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3 タコ焼きを召喚しました

「カニンタ・コヤ・キーツバスノア・エル・グル・ヴァシアファイファピ」


 すると――俺の目の前の地べたが突然まばゆく発光した!


「まさか、召喚魔法が!? いや、魔法力0で大型オクトパスなんて絶対に出せない!」

 奇跡が起こって召喚できたかもという希望より、もしもそんなのが出てきたら大惨事になりかねないぞという恐怖のほうが大きかった。


 こんな駆け出し冒険者しか来ない場所でそんなのが出てきて、俺が制御できなかったら、ほかの冒険者まで襲いかねない!


 最悪、死傷者が出て、禁固三百年なんて罪を命じられるかも……。


 しかし、光のサイズはとうてい、大型オクトパスが出てくるものじゃない。どうやら、助かったか?


 光が消えたあとに残っていたのは――

 球体をした謎の料理だった。


 湯気をたてているし、できたてなのだろうか。しかし、怪しい生物みたいに球体の上部に乗っている何者かがゆらゆら揺れている。その下にはどす黒いソースらしきものが塗られていた。


 というか、白い容器と一緒に出てきたが、持ってみると、やけに軽くてもろそうだ。いったい、材質はなんなんだ?


 と、容器の下に何か紙が置いてあるのに気づいた。


=====

ご注文の品をお送りいたします。

料理名:タコ焼き

小麦粉等を溶いてできた生地の中に小さく切ったタコ、つまりオクトパスを入れ、球形に焼いたものです。今回は紅ショウガも少々加えました。味はソースとかつお節にしました。ゆらゆら揺れているものはかつお節、つまり魚由来の加工品ですので、生物ではありません。あつあつの証です。備え付けのつまようじというスティックでご安心してお召し上がりください。


タコ焼きには、ボール的な形状が割とはっきりして外側がカリっとしてるハードタイプ、かなりやわらかくてつまようじで刺しても落ちそうになるソフトタイプがありますが、今回はその中間的なものを用意しました。


なお、最近ではタコ焼き専用の粉もスーパーで売っています。関西ではホームパーティーとして、タコ焼きパーティーなるものをすることもあるそうです。その場合、タコの代わりにハムやチーズ、場合によってはチョコレートを入れることもあります。

=====


 説明の内容は地名など、よくわからない部分もあるが、タコというのがオクトパスであるということがわかった。オクトパスを焼いて入れた料理らしい。


 しかし、オクトパスなんて食べるのか……? 大丈夫か……?

 正直あまり食べたいとは思えないな……。毒ではないらしいけど、得たいが知れなすぎる……。


 それ以前にどうして、こんなものを俺は出してしまったんだ……?

 召喚魔法はステータス上、唱えようがないはずなんだが。このわけわからない料理も捨てるか。いや、ここにゴミとして捨てるのもどうかと思う。サモナーとしてそれは無責任な態度じゃないだろうか。


 そのタコ焼きの容器を持ちつつ、俺は近くをさまよった。

 誰か、おなかをすかせてる奴でもいないかな。冒険者なら、豪傑肌の人間だっているだろうし。そういう人が見つからなかったら、土にでも埋めるか……。


 ぶらぶらと付近を徘徊したが、大半が多人数でグループを作ってる奴なので、話しかけづらい。ううん、ソロプレイヤーはいないかな……。


 歩いているうちに洞窟からかなり離れたところまで来てしまった。人気もない。

 もう、引き返さないと意味がないかな。でも、こういうところのほうがソロプレイヤーはいるかも――――あっ!


 ぐったりと木の根元に横たわっているエルフの「少女」を見つけた。年は俺より二つほど下ってあたりだろうか。


 本当に少女の年齢なのかはエルフ族だとわからないけど。最低でも、俺よりは年上だと思う。肌が黒っぽいのと髪の毛も銀髪なのとで、エルフの中でもダークエルフと判断がついた。


 生きてるか死んでるか遠目にはわからない。だからこそ、放っておけなかった。


「大丈夫か!」

 俺はタコ焼きを持ちながら近づく。


 たまに冒険者として食っていけなくなった人間がダンジョン付近で行き倒れるという話は聞いたことがあった。

 実力がないとクビになったあとに、行く当てもなく、ダンジョン付近で声をかけてくれるメンバーを待つしかなくなる奴がいるとか。


 ダークエルフは顔をふらふらと上げた。生きてはいるらしい。よかった。


「おい、寝てるだけならいいけど、このへんはそれなりに物騒だぞ。ダンジョンの外でもモンスターが出る時は出るし」

「た、助けて……。ここ最近、ほとんど何も食べてないんです……」

 かなり本格的に飢えているらしい。外傷はどうやらないようだ。


「行商をしていたんですが、あまりにもまったく売れなくて……お金が尽きて……」

「わかったから。今、何か食べさせ――」


 俺は自分の持っているタコ焼きというものに目がいった。


「なんか、おいしそうなにおいがします……」

 ダークエルフの目もそちらに注がれる。

「これ、刻んだオクトパスを入れてるらしいんだけど、それでもいいか?」

 エルフが海の物を好んで食べるとは思えないが。


「私、行商人をやってるぐらいなんで、食事は割といろいろ試すほうなんです。お願いします……お恵みを……」


 俺としては願ったりかなったりだったけど、こういうのっていきなり食べて大丈夫なのかな。


「いいけど、飢えてる時はゆっくり食べないとショックで死ぬっていうぞ……」

「それは大丈夫です。ダークエルフの胃は普通の人間より頑丈ですから」


 それを信じることにしよう。少なくともボール状のものが十個入ってるわけだし、一つや二つぐらいならどうということもないだろう。


 その容器を差し出す。そういえば、右隅に細いスティックが刺さっているものがある。おそらく、これで食べるんだろう。たしか、「つまようじ」というものだな。説明書にあった。


 ダークエルフは一つ、タコ焼きを口に入れた。


「あつあつ……けっこうあついでふね……」

「そういえば、湯気が出てたな……」


 こっちはというと、味の反応のほうが気になった。なにせ、味の想像ができないのだ。


 しばらく、咀嚼を繰り返したあと、ごくりとダークエルフは飲み込んだ。


「ど、どうだった……?」


「はっきりと言いますよ」

「うん、別に俺が作ったもんじゃなくて、召喚しただけのものだし、いくらでもディスってくれ」


「無茶苦茶うまいですっ!!!!!」


 そう答えると、早速二個目を食べだす彼女。


「あつあつで、中はとろとろ。そこにオクトパスのほどよい弾力性、ソースの味も口に広がって、これ、これは、これは最高にいいです!」

「なんか、俺もほしくなってきたな……」


 スティックはもう一つあったので、それを逆側の一個を口に入れる。


「おお! これは文句なしにうまい! それと、なぜか屋外で食べるとよりうまく感じる気がするっ!」

「わかります! これはお店より、外で食べたい味です!」


 瞬く間に、タコ焼きは0個になった。


次は夜遅くに更新できればしたいと思っています。

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