31 箸が使えるようになりました
俺は「ライス」を召喚した。
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ご注文の品をお送りいたします。
料理名:ライス
いわゆる小ライスとか大ライスとかいった名前で、おしながきにある、あのライスです。ごはんという言葉だと、食事一般を意味してしまいますし、料理名としてライスのほうがよりはっきりしているので、ライスという表記に拠ることにしました。
つまり、白米のことです。店によっては黄色いたくあんがついてたりしますが、今回はつけません。
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これに関しては、カレーライスという料理を知った時に、このライスの存在も認識できた。まあ、丼物のメニューを召喚したりカレーを出して、ライス部分だけ取っても用意はできるけど、なんとなくもったいない気がする。
いくら無料で出せるといっても、残すと罪悪感があるんだよな。
さて、このライスの上にさっきの生醤油につかって少しやわらかくなったかき揚げを載せる。
そして、ライスと一緒に頬張る。
おお! ライスがしっかりとかき揚げを受け止めてくれている! ライスの抜群の安定感!
もはやライスは冒険者パーティーにおける賢者的存在ではないだろうか。確実に回復魔法をかけてくれるし、敵の数が多ければきっちり攻撃に特化した魔法も使ってくれる。
しかし、だんだんと白米というものの特性がわかってきたぞ。
丼物のように、上に何か載せられることでこの食材は真価を発揮するのだ。ほかにも真価を発揮する場所はあるのかもしれないが、丼物というジャンルが解答の一つであることは間違いないだろう。
かなりおなかいっぱいなのに、かき揚げ丼をがつがつ食べてしまった。これは、あれだな、まかないの味っぽさもあるな。残ったかき揚げをライスに載せてかっこむと、つつましいけど、確かな幸せを感じる。
「よし、かき揚げ丼もメニューに加えよう。かつ丼、うどん、かき揚げ、とり天。かなりラインナップが増えたな」
まだ試したいネタはあるんだけど、これ以上食べると胃袋が破裂しかねない。また、明日だな……。
で、でも、試すだけならいいか。
次のフィールドに進むためにもいろいろやってみよう。
かつ丼の「かつ」という言葉にはまだ未知の可能性がある。
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翌朝、各種メニューをサンハーヤとレトに紹介した。
もちろん、絶賛された。
「とり天・かき揚げうどんがおいしいです! おいしいですよ! この腰の強いシコシコした麺にとり天の鶏肉の甘味がほんのり合わさって、素晴らしい! これは暑い時期になんか食べたら最高じゃないですかね!」
つるつるつるとサンハーヤはうどんをすすっていく。
「たしかに、これから暑くなるし、それは悪くない案。でも、やっぱりかつ丼は外せない。どれだけ深いダンジョンに潜った冒険者もこれを食べれば、その憂いをすべて忘れられると思う。それほどまでに完璧な安定感がある。たまに、かつのサクサクした部分もあって、それがまた面白い。どんな喜劇よりも面白い」
レトは感情を表に出しはしないのだけど、とにかくおいしいということだけは全力で伝わってくる。なにせ、一日何も食べてない人間みたいに、がっつり食らいついているのだから。
「それと、サンハーヤ、お前、いつのまに、その技術をマスターしたんだ……?」
さりげなく、衝撃的なことが行われていた。
「はい? いったい何がですか……?」
これはとぼけてるんだよな。まさか、素でやっているなんてことはないよな……?
「サンハーヤ、箸でうどんをつるつる引っ張り上げて食べてるけど、夜に練習してたのか?」
そうなのだ。サンハーヤは軽々と箸を使って、うどんを食べているし、とり天も当たり前のようにつかんでいる。まるで自分の故郷では毎日使ってましたというほどに自然に。
たしかに召喚した食器類は翌日になるまで消えずに残っている(どうやら食べた料理に関しては栄養になっているらしい。でないと、召喚したものばかり食べてた俺たちは飢えて死んでいる)。
よって、料理の召喚と同時に出てきた箸も残るので、それで練習することは可能である。出た箸の数も膨大なものだから、俺の目を盗んで隠れた特訓だって問題なくできるだろう。
「え、私が箸を…………? うあああああっ! 本当だーっ!」
マジかよ! それって無意識に使えてるものなの!? そんな奇跡みたいなことってありうるの!?
「料理を本来の食べ方で味わいたい、そのサンハーヤの強い気持ちが箸を使えるようにしたのだと思う」
「レト、感動的にまとめようとしてるけど、それはいくらなんでも無理がないか」
「しかし、その奇跡は我々の眼前で行われてしまっている。もはや、その奇跡を認めていくしかない」
サンハーヤは「すごいですよ! これ、家にあった豆まで一粒ずつつまめますよー!」とさらなる技術のアピールをしていた。食への欲求に不可能はないのか。
「ま、まあ……本来はその箸で食べるものだし、そうであるべきなのかもな……」
しかし、朝からレトがかつ丼を食べている姿を見たせいで、胃もたれを感じる。これは朝に見る食べ物ではないかもしれない。
「あと、かき揚げ丼もできるんだけど食べてみるか? さすがに昼にしたほうがいいか」
「じゃあ、半ライスにすればいい」
レトが専門用語っぽく言った。
どうも、じわじわと異世界の概念が家族の中で共有されている気がするぞ。
かき揚げ丼も好評で、お店のメニューに並ぶことは確定した。
「大充実ですね。これは食堂はさらなる飛躍を遂げますよ!」
「でも、実はまだまだメニューを増やせそうなんだけど――俺が胃もたれしそうだから、夜にするな」




