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サモナーさんの召喚するだけ3秒間クッキング ~大繁盛! ダンジョン前食堂~  作者: 森田季節
食堂ダンジョン前に開店!

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34 お代わり発動!

 サンハーヤは結局キャベツだけでライスの大半を食べ終えていた。ある意味、俺の想定外の事態だった。だって、キャベツだぞ?


「いやあ、実に素晴らしい玄関でした」

 あ、その比喩表現、気に入ってるから、しばらく使うんだな。


「しかし、とんかつと言うのに、かつにまだ進んでいないですからね。そちらも味わわないといけません」


 そう、やっと主役のほうに向かえるのだ。


 一方、レトはかつ一切れを慎重に確認している。

「こういった料理はまったくの初見ではない。仕えていた家の食卓で見たこともある」


「うん、俺もそう感じた。これ、似た料理はあるよな」

 小麦粉をまぶして油で揚げる調理法自体はごく普通にある。古い肉でも比較的美味しく食べられるので、そういう技術が生まれてもおかしくはない。ただし、それはビーフカットレット、あくまでもメインは牛肉だ。これは豚肉である。


 ビーフカットレットもものすごく安い庶民の料理というわけでもない。肉を揚げるわけだから、貧乏すぎると食べられない。それこそレトはなかなかありつけなかったんじゃないか。


 しかし、どうもビーフカットレットと、かつは親子関係にはあるものの(発音もどことなく近い。というか、おそらくカットレットが訛ったものが、かつではないか)、雰囲気がかなり違うのだ。


 それは断面を見ればわかる。衣が薄い。ちょっとかつをコーティングすればいいというだけだ。

 この世界のかつ的なものが何枚も上着を着こんでいる男とすると、このかつはまるで透けるような(さすがにかつが透けることはないけど)艶めかしい夜着一枚の女性みたいなのだ。

 けど、それで心細そうという印象はない。むしろ、この衣こそ衣装だというように似合っている。


「これはレトから」

 レトがまずはとんかつをそのまま食べる。


 その瞬間、レトの顔に満面の笑みが浮かんだ。

 なんて貴重な一瞬だと思った。


「すごい……。レト、本当に至福……死にそう……」

「いや、死ぬなよ!? 死んだらダメだからな!?」

「最期の食事はとんかつがいい……」

「なんか縁起悪い発言が多いな!」


 とにかく、すごくいい評価だと考えよう。

 なお、サンハーヤは目をつぶって「くぅ~! 生きてるって感じですね~!」と手をぷるぷるふるわせていた。感動表現が派手すぎる。


「オルフェさん、これは肉ですよ。肉なんですよ!」

「うん、見ればわかる。これが野菜に見える奴はいない」

「肉を食ってると生きてるって気持ちになりませんか? 野菜よりそうなりませんか?」

「まあ、なんとなくわかる……」


 サンハーヤはここでソースに手をかけた。さっきからソースのビンが目立ってたんだよな。

 おそらく、このソースをかけるのがデフォルトの食べ方と思われる。


 そして、また一口。

「これは勝ったな! 勝ちましたね!」

 もう、サンハーヤのコメントがだんだんおかしなほうに来たな!


「オルフェさん、ソースで栄光がつかめました! とんかつにはソースです! この子たちは兄弟ですよ! 血がつながってますよ!」

 もはや、血がつながってるわけないだろとかツッコミ入れる気すらおきなかった。それと俺も多少は理解できるんだよな。ソースに異常に合うのは間違いない。それを前提にしてとんかつを作ったのではと思うほどだ。


 その間にレトもさらにとんかつを食べ進める。レトはサンハーヤと比べるとお上品というか、少しずつゆっくりと味わうように食べる。

「レト、この料理、かつ丼よりなんかリッチな気がする。手がかかっているというか。いろんなお皿があって、豪華」


「それはわかる気がするな。実際、こっちのほうが召喚にもちょっと体力を使うんだ」

 かつ丼はガツガツかっ込んで食べるような豪快な料理って部分があった。


 それと比べると、このとんかつという料理はレトがゆっくり食べているように、とんかつを一切れ一切れ大切に噛み締めるように食べるべきだと思うのだ。


 もっとも、サンハーヤみたいに箸を動かしまくるのも、それはそれで召喚者として見ていて気持ちがいいけどな。


「この茶色いの、お塩ですね。そして、お塩でも超いいですよ! ほんのちょっぴり苦みがあるお塩のせいで、肉の甘さがとんでもなく引き出されてるんですよ!」

 サンハーヤは試せるものはとにかく徹底的に試す。そのチャレンジングな精神のおかげで何か知らないものが引き出せそうなのでありがたい。


「そうだ、そうだ、あとはこっちのスープですね」

「それは味噌汁って言うらしいな。味噌っていう調味料を使ったスープだ。味噌ってやけに汎用性が高いな」


 ずずずっと口をつけて味噌汁を飲んで、サンハーヤはふうと一息ついた。

「これはやさしい系の味ですね。味噌ラーメンのあの味噌とはまったく違うものです。冒険者パーティーで言うと、プリーストですね」

「それはわかる。たしかに味噌汁はそういうキャラだ」


 これでサンハーヤは一通り全部味わったことになると思うが、そこでライスがちょうど空になっていた。そりゃ、キャベツだけでけっこう食べてたからな。キャベツだけでパンを食うのはほぼ無理なので、ライスはすごい。いや、キャベツがすごいのか。


 でも、まだ試していないネタがあった。


「オルフェさん、ここであれをやってもいいですか?」

「あれって何だ?」

「お代わりですよ!」


 なるほど、ライスと味噌汁はお代わり自由と説明書にも書いてある。

 自由と言うからには自由なんだろうけど、この場合、どうなるんだ?

 空の器にまたライスが載るのか?


「俺もどうなるかわからん。サンハーヤがやってくれ」

「はい、やってみます! お代わり!」


 すると、なぜか俺の手の中に新しいライスが出現した。

 俺の手の中に出てくるシステムか!


 俺はそのライスをサンハーヤのテーブルに置いた。

「やったー! 二杯目もしっかり食べますよ!」

 肉を一切れでサンハーヤはライスの四分の一ぐらいは削っていく。

 これ、ワンチャンさらにもう一杯頼む可能性あるな。


 しかし、お代わり自由の意味がちょっとわかった。

 これ、ライスが肉の量からしては想像できないほど進むぞ。


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