27 デザートを増やしたい
ぜんざいを自宅で振る舞ったところ、サンハーヤもレトも絶賛してくれた。
「冬なんかに飲んだら最高でしょうね! 見た目の色以外は完璧じゃないでしょうか!」
「おいしい。見た目の色以外はとっても満足してる」
ああ、うん……。色はダメなんだな。かといって、小麦粉入れて白くするわけにもいかないしな。原材料の色なので、しょうがない。
「これ、もうちょっとピンク色にできないんですかね?」
「落ち着け。それはそれで不気味だぞ」
サンハーヤの発案は全体的にアグレッシブなのですべてを受け入れると、だいたい行き過ぎになる。どこかでとどめておく必要性がある。
「じゃあ、これでお店のデザート枠も埋まりますね。素晴らしいことです」
「うん、それはそうなんだけどな……。本音を言うともうちょっと品数がほしいんだよな」
デザートにぽつんと一種類だけあるというのは、いまいち不格好である。できれば、二つ以上、それっぽいものがほしい。
「デザートぐらい、焼き菓子を買ってきて、売ればいい。レトはそう思う」
なるほど、レトの意見ももっともに聞こえもする。ビスケット的なものは、王都でも昔から売られている。
鉄板で焼いた、卵が入った小麦生地をぐるぐる巻いたものは昔からそれ専用の商人が売っている。名前はなんだったっけ、ウーヴリだったかな。
ほかにもビスケットとか、ウエハースとか、なくはないのだ。
ただ、問題もなくはない。主に客層的な問題で。
「そういうの、子供が食べるものだとか言って冒険者ってあんまり食わない印象があるんだよな……」
冒険者の世界は、もちろん女の冒険者もいるものの、荒事が多い男中心の場所だ。男の甘党だって絶対にいるはずなんだが、あんまり冒険者はそういうお菓子を食べない印象がある。
ていうか、酒場でも「お前、あんなガキみたいなもん食ってんのかよ!」「なんだと!」みたいなケンカを見たことはある。
「あと、その日のダンジョン探索が終わったあとに、ビスケット食べようぜってならない気がするんだよな……。あっ、レトの意見を全否定するつもりはないんだけど……」
「別にいい。気にしてない。冒険者、面倒くさい生き物」
俺もそう思う。冒険者になろうとしてた自分が思うのもおかしいけど。
「そういえば、お酒を出してほしいっていう要望もたくさん聞きますよね。具体的には、一日に二件ぐらいは聞きます」
「冒険者たちだもんな……。でも、酒は置かない。理由の一つは、酒税がかかって鬱陶しいから」
そう、お酒を店舗で売ると、国は酒税を要求してくるのだ。そりゃ、こんな確実に税金取れるものに課税しないわけないよな。なので、アルコールをちょっとだけ置きますというのは、あんまりうまみがない。
「もう一つ、営業時間伸びて大変そうだから」
酒は基本的には仕事が終わって飲むものだ。朝から寄ってる奴もいるけど、それはまた別の話。となると、酒を置いたらもっと遅くまで営業してくれと絶対言われる。そうなると、結局アルバイトを雇う必要とか出てきて、大変なんだよな。
いや、こちとらメニューをことごとく召喚して出してるんだから、営業時間伸ばせばさらに利益も出るかもだけど、それで家族とのだんらんの時間がとれなくなるのは、本末転倒だとは思う。
「最後に、酒に酔って暴れる奴がいるかもしれないからだ」
冒険者なんてただでさえ血の気が多いというか、戦うこと自体が仕事なんだから、そこで酒が入ったら、そりゃ、危ないことになる。壁に穴が空いてる酒場なんて何度も見てきた。罰金は払わせてるんだろうけど、それでもどうかなあとは思う。
「以上により、お酒は置きたくない」
「うん、わかった」
こくこく、レトがうなずく。レトは論理的思考が得意で、サンハーヤは直感が冴えてるので、二人と話してると、結果的にこっちの説明も鍛えられるところがある。
「は~、デザートになるお酒なんてあったらちょうどいいですよね。具体的に言うとアルコールっぽい名前の料理です。あくまで酒と言い張りつつ、甘いものを楽しめる的な~」
サンハーヤがまた適当なことを言った。でも、発想は悪くない。
なるほど、それなら冒険者のプライドとかも傷つかないってことか。
「だけど、それって具体的にどういうものなんだ?」
「そんなのわかりませんけど、案外、これまで召喚してきたものの中にあるんじゃないですか? 会席出すまでにとにかくいろんな詠唱を試してみたじゃないですか」
たしかに出た料理をすべてちゃんと調査したわけではないから、使えそうな料理が残っている可能性はありうる。全部ゆっくり食べる余裕もなかったのだ。腹いっぱいだろうと詠唱は試さないといけなかったしな。
「そうだな、ちょっとじっくり調査してみるかな」
会席を作る時は相当な苦労と疲労を伴ったし、その前の特訓や試行錯誤もつらかったけど、おかげで召喚できるものの数だけは増えている。
手あたり次第、メニューには加えられないし、まだこの世界の人間には早すぎると判断したものも中には混じっていたが(たとえば、塩辛とか)、なかにはこれはラインナップに入れてOKというものもあるかもしれない。
自分が作っておいたノートをもとに一つ一つ詠唱を行って、味やこの世界で受け入れられそうかなどを見ていく。
「エイヒレか……。干した魚ぐらいならみんな食べるだろうけど、これ、酒のつまみっぽいな……。ていうか、説明書にそう書いてあるな」
「かつ丼か、これはいけるぞ。絶対冒険者が好きそうなもんだ! でも、ボリューム多すぎて今は食えそうにないから後日調査だな……。腹が減ってる時に出さないと真価がわからんな」
で、そうやっているうちに画期的かもしれないものにぶち当たった。
「トルンエアマ・ザーケン・ドルトヴラ・ケール!」
出てきたのは、分厚い陶器製のコップに入った、白濁した飲み物だった。
このドリンク、やけに甘そうだな……。




