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サモナーさんの召喚するだけ3秒間クッキング ~大繁盛! ダンジョン前食堂~  作者: 森田季節
食堂ダンジョン前に開店!

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32 面白い名前(サンハーヤの感想です)

 その夜、俺のおなかは順調にすいていた。


 料理を召喚しているだけだから楽な仕事だろうと思われるかもしれないが、召喚魔法には違いはないので、それによる疲労感ぐらいはあるのだ。まして、召喚回数も十回や二十回ではない。

 なので、心地よい疲労感と空腹感をちゃんと体が認識しているのだ。


 メニューにある料理を、注文が来るたびにひたすら召喚する。

 日を重ねるごとに注文も増えている気がする。


 そして、最後のお客さんが「今日もうまかったぜ! かつ丼をほかの町にも布教すると決めた!」と言って出ていった。

 王都にあることが幸いしたのか、じわりじわりとほかの町でも「オルフェ食堂」の名前が広まりつつあるらしいのだ。口コミのすごさを感じずにはいられない。


 お客さんのいない食堂のテーブルをサンハーヤとレトとが一つ一つ拭いていく。さらにホウキでゴミも取っていく。

 この片付けの時間、俺は食器を「厨房」の隅に集める。明日になったら消えてくれはするけど、落としたりすれば割れるし、小食のお客さんもいるから食べ残しもあるし、何もかもほったらかしでよいという訳にもいかない。


 日によって、俺が先に終わるか、サンハーヤとレトのほうが先に終わるかはまちまちだけど、今日は俺が先に終わった。


「まだ拭いてないテーブルってあるか?」

「もう、ゆっくりしていてくれていいですよー。おおかた終わってますし」


 お言葉に甘えて、店の椅子の一つに座っていると、たしかにそう時間を置かずにサンハーヤとレトが戻ってきた。


「お疲れ様でした! 今日も一日中、大盛況でしたね!」

 まるで働く前かっていうぐらいのサンハーヤの元気な笑顔を見ると、俺も癒される。こういう癒しもあるのだなとサンハーヤを見ていて思う。


「そうだな、順調すぎて気味が悪いぐらいだな……。もうちょっと体力が続けば夜も営業してもいいんだけど、まあ、でも儲かってはいるから、その意味もないか」

 睡眠時間削ることになりそうだし、昼のみの営業は守っていくべきだろう。いいバイトが入りまくるとかであれば別だけど。


「レトの意見としてはむしろ昼の戦力増強をお願いしたい……」

 一方でレトのほうは少し疲労の色が見える。


「店の大きさを考えても、もう一人、客対応のできる人間がいてもいいかもしれない……。それにサンハーヤが風邪をひくということだってあるかもしれない」

 サンハーヤが風邪ってそんなことありうるのだろうか。

「もっとも、サンハーヤが風邪をひくとはまずないとは思っているが」

「レトもそう思ってるのかよ!」

 キャラ的にそういうのとは無縁に見えるんだよな。エルフって基本的に健康体ってイメージがあるし。


「ははは! 私だって風邪をひく時ぐらい――――あれ……? 記憶に全然ないですね……」

 本当にないのか。いや、健康でなによりなのかもしれない。病気で苦しむよりはずっといい。


「仮に体調が悪くなったとしても、そんな時は『苦汁』を飲みますから大丈夫ですよ!」

「あれを飲むぐらいならむしろ積極的に体調のコントロールに気をつける……」

 どっちかというと、とどめの一撃的なパワーがあるからな。


 とはいえ、たしかに三人で回し続けるというのはリスクもある。

レトが体調不良になったら、一気につっかえるだろうしな。いくらサンハーヤが慣れていても、客のほうが多すぎる。普通の規模のレストランの客数じゃないのだ。俺が召喚だけで料理を作ってしまうので、客の待ち時間が短くて、回転率がよすぎるという面もある。


 しかし、誰でもいいから雇うというわけにもいかないのだ。同じ店で働くことになれば、召喚の秘密を知られることはほぼ確実だ。


 法的に問題はなくても、このことが広まると、何らかのリスクはある。まず、怪しい魔法を使っているとして客足が遠のくかもしれないし、原価がかかってないからもっと安くしろと言ってこられるかもしれない。


 少なくとも、わざわざそのリスクをかぶるようなことは避けたいところだ。


 でも、その話は今後の課題ということになりそうだ。


 すごく、サンハーヤが目を輝かせている。

「ほら、本日の営業も終わったことですし~、早く新しい料理を出してくださいよ! まだ何かあるって朝に聞きましたよ!」

「サンハーヤ、本当によく食べるよな……。いくらなんでも太るんじゃないか……?」

「そこはほら、私、食べても太らない体質なんで」

 出たな、同性が聞いたらイラっとする言葉上位のやつ。


「ま、まあ……私の場合は長らくまともに食べれてなかっただけという面も大きいんですがね……」

 そこで途端に弱気になるサンハーヤ。まあ、でも、それで間違ってないんだろうな……。


「わかった。じゃあ、『かつ』の原型とも言える料理を見せてやるよ。その名は、『とんかつ』だ」


「とんかつ……ですか」

 サンハーヤがなぜか面白いものを聞いた顔になる。


「響きがなんかおかしいですね、とんかつって。どことなく、間の抜けた感じすらあります」

「お前、とんかつに対して失礼だぞ……。けど、実は俺も最初そう感じた」


 俺が召喚する料理は実は微妙に内容が異なることがある。完全に同じものが複製されるのではない。

 いわば「A店のカレー」ががずっと出ていたけど、発音が微妙に違うと「B店のカレー」が出てくることもある。まあ、あまり味が違うと、常連客が混乱するだろうし、同じものになるよう気をつけている。


 その場合、召喚したものが違ってるかどうかは説明書を読むとわかる。少しだけ文章が違うことがあるのだ。


 で、かつ丼を召喚する時、バージョンの違う説明書が出たことがあった、

 そこには「かつ」ではなく「とんかつ」という表現が入っていたのだ。


 とにかく、召喚してみようか。

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