら、どれだけ食えるか競争だな!」
あっ、やっぱりこんな声が聞こえてくるな……。これ、魔法で召喚できなかったら絶対にできないサービスだな……。
その日は、トンジルという値段の高いメニューも入ったせいか、過去最高の売り上げを記録した。




