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サモナーさんの召喚するだけ3秒間クッキング ~大繁盛! ダンジョン前食堂~  作者: 森田季節
食堂ダンジョン前に開店!

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33/51

33 キャベツは飲み物

 俺はとんかつを召喚してみた。


 常識的に考えれば、かつ丼の上に乗っている、あの衣で揚げた豚肉に卵をかけたような料理だと考えるだろう。おれも最初はそのつもりだった。


 しかし、その形状はかなり違うものだったのだ。


 サンハーヤも「あれれ?」という顔をしていた。


「卵の要素がないですね。あの卵が半熟すぎると、嫌がる人もいそうでしたんで、それはそれでいいんですけど」

「そうなんだ。溶いた卵を入れた部分が完全に消えてるんだ」

「お皿にかつがあって、キャベツがあって、ライスとこの変なスープがついて……。それと、なんかソースまで出てきてますね……。あと、この小さな壺は何ですか……? あと、この緑色の粉が入った小皿は何ですか?」


「どうも、『とんかつ』だけで独立した料理名になってるらしいんだ」

 豚に衣をつけて揚げたものを異世界でとんかつと呼ぶのは、ほぼ間違いのないことだと思う。ただ、どうやらバックバンドのように、周囲のもろもろのものがついてきても、とんかつと呼ぶらしい。


 詳しいことは説明書を見てみればわかる。


=====

ご注文の品をお送りいたします。

料理名:とんかつ(定食)

純粋なとんかつだけが出てきても食事にならないかと思うので、定食スタイルにしました。

とんかつ・キャベツ・ライス・味噌汁です。

サクサクの衣にまとわれたかつは脂の甘さがしみる極上の品です。ソースもまた絶品。かつにかけて、そこにごはんを入れればその完璧さにうなるでしょう。あるいは塩をつけてというのもいいかも。お茶の入った塩を用意しました。

キャベツには特製ドレッシングを壺に入れています。ひしゃくですくって、かけて召し上がれ。ツウはかつにかけるというのもありかも!?

※なお、ライス、味噌汁はお代わり自由です。

=====


 サンハーヤとレトは早速その内容を熟読していた。


「レトも気になる。もう一食出して」

「わかった。ちょっと待ってくれ。これ、そこそこ体力使う召喚魔法なんだ」


 俺は少し心を落ち着けてから、詠唱を行った。

 きっと、この料理がある世界では値段が高いのだと思う。会席料理を作る時にやたらと体力を使ったことからの類推だ。お代わり自由という謎のルールがあるしな……。


 レトのほうにもとんかつが揃ったので、サンハーヤも箸を動かす。そう、すでにサンハーヤは箸をマスターしているのだ。ちゃんとレトを待っていたのは偉い。


「早速、このかつをいただきましょうと言いたいところですが、ここはキャベツからいきますよ」

 そう言って壺を開けて、「ひしゃく」という木ででできた液体をちょっと入れる道具を引っ張り上げる。

 このあたりの手際もやけに慣れてきてるんだよな……。だんだんとサンハーヤが異世界人に見えてきた。


「サンハーヤ、かつからガツンと行かないの? この料理のメインは間違いなく、かつのはず」

 レトが不思議な顔をしている。


「たしかにキャベツは添え物です――が、だからこそ、このキャベツがおいしいかどうかでこの料理全体の質がわかると思うんです。キャベツは不味いけど、メインのかつだけがおいしいなどということはありません。玄関はとても汚いけど、応接間だけはたいそう立派な家なんてものがないようなものです」


 なんか、深いことを言ってる気がする!?

 たしかにそういうことはあるかもしれない……。キャベツはまさしく家における玄関。そこからチェックをしてやろうというのは正しいことなんじゃないか……?


「あと、野菜から食べると太りづらくなるらしいですよ。私は太らない体質なんで問題ないですが」

 しょうもない補足でかえって安っぽくなったな……。


 そして、サンハーヤはドレッシングをキャベツにかける。ほぼ透明だけど、どことなく茶色っぽくもある。油の量が多いのか。


「では、いきます!」

 サンハーヤの箸がキャベツに向かう。そして口に運ぶ。


「はうっ!」

 サンハーヤの目になぜか涙が浮かんでいる。そんなに異世界のドレッシングが合わなかったのか? いや、違う。この顔は――


「キャベツが! キャベツがこんなにおいしいなんて知りませんでした!」


 レトもそのサンハーヤにつられてキャベツを食べて、「おお!」と声を上げていた。


「キャベツとはもっとぱさついたものだと思っていた。こんなにジューシーだなんて……」

「これは水ですよ! もはや飲み物ですよ!」


「サンハーヤ、それはいくらなんでもおおげさだとは思うけど、その気持ちはわからんでもない……」

 俺たちが安い店で食うキャベツは古くなってるのか、とにかくぱさついているのだ。人によっては「紙を噛んでるみたいだ」と言った奴までいる。それもわからなくもない。


 しかし、新鮮なキャベツはまだまだ水分を含んでいて、適度なシャキシャキ感がある。甘さみたいなものもある。そこに何の風味かわからないけど、ドレッシングをかけると一気に引き立つ。


「オルフェさん、すごいことに気づきました! このキャベツだけでライスが食べられちゃいますよ!」

 本当にサンハーヤはライスをがっついている。それはパフォーマンスじゃなくてガチのやつだった。


 俺もとんかつは美味いと思ってたけど、やっぱりほかの人間にも食べさせてみるもんだな。キャベツのポテンシャルにここまで気づいてはなかった。


 本当にサンハーヤはそのドレッシングがかかっただけの細く線のように切ったキャベツをむしゃむしゃ食べていた。決して貧乏人のみみっちい食卓の顔じゃない。心から美味いと感じての顔だ。


「サンハーヤのペースだとキャベツだけでライスを一杯目食べ終えちゃうかも」

 淡々とレトが観察して言った。マジでそうなりそうだった。


 しかし、まだキャベツだけなのにこの調子だったら、メインのとんかつではどうなってしまうんだ……!?

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